第72話:ごっはんー、ごっはんー。
ξ˚⊿˚)ξ昨日の更新遅れました。すみませぬ。
ウニリィがマグニヴェラーレにスライムの起こし方を手とり足とり教えていて、スライムたちを大体起こし終わったかなという頃である。
ふと、視線を上げてウニリィは悲鳴をあげた。
「ぴえっ!」
厩舎の入り口のあたりで、牧草地中に広がっていくはずのスライムたちが渋滞をおこしているのであった。
そしてこちらを見つめているマサクィとセーヴンと目が合ったのである。
「な、ななな、そこで何を」
マサクィがスライムを踏まないように気を遣いながら近づいてくる。
「いやー、もう普段なら終わってる時間じゃないっスか。でもまだスライムたちが外に出払ってないから気になって来たんスよ。ねぇ?」
最後の言葉はセーヴンに向けてであった。セーヴンもこくりと頷く。
「そ、そうよね。ちょっとと遅くなっちちゃったわよね」
ウニリィは言動がおかしいが、マグニヴェラーレは気にした風もない。
手に嵌めていた耐腐食性の革手袋を外しながら言う。
「うむ、マサクィにセーヴンであったな。おはよう」
「おはようございます。マグニヴェラーレさん。ウニリィさん」
「うぃっす、おはようございます」
三人は挨拶を交わした。
「皆、この時間からもう仕事か。早いな」
「そーなんスよ。やっぱ早いっスよねー」
「マグニヴェラーレさんは辛くありませんか?」
セーヴンの言葉にマグニヴェラーレは笑みを浮かべ、「大丈夫さ」と告げる。
「おはよう、みんな。ヴェラーレさんってば貴族なのにすごいのよ! スライム起こすのちゃんと手伝ってくれたんだから!」
今までカカオ家にやってきた貴族の令息たちで、こんなことやってくれた人はいないのである。それだけでもウニリィからの評価は爆上がりであった。
「おー」
マサクィはなんとなくぱちぱちと手を叩いた。
「さ、じゃあスライムたちみんなお外出て! 二人はお掃除、私とヴェラーレさんはお父さんからスライムのごはん貰ってこようかな」
ふるふるふるふる。
ごはん、ごはんとスライムたちは喜び跳ねて牧草地に向かう。
マサクィとセーヴンは壁際に立てかけてあったモップとバケツを手に取り、マグニヴェラーレは外に向かう際にすれ違ったセーヴンにそっと耳打ちした。
「魔法で眠気を飛ばし、体力も賦活しているのさ。秘密にしておいてくれよ?」
精神や肉体に働きかける、〈覚醒〉や〈活力〉の魔術である。魔術師ならではの解決法であった。ただ、魔法を使って起きているのはウニリィには秘密にしておきたいらしい。セーヴンは頷いた。
「ごっはんー、ごっはんー」
ふよふよふよふよ。
外に出れば陽が昇っていた。
早朝の陽射しの中、歌うような調子で声を出すウニリィの後をスライムたちが光を煌めかせながらぞろぞろとついていく。
家に戻れば、クレーザーがスライムの餌である栄養剤の入った大きな鍋を持っていた。
「おはよ、お父さん」
「おう」
「おはようございます」
「おお、これはマグニヴェラーレ殿」
マグニヴェラーレの挨拶にクレーザーは驚いた様子である。
「お父さん。マグニヴェラーレさん、スライム起こすの手伝ってくれたのよ」
「なんと!」
今までカカオ家にやってきた貴族の令息たちで、こんなことやってくれた人はいないのである。クレーザーからの評価もまた爆上がりであった。
「いやー素晴らしいですなー。今後ともよろしくお願いします」
「む? ああ」
そう話しているうちにウニリィは大鍋を抱える。
「よいしょっと」
「持とうかね?」
「重いので私が持ちますよ。ほら、慣れているので大丈夫です。汚れちゃいますし」
マグニヴェラーレはふむ、と頷く。
マグニヴェラーレは魔術師であり、身長は平均より高いが細く見える。実際のところ従軍経験もあるし、それなりに筋肉はついているのだが。
それに彼が着ている服装が問題なのだろう。彼としてはこれは乗馬などの野外活動用の服装であり汚れても何ら問題ないが、ウニリィたちからすれば十分に高級そうなものである。
「では失礼」
マグニヴェラーレはウニリィの抱える鍋にちょいと触った。使う魔術は〈軽量化〉である。ウニリィの手にする鍋の重さが半分になった。
「わぁ!」
ウニリィが瞳をきらきらさせてマグニヴェラーレを見上げた。
「これヴェラーレさんが!?」
「ああ」
ウニリィは鍋を抱え上げてくるくる回る。
「凄い!」
「……大した術じゃない」
マグニヴェラーレは賞賛の言葉が照れ臭く、そう言った。
実際〈軽量化〉は平易な魔術である。特に軍隊だと大量の荷の重量を軽減するのにしばしば使われる魔術でもあり、当然マグニヴェラーレもよく使わされたものである。
「凄いですよ! これは素敵です!」
ウニリィはご機嫌で牧草地に戻り、スライムたちに餌をあげるのだった。
そうして餌やりも終えた頃である。牧草地には食事を終えて満足した4色のスライムたちがふよふよ転がっているのだが。
ふよん。
ふよん。
黄色いスライムと赤いスライムが一匹ずつウニリィの前に出てきたのだった。
「あら?」
ふよふよ。
そして何やら訴えかけるように体を震わせ、それを見ていたウニリィの額にはシワが刻まれるのだった。






