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【コミカライズ】チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!  作者: ただのぎょー


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第81話:かのじょのなはー、ウニリィー。

「今日中にお城に向かうんですか?」


 馬車の中、向かいに座るマグニヴェラーレにウニリィは尋ねる。


「いえ、緊急時は別ですが今回は違いますから。今日は我が家に逗留いただき、明日に陛下とお会いする形になるかと」

「なるほど」


 馬車は昼頃に王都チヨディアにつく。広大な王都を馬車で進んでいけば、ウニリィのお腹がくぅ、と鳴いた。


「食事にしましょうか」

「そそそそうですね!」

「この辺りだと……」


 スナリヴァから王都の中心部に伸びる街道は、王都南東部の海沿いを進む。

 漁師町のルナジなどもあり、新鮮な魚が安くて美味い。つまりウニリィは魚が食べたい。

 荒っぽい海の男たちが集まる区画にマグニヴェラーレは明らかに似合わないが、そういえば前に王都にきた時に、ナンディオに紹介された店があることを思い出した。

 そうそう、カサゴのアクアパッツアが美味しかった。


「ここから、ちょっと先に行ったところに美味しいお魚を出すお店があるんですけど……」

「なるほど、いいですね。そうしましょうか」


 そうして向かった店であったが、残念なことに満席であった。そしてなぜか今日の客の大半が女性であった。漁師町のルナジからも近いこともあり、前回きた時はどちらかといえば男性の方が多かった記憶があるのだが。

 彼女たちは静かに、だが熱のこもった視線を店の中央に向けている。

 そこには一人の青年が座り、彼の手の中で爪弾かれたリュートの音色が店に響いた。


「あ」


 ウニリィは思わず小さく声を上げる。

 男は喉を震わせた。


「こおーりのー、きゅうーていーまじゅーつしーどーののー、うたーをーうたーおうー」


 きゃーっ、と女性たちから歓声が上がる。

 男はもちろんサレキッシモであった。そういえば彼と出会ったのもこの店だったとウニリィは思い出す。


「かれのーひとみがー、だれにむけられたときー、ねつをーもつのかー」


 ウニリィは思わずマグニヴェラーレを見上げた。

 氷の宮廷魔術師殿とはマグニヴェラーレの二つ名に他ならない。


「だれのみみもとでー、やさしくーささやいたのかー」


 マグニヴェラーレは鳩が豆鉄砲を喰らったように唖然とした。

 なるほど、マグニヴェラーレが女性に人気あり、彼のことを歌っているから、この店にいるのが女性客ばかりなのかとウニリィは得心した。


「そのうつくししきーしょうじょー、かのじょのなはー、ウニリイィ〜〜」

「ちょっと!?」


 思わずウニリィは叫ぶ。

 サレキッシモが顔をあげ、ウニリィと視線が合う。彼はやべっという表情を浮かべた。なんと言っても隣にマグニヴェラーレ本人もいる。

 咄嗟にサレキッシモはウニリィたちを指した。


「マグニヴェラーレさんじゃないですか!」


 女性たちが一斉に振り向いた。そして立ち上がり殺到する。


「マグニヴェラーレ様♡!」


 黄色い悲鳴が上がった。

 マグニヴェラーレは急ぎウニリィに防御の魔術をかけて、このあたりで待っているよう伝えると、踵を返して逃げ出した。

 彼を追って店の入り口を女性たちが駆け抜けていく。


「えー……」


 ウニリィの呟きが、がらんとした店内に響いた。


「はー、やれやれ」

「やれやれじゃないですよ!」


 サレキッシモの言葉に、ウニリィはぷりぷりと怒る。

 客がみんな逃げ出してしまったので、怒った店主に店を追い出されたのである。

 マグニヴェラーレにこのへんにいてくれと言われているので、二人は二軒隣の飲み屋に入ったのだ。今は昼時で、当然飲み屋はやっていない。だが勝手知ったるという様子でサレキッシモは飲み屋に入ると、仕込みをしている店主に一声かけて、誰も客のいない飲み屋にウニリィを招いたのだった。


「もー、せっかくおいしい魚が食べられると思ったのにー」

「魚ある?」


 サレキッシモが店主に声をかけると、店主は無言でウニリィの前に皿を置いた。

 皿の上には茶色い小枝のようなものが何本か積まれている。


「なんですかこれ?」


 どうみても魚には見えない。ウニリィが尋ねるも、店主は奥に引っ込んでしまっている。

 無口なのか、営業時間外に来て機嫌が悪いのか。ウニリィが恐縮していると、サレキッシモが嬉しそうに手を伸ばした。


「おっ、鮭とばじゃん」

「さけ……とば?」

「乾燥させたサーモンだよ」


 サレキッシモは鮭とばをタバコのように咥えながら言う。


「ほら、エッゾニアの方の魚だけど、食べたことない?」


 イェッドニア王国の北の端にある領地の、ジャーキーのような特産物であるらしい。枝にしか見えないが、嗅いでみると微かに魚介の香りがする。


「……いただきます」


 ウニリィはがぶりといった。そして口を離す。


「かった」


 硬くなるまで乾燥させた保存食である。サレキッシモは笑った。


「こうして咥えてるとそのうち柔らかくなるから」

「むー……」


 しばらくそうしていると唾液が出て、旨みと塩気が口の中に溢れてくる。

 なるほど、確かに美味しいが……。


「水が欲しくなりますね」

「それより酒だろ。店主、酒を!」

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます 鮭とばは皮目を焼くんです 柔らかくなってめちゃくちゃ美味しいです (都会コンビニ等の機械乾燥の鮭とばはダメですけどね 北海道とかのお土産に貰ったら試してください) 呑み屋のオ…
集団食い逃げ!
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