第75話:スライムいるー?
翌日、午前四時。まだ暗いなか、いつも通りカカオ家を出てスライム厩舎に向かおうとしたウニリィは……。
「おはようございます」
「うわぁ、びっくりした」
今日もマグニヴェラーレに声をかけられて驚いたのであった。
「昨日も挨拶をしたのに、なぜ驚くのです」
よもや二日続けてこんな朝早く起きてこられるなんて! とウニリィは驚いたのである。それと朝からイケメンは心臓に悪い。だが、そう言うわけにもいくまい。
「いえ、すいません。おはようございます」
と、二人連れ立って家を出たのである。そして牧草地に差し掛かる手前、ウニリィは首を傾げた。
何か景色に違和感があると。そしてそれがなんであるかがわかる前に、牧草地の境界である柵の前について、彼女は見たのだった。
もさり。
「えええええぇぇぇぇ!」
ウニリィは悲鳴をあげた。
「なにこれぇ!」
「なんとまぁ……」
マグニヴェラーレもまた呆れたように口を開いた。
もさぁっ。
彼女たちの視線の先、牧草地の草がありえないほど伸び、育っていた。昨日まではウニリィの膝丈程度の長さであった牧草が、今やウニリィの背丈、いやマグニヴェラーレの背丈ほどにまで伸びている。
あたかもトウモロコシ畑やヒマワリ畑のようであった。
もさもさ。
月光と、ウニリィのランタンの光を浴びて巨大牧草はもさもさざわざわと揺れている。
ウニリィが景色に覚えた違和感は、視界が通らないことであった。なにせ、牧草地のそばまできてもスライム厩舎が見えないのである。
「これは……昨日のアース・エレメント・スライムが?」
「でしょうねぇ」
「魔術的には〈植物生長〉か……? いや、アースエレメントスライムは地属性であり、植物系ではない。〈肥沃〉? それにしては効果が急すぎる……」
マグニヴェラーレが考察のために悩みだしたが、ウニリィにはそのあたりのことはわからない。
彼女はかがみ込むとランタンを地面に置いて、地面に向かって呼びかける。
「スライムー、いるー?」
にゅるん。
地面から一匹のスライムが染み出すように現れた。
「これ、あなたたちがやったの?」
ふるり。
頷いているようだ。
「え、これって元に戻……」
ウニリィは言葉を止めた。
スライムがランタンの光の中で、じいっとウニリィを見上げているような気がした。
牧草がいきなりこんなに伸びたら確かに人間としては迷惑だ。やるならやると説明して欲しかったものである。こういうことするならもっと狭い範囲でやって欲しかった。
だがそれはそれとして、スライムたちはウニリィの役に立ちたくてこれをしたはずなのである。これを元に戻せるか聞く前に言っておくべきことがあった。
ウニリィはスライムを高く持ち上げる。
「黄色いスライムたち、すごいねー!」
うにょんうにょん。
スライムは照れるように身を捩った。
「ウニリィ……」
「どうしましたか?」
マグニヴェラーレは牧草地の境のあたりを指差す。
ふるふるふるふる。
黄色いスライムたちがウニリィに褒められようと並んでいた。
ウニリィが順に黄色いスライムたちを褒め称えている間に、時間は経つ。
「なんじゃそりゃあ!」
「なんスかこれ!」
太陽が昇り始めた頃に、様子を見に来たクレーザーや仕事に出てきたマサクィらがこの光景に驚き、マグニヴェラーレはスライムのやったことのようであると説明するのだった。
「他のスライムたちは? ……この状態じゃ起こせちゃいないよな」
クレーザーは尋ねようとして、自分で結論を出した。
マグニヴェラーレは頷く。
「よし、スライムはこちらで起こしておこう」
「ういっす」
「はい」
クレーザーの言葉にマサクィやセーヴンたちが頷いた。
ウニリィは普段、牧草地を横切ってスライム厩舎に向かうが、厩舎というのは入り口は複数あるものである。裏手に回って厩舎に入り、赤青緑のスライムを起こしてこようというのである。
「私たちは?」
ウニリィが問い、クレーザーは牧草地を指さす。
「お前はこれをなんとかしなさい」
「……ですよねぇ」
というわけで、ウニリィとマグニヴェラーレと黄色いスライムたちが残されたのである。
「どうしましょう」
「農具は?」
「片手鎌じゃキリないですよね。大鎌はあったと思いますけど……」
広範囲の草刈りは両手持ちの鎌を使う。ただ、ウニリィはあまり使ったことがない。
マグニヴェラーレが鎌もってるところを想像してみたが、とても似合わなそうだった。
「ふむ、風魔法でも斬れますが、この広さは面倒ですね」
ふるふる。
スライムは揺れている。
マグニヴェラーレも悩み、二人で唸っているその時だった。
もー。
牛の鳴き声が響く。
「ウニちん!」
そしてウニリィを呼ぶ女の子の声。
「あ、シーアちん……と牛?」
ウニリィの友人のシーアであった。
その彼女は、なぜか何頭も牛を引き連れている。いや、彼女の家は農家であり、牛の飼育をしていることも知っている。
だが、なぜ早朝から牛を連れ歩いているのか。
ウニリィが問う前に、シーアはウニリィの背後を指さして笑いだした。
「あはははは。何それ、ぼーぼーじゃん」
牧草地は酷いありさまであった。
もー。
ξ˚⊿˚)ξ次回更新時に、ちょっと報告ありますー(予告)






