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あかんべ小鬼(ショートショート)

作者: 藻ノ かたり

小鬼は村の子供たちと……。

昔々あるところに、親も兄弟もいない、はぐれ小鬼がおりました。小鬼は村の子供たちと仲良くなりたいと思っておりましたが、恥ずかしさと照れ隠しのために、つい「あかんべ」をしてしまいます。


村の子供たちも、それに対抗して、あかんべをします。それゆえ、いつまでたっても、小鬼と子供たちは仲良くなれませんでした。


そんなある日の事です。小鬼が村の裏山を歩いていると、崖の方から子供たちの声が聞こえてきました。でも、何か様子がおかしいのです。


崖の脇から覗いて見ると、一人の男の子が、崖の途中に張り出している木へと、必死にしがみついていており、上の方では数人の子供たちが男の子を必死に励ましておりました。崖の近くで遊んでいた時に、あやまって落ちてしまったのですね。


ただ幸運にも途中の木に引っ掛ったものの、子供の力では、しがみついているにも限界があります。仲間が大人を呼びに走りましたが、到底、間に合いそうにありませんでした。


小鬼は少しだけ迷った後、子供たちを押しのけて、崖から身を乗り出します。


「仏様。オラの舌を伸ばしてけろ。一生のお願いだ」


小鬼が強く念じると、彼の目の前に仏様が現れました。でも、仏様の姿は子供たちには見えません。


「願いを聞いてやらんでもないが、お前はこれまで始終あかんべをして、人をバカにしていたではないか。


その罰として、一度伸びた舌は、二度と元には戻らんが、それでもよいか?」


仏様の問いに、小鬼は迷わず、かまわないと答えました。


すると、小鬼の舌はドンドンと伸び出して、やがて、木にしがみついている男の子のところまで届きます。


「さぁ、つかまれ!」


小鬼が言うと男の子は驚きますが、一か八かの思いで、伸びて来た水色の舌につかまりました。


すると一気に男の子の体重が小鬼の舌に掛かり、小鬼は前のめりになってしまいます。小鬼自身も、崖から落ちてしまいそうな状況です。


そして、そのままストンと落ちそうになった時、突然ガクンと体が止まりました。崖上の子供の一人が、小鬼の腹に後ろから抱きついたのです。するとその子供の腹に、別の子供が抱きつき、更にまたその子供の腹に別の子供が抱きつき、小鬼と子供たちは、まるで数珠のようになりました。


小鬼と子供たちは力を合わせ、見事、男の子を崖の上まで引っ張り上げます。


崖の上で輪になったみんなが、安心して笑い合いました。子供たちも、小鬼も分け隔てなく。


でも、小鬼の舌は元には戻りません。


「ねぇ。あんたの舌は、どうしてまだ伸びたきりなの?」


一番小さい女の子が聞きました。


小鬼は心配を掛けまいとして、黙ってその場を立ち去ろうとします。それを、助けてもらった男の子がとめました。


このままでは立ち去る事も出来ないと思った小鬼は、正直に仏様との約束を話します。


すると、助けてもらった男の子が、


「仏様。ワシの大切なものを捧げますから、小鬼の舌を元に戻してやって下さい!」


と、懐から綺麗な絵柄のついた、瀬戸物の欠片を取り出しました。すると他の子供たちも、次々と自分の宝物を差し出し天を仰ぎます。


それは大人たちから見れば、ガラクタ以外の何ものでもありません。でも仏様は、そこに子供たちの真心がつまっている事を知っておりました。


「良き友人たちを、得たようだの」


仏様はそう言うと、子供たちの願いを聞き入れて、小鬼の舌を元へ戻してやりました。


それから、小鬼と子供たちは仲良しです。幾年も、楽しい日々が続きました。


でも小鬼が見えるのは、子供の内だけです。


みんな一人一人大人になっていき、段々と小鬼の事が見えなくなりました。そして小鬼との思い出も、小鬼がいたという事も忘れ去っていきました。


やがて村では作物が取れなくなり、村人たちは総出で他の土地へと移ります。小鬼は一人取り残されました。


でも、きっと大丈夫です。小鬼は今でも、どこかの国のどこかの村で、子供たちと楽しく遊んでいるに違いありません。


もしあなたが、あかんべをしている小さな鬼を見かけたら、それはあなたと遊びたいという印です。


どうか、仲良くしてあげて下さいね。


【終】


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