第88話:ヴェラーレさんの正体?
「ほら、立って」
マグニヴェラーレに手を引かれてウニリィは立ち上がる。ファミンアーリ国王がウニリィたちの向かいに座り、ウニリィたちも席に戻った。
老侍従が茶の用意をして壁際に下がる。
「改めて、余がイエッドニア国王ファミンアーリである。非公式の場ゆえ、そう畏まらずとも良い」
そう言われてウニリィの緊張がやわらごうはずもないが、マグニヴェラーレに背中をさすられていると、だんだん落ち着いてきた。
「はい、ウニリリィ・カカオです。ご尊顔ぱい謁たまわり恐悦しぎょく」
「うむ」
めっちゃ噛んでいるが、それには触れないこととしたようである。国王は鷹揚に頷いた。そしてマグニヴェラーレに視線を向ける。
「ヴェラーレよ。随分とその……なんだ。変わったな」
「そうでしょうか」
「あの女嫌いであった汝が嘘のようだ。……まあ、ちょっと思っていた方向性と違うが」
ファミンアーリから見ても、これは恋人というよりは、親が幼子を世話しているかのようであった。マグニヴェラーレの家族たちやファミンアーリが期待している方向性とは違うが、それでも大きな進歩であるとも言えよう。
「お見苦しいところを」
「いや、汝にもそういった側面があるのだと安堵しているところよ」
二人の会話が弾んでいる。ウニリィはその会話を聞きながら訝しんだ。
どうにも国王とそれに仕える魔術師の会話という雰囲気ではない。もっと昔から知っているかのようだ。壁際に立つ老侍従からも、まるで孫でも見ているような和やかな視線を感じる。
ひょっとしてマグニヴェラーレは宮廷魔術師となる前から国王と親しいような関係ではないか。
ウニリィの視線に気付いたのか、マグニヴェラーレがウニリィの緑の瞳を覗き込んだ。
「どうしました?」
「い、いえ。陛下と随分親しげな様子でしたので……」
ファミンアーリ王はふっと笑みをこぼす。今の言葉だけで状況を悟った様子であった。
「なんだ。ヴェラーレがどこの者か知らんのか」
「は、はいぃ。宮廷魔術師次席のオーウォシュ子爵としか……」
王はマグニヴェラーレに視線をやって、ウニリィに語りかける。
「余が教えても構わんが、そういうのは本人から聞くべきであろう」
マグニヴェラーレはため息をついた。
「私はこういうのを隠すべきではなかったと思うのですが」
「ははっ、あのいたずら者め。口止めされているか」
「はい」
マグニヴェラーレはウニリィに言う。
「いたずら者というのはリンギェのことだ」
「ヴェラーレさんの正体? をリンギェさんに口止めされていたんですか?」
「そうだ」
「それに従っていたんですか?」
ウニリィは不満げな表情を浮かべた。妹の言葉に従って自分に正体を隠していたと聞けばそうもなろう。
マグニヴェラーレは慌てて言いつのる。
「あいつも悪意あって口止めしていたわけではない。私の正体を言うとあなたやカカオ男爵が恐縮するだろうと。私も君に負担をかける気はなかったのだ」
国王はにやにやと笑う。女性の機嫌を損なわないようにしようというマグニヴェラーレの様子が面白くて仕方ないのだ。
「なるほど、正体を知られる前に親しくさせようということか。策士よの」
もうウニリィは口止めされるほどの正体と言われて戦々恐々だ。それにもう一つ気になることもある。マグニヴェラーレとファミンアーリ国王。歳は一回り違うのでぱっとは気づかなかったが、しばらく見ているとどことなく顔の造形が似ているように感じるのだ。
とはいえ尋ねざるをえない。
「えっと……、ヴェラーレさんの正体って」
「私がオーウォシュ子爵を賜る前の家名はミドーという」
「みどー、ミドー……ええっ!」
ウニリィは思わず立ち上がった。
「ミドーってあの公爵家の!」
「うむ」
マグニヴェラーレが頷く。
「お、王家とも血縁があるあの!」
「ミドー家、キーシュ家は初代ファミリアス王の弟たちの家門であるから、余の血縁にあると言ってよかろう。汝の兄に執心のアレクサンドラもそうだぞ」
王が笑いながらそう言う。顔が似ているのも理由があるし、マグニヴェラーレが国王やその侍従と親しい雰囲気があるのも当然であった。
「イエローゲイツ・ミドー様で有名なあの!」
「あれは創作だから美化されているというか、現実とは異なるが……、一応曾祖父の弟ということになるな」
ミドー公爵家の当主が、その座を兄の子に譲って引退した後に諸国を漫遊し、弱きを助けて悪をくじくという物語がある。それは庶民の間で広く親しまれていて、ウニリィも当然それを楽しんでいたのだ。
よもや目の前にいるのがその血縁者であるとは。
「ぴぇー……」
ウニリィは立ったまま気を失った。
ゆっくり傾いていく身体をマグニヴェラーレが抱き留め、ソファーに座り直させる。そうなるのを見越していた動きだった。
うにょうにょ。
スライムが籠の中でうごめき、心配そうにウニリィを覗き込む。
「ほら、こうなるのが分かってたから隠していたんですよ」
国王は大いに笑った。
ξ˚⊿˚)ξすいませんー、昨日投稿したつもりで忘れてました。
明日も投稿します。






