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#幕間2:幕間ニュース 静かな市場戦争:前編



✦✦✦《魔王市場速報》 ✦✦✦


 魔王取引所の中央広場。

 闇夜に浮かぶ魔導スクリーンが、ちらちらと広場を照らしている。

 

 ニュース番組『魔導スクリーンLIVE』の音楽が鳴った途端、ざわめきが溶け、人々の目が吸い寄せられた。


「こんばんは……『魔導スクリーンLIVE』へ、ようこそ」

 

 リュシア・ファーレンが、ふわりと笑った。

 

「魔王市場の動きを伝える情報番組です。キャスターを務めます」


「解説を務めるのは、魔王市場アナリストのバルゴ・ストライダーです」


 リュシアが柔らかく微笑み、少し間を置いて、言葉を続けた。


「本日のトップニュースは、急成長を遂げる影鬼市場と、それに対抗するゼグラントの動きです」


 一瞬、スタジオの音声が乱れた。

 リュシアの言葉が妙に引っかかり、現場の緊張が波打つ。


 バルゴがすかさず補足を入れた。


「……いや、失礼。“影鬼市場の急伸に伴い、各陣営が神経を尖らせている”のが正確ですね」


 画面越しにも、場の息苦しさがにじんで見えた。

 スクリーンが切り替わり、魔王市場の最新ランキングが浮かび上がる。


 魔王市場最新ランキングが更新された。


 1位のゼグラントは依然として圧倒的な支配率を保っているが、ごくわずかにその勢いは鈍ってきている。

 2位のヴェルトは、順位も影響力もほとんど変わらず、安定飛行を続けていた。

 3位アステリウスは、静かに、だが着実に評価を高めている。

 4位のドレイクは、このところ目立った動きを見せており、勢力を伸ばしつつある。

 5位のサリオンはやや後退気味で、陣営の足元が揺れている様子だ。


 そして注目の存在――影の魔王K。

 全体シェアではまだ無視できるほど小さな数字だが、その成長率は他の追随を許さない。

 小規模な“芽”に、いま市場全体の視線が集まりつつある。


 この“市場支配”とは、魔王たちが保有する資産や影響力が、

 取引所全体に対してどれだけ影響を与えているか――その力の比率を示すものだ。


 リュシアがデータを見つめながら解説する。

 

「影の魔王Kが展開する影鬼市場――魔王市場全体の中では小さなセクターにすぎませんが、

 その成長速度は、他のどの勢力をも上回っています」


 リュシアが画面を見つめながら、少し声を落とす。


「魔王市場には多種多様なセクターがあります。

 死霊金融、幻想通貨、契約霊、呪的資産、概念資本……いずれも力と資産を持つ者だけが

 席を得られる場所です」


「でも影鬼市場は違う。Kが創ったこのセクターは、

 落ちこぼれや失地魔王たちが、初めてまともに勝負できる場所なんです」


「支配でも特権でもない。競争と挑戦で立つ市場。

 “魔王自身”が信用として動く、開かれた唯一のセクターです」


 リュシアは息を整え、視線をカメラへ向ける。

 

「だからこそ、いま最も注目され、そして――Kという名と共に、最も警戒されている」


 スクリーンの前に集まった魔王たちが、ざわめきを強める。


「影鬼がまた伸びたぞ……」「これ、買うべきか?」


「オレの領地、昨日落とされたばっかなんだ……もう他に頼る市場がねえ」


「投資回収率が高すぎる。あれ、何が裏にあるんだ?」


「……影鬼? 博打みたいなもんだろ。でも、もう負けてるやつには、それしかねぇんだよ」


 少し離れたところで、若い魔王が呟く。


「それでも……Kは、俺たちのことを見てくれてる気がするんだ。

 一度くらい、賭けてみてもいいだろ」


 若い魔王は、スクリーンの中で静かに立つKの姿をじっと見つめていた。


 その速報を、セリアも遠くから静かに見つめていた。


 魔王市場。それは、すべての魔王たちの経済活動を統べる広大な取引領域。

 その中で、影鬼市場はKただ一人が担う異色のセクターだ。

 市場シェアはわずか1%に満たない。だがその伸び率だけが、他の何倍もの数字を叩き出している。

 

 ほんのわずかに、リュシアが目を細めた。

 

「展開する『影鬼市場』は、いま、魔王たちの間でも注目の的です」


「若い魔王たちや、領地を失った弱小領主たちが、こぞって影鬼市場に資金を流し始めています」

「この流れがどこまで続くのか、目が離せません」

 

「市場支配率はまだ1%未満ですが、成長率は +35.4%。

 ゼグラントの影響力指数が -2.7% 低下したというデータも出ています」


 解説者バルゴが頷きながら口を開く。


「市場心理――要は“皆が買うから自分も買う”という不安と欲の連鎖を、巧みに操る戦略だ」


 リュシアは一呼吸置く。

 

「『影鬼を持つ魔王こそ次代の覇者』――この一言で、投資家の心を掴んでいます」


 しかし、スクリーンが再び切り替わると、新たなデータが表示される。


リュシアは落ち着いた様子で、一瞬間を置いて伝えた。


「速報です」

「影鬼市場が値を下げました。現在、投資家心理には急激な揺れが生じているようです。

影の魔王Kは、注目リストから外れ、現在は“監視対象”として扱われているとの報告も入っています」


バルゴは眼鏡を押し上げながら、表情を変えずに言葉を続けた。


「市場というものは、“兆しが消えた”と見なした瞬間、容赦なく潮を引かせます。

期待と信頼が揺らげば、数字はすぐにそれを映します――極めて合理的に、そして冷酷に」


 その速報を、セリアも遠くから静かに見つめていた。

 モニターの光に浮かび上がる彼女の横顔は、どこか達観している。


「……やっぱり来たわね、数字の波。信じる者と見捨てる者、いつだってこの瞬間に分かれるのよ」


 その数字を見た瞬間、ある投資家の顔が青ざめた。


「……やられた。完全に情報操作だ……。

 昨日、全資産ぶっこんだばかりだってのに……!」


 背後では、もう一人が頭を抱える。


「“Kが信用を失った”って話が、ここまで一気に広がるか……?

 こんなの、ただの市場操作だ……」


 バルゴが静かに続ける。


「これは典型的な市場の政治ですね」


 まるでごく当たり前のように淡々とバルゴは説明をする。

 

「ゼグラントは取引所の有力投資家たちに圧力をかけ、

 影鬼市場の信用を失墜させる情報を流布しています」


 取引所には匿名の内部告発文書が持ち込まれ、影鬼市場への疑念を煽るよう、ゼグラント陣営が水面下で動いているとの噂も広まっていた。



 ✦✦✦《見えざる圧力》 ✦✦✦

 

 魔導スクリーンには、ゼグラント陣営の介入を示唆するネガティブニュースの見出しが次々と表示される。


 - 「影鬼市場は未成熟、投資リスクが高い?」

 - 「影鬼は希少すぎて供給が不安定。そのため“成長が一時的ではないか”との懸念も広がっています」

 - 「ゼグラントの見解 - 影鬼市場はバブルの可能性」


 リュシアが振り返る。


「市場の支配者ゼグラントが、影鬼市場の価値を引き下げにかかっています。

 このままだと……影の魔王Kの成長、封じ込められてしまうかもしれません」


「果たして……Kは、この圧力にどう応えるのでしょうか?」



 その頃Kの拠点では――。

 

 暗い部屋の中、魔導スクリーンが淡い光を放ち、Kとその仲間たちを照らし出す。


 Kはじっと画面を見つめ、その瞳に冷静さと怒りが交錯している。


 スクリーンに映るKの顔は、あまりにも冷たく、冷静に見えた。

 だが、セリアは気づいていた。握りしめた拳が、わずかに震えていることに。


 セリアの視線が、Kの拳に吸い寄せられる。わずかに震えていた。

 

「……焦ってるのね、K」


 そう言いながらも、セリア自身の指先がかすかに震えていた。

 Kの“静けさ”に、誰よりも敏感だった彼女だけが、それを見抜いていた。


 言葉にした瞬間、自分の声もかすかに震えていたことに気づく。

 本当は、Kの焦りよりも――自分の感情のほうが怖かった。


 空気が、少しだけ重くなる。

 

 声に混ざる感情は、揺れる火のように静かだった。

 

 Kは答えず、拳を握りしめたまま歯を食いしばる。

 その拳から、押し殺した怒りが微かに匂った。


 セリアは気づいていた。演技ではない――Kの心が、確かに揺れていた。

 

 ふっと、判断の軸が揺れた気がした。


 Kは不用意に次の手を口にしそうになり――言葉を飲み込む。

 

 Kは言葉を飲み込み、拳をさらに強く握り締めた。

 感情の波が、喉元までせり上がっていた。だが、それを出してしまえば、自分を見失う。

 けれど、その沈黙はきっと、あとで痛みに変わる――。


「……ゼグラント。やはり来たか」


 Kは低く呟き、スクリーンに映る文字を睨んだ。

 市場を武器にするか。変わらないな、奴は。


 声は低く穏やかだったが、その内側に秘められた闘志が明らかだった。


 セリアが口元を歪め、苦笑を浮かべる。


「奴のやり方は洗練されてるわ。ほんと、腹立つくらい」


 セリアは肩をすくめて笑ったが、目は笑っていなかった。


 この用意周到なやり方で私もやられたのよね……。


 セリアが肩をすくめ、微笑む。

 だがそこでなぜ瞳孔が開きKを見つめるのか。

 セリアの心がどこか震えているようだ。


 ――あれほど割り切っていたはずの心が、どこかで濁っている。

 この揺れを認めたくない。だが、消しきれない。


「どうする? ……もう、黙ってるってことは、やるつもりなのね?」


 セリアは小さく笑い、肩をすくめる。


「いいわ。成果が出たら、いつもの倍――いや、特別報酬を弾んであげる」


 この時Kは、鷹が獲物を捉える目つきに変わる。

 それを受け、セリアは舌なめずりをするとニヤリとした。

 

「……だから、ちゃんとやりなさいよ。私に損させたら、倍取り返すんだから」

 

 その反面今度はこちら側が反撃する番だと言わんばかりの挑戦的な笑みを浮かべる。


 Kは目を閉じて息を吐いた。

 ゼグラントのように力で押し切る気はない。

 けれど、自分にできる方法は、まだある――そう思えた。


 ゆっくりと息を吐き、目を開く。

 その奥には、いくつもの策が、まだ濁ったまま沈んでいた。


「支配じゃない。信じさせる。……それが、俺の戦い方だ」


 Kの声は低く、だが確かに熱を帯びていた。


 セリアがふっと呟く。

 

「……お願いだから、今回は取引停止にならない程度にしてよ」


 Kは立ち上がり、画面に映る市場データを指でなぞるように見つめセリアに向き直った。

 その表情には冷徹な決意が宿っている。


「覆す方法はいくつかある。

ゼグラントを落とすか、俺が上がるか――そのどちらかだ」


 セリアが頷きながら問いかける。


「でも、それじゃ同じ土俵での勝負ね?

ゼグラントほどの相手にそれだけじゃ足りないんじゃない?」


 Kは口角を上げ、冷笑を浮かべた。


「そうだ。同じ土俵で戦えば、ゼグラントの圧倒的な影響力に飲み込まれる。

だからこそ、別の方法が必要だ」


 セリアが興味深げに眉を上げた。


「別の方法……つまり?」


 Kの目が鋭く光る。


「別の力を、静かに揺り動かす。

奴らが無視できない重大な情報を掴み、影鬼を使ってその情報を操る。

最終的には、ゼグラント陣営内で動揺を生じさせる」


 セリアは腰に手を当て、小さく首を傾げた。

 

「……面白そう。でも、本気でやれるのかしらね」

 

 好奇心に駆られているようにも見えたが、その目には慎重さも宿っていた。


 


【次回予告 by リュシア・ファーレン】


「“自由な市場”――その言葉の裏で、何が崩れているのか。

 魔王市場全体が注視する“異端”のセクターが、いま試されようとしています」


「次回《幕間ニュース 静かな市場戦争:後編》、副題『静かなる侵攻』。

 数字の裏に潜むのは戦略か、それとも……信仰か」


「魔導スクリーンLIVEは、混乱の最前線からお届けします。お楽しみに」


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