第69話:そういうものですか
ξ˚⊿˚)ξ連載再開ー。ウニリィが村でぐだぐだする感じでスタートです。
「ぬぅん……」
カカオ家の椅子に座って、ウニリィは唸る。
とりあえず王都からエバラン村に戻って、まずは一息ついているところである。サディアー夫人がお茶を入れてくれたので、王都土産のサンダークラッカーを茶請けにぽりぽりと齧っているところだった。
ふよ。
彼女の腕の中や卓の上など、そばにいるスライムたちが、どしたん? とでも言うように体をねじってウニリィの方を見上げた。
ちなみに今彼女の周りにいるのは、黄色いのと赤いの、アース・エレメント・スライムとファイア・エレメント・スライムである。
問題行動を起こした青いのと緑色のは、ちょっと厩舎に謹慎させられていた。
「……何か?」
ウニリィの視線の先にいたのはマグニヴェラーレである。
木製の簡素な椅子に長い脚を組んで座り、同じく木製の飾り気のない卓に片方の肘をついて、額に軽く指を当てる。
もう片方の手にはお茶。紫色の瞳が向けられているのは卓上でふるふるしているスライム。ときおりスライムに手をかざして、何やら魔術でスライムを探査しているらしかった。
自然な感じに捻られた身体からは男性の色気を感じる。だが……。
「いや、ヴェラーレさんは我が家に似合わないなあって」
隣で茶をすするクレーザーが思わず吹き出す。マグニヴェラーレも笑みを浮かべて言った。
「ひどい言い草だな」
「い、いえ。ヴェラーレさんが悪いんじゃなくてですね、その、家がボロいのが悪いので」
ウニリィはあたふた訂正する。
騎士のナンディオも吟遊詩人のサレキッシモも、農村の一軒家ににいるのが似合わぬ人物ではある。だが、マグニヴェラーレの華やかさは輪をかけてひどいと。
ちなみにマサクィはこの家の雰囲気によく馴染んでいる。
「ひでぇ」
ウニリィがそう説明すると、その言葉にマサクィも苦笑した。
「ミド……」
「みど?」
マグニヴェラーレはミドー家と言おうとして、途中で言葉を切った。ウニリィがなにかと首を傾げる。
「いえ、オーウォシュ家は確かに王都にありますし、多少は垢抜けているでしょうけどね」
彼がミドー公爵家の出身だということを明かさないようにと、妹のリンギェにとめられているのである。
ウニリィは垢抜けているということに、さもありなんとこくこく頷く。
「ですが宮廷魔術師たちの研究所はひどいものさ。調度品の質に関してはいいかもしれんがね。この部屋よりずっと雑然として汚いものだよ。それこそ足の踏み場もないくらいに」
「そういうものですか」
「そういうものだ。そして私だってそういうところで泊まり込みで仕事をしていた日々もあるのだよ。それに比べればずっと素敵なお宅さ」
ウニリィは散らかった部屋のソファーで丸まって寝ているマグニヴェラーレを想像してみたが、やはり似合わないなあと思うのであった。
まあ、マグニヴェラーレが言いたいのは、滞在中にそう気を使わないでくれということだろう。あまり反論しても失礼だろうから、ウニリィはこの話はここで終えることとして、別の話を振った。
「スライム、どうですか?」
にゅーん。
ウニリィの言葉に、スライムたちがマグニヴェラーレのほうに体を向ける。すでにこの動きだけでマグニヴェラーレには興味深いのだ。
スライムには目も耳もないのだ。体表面の感覚器官から光や振動、あるいは魔力を知覚しているようだが、どうやってウニリィの言葉を理解している? そして目がないのになぜ彼らはこちらを見るような仕草をする?
これは明らかにここのスライムに特有の行動であり、飼い主であるウニリィやクレーザーの動きを真似ている、さらにいえば学習しているということだ。
「とても興味深いね。まずは彼らの行動から感じられる知性の高さ」
「かしこいって!」
にょろん。
スライムたちは照れたように身をよじった。
「体色も野生のものと比べて澄んで艶やか」
「キレイだって!」
うにょろん。
うんうんと横で聞いているマサクィも頷く。
ただ、ここまではマグニヴェラーレ以外にもわかることだ。
「そして魔力の内包値が非常に高い」
「そうなんですか?」
「うむ、ここにいるのはエレメント・スライムということだが……私が知るそれの倍から3倍は魔力を有しているだろう」
「ほう……」
クレーザーも唸る。魔力は目に見えず、魔術師以外には感じられないものである。もちろん魔獣にも個体差はあろうが、倍以上といわれれば確かに特別なのだろうと思わせるのだった。
ウニリィは手近な一体のスライムを持ち上げてじいっと見つめる。
もちろん彼女にはその違いはわからない。
「倍あると……何が違うんでしょう」
「魔獣を研究していれば、進化には魔力が必要なことはわかっている。このエレメントスライムがエレメントスライム将軍から退化したというのなら、個々のスライムが内包している魔力が普通のものより高くてもおかしくはないだろう」
なるほどー、とウニリィもクレーザーもマサクィも頷く。
マグニヴェラーレは椅子の背もたれに身を預けて続けた。
「……退化したというのも信じ難い話だがね」
これはウニリィたちの説明を信じていないというのではなく、魔獣研究の定説として信じ難いと言っているのである。大人から子供になる生き物なんて普通はいないのだから。
にょろん、とスライムがみじろぎし、ウニリィがガタンと椅子を蹴倒して立ち上がった。
「はい、進化しない! 見せなくていいから!」
スライムたちは、マグニヴェラーレが信じ難いと言ったのに対して、やっとく? みせとく? という意思を発していたのだった。
「もー……ヴェラーレさんもあまりスライムを刺激するようなこと言わないでくださいね」
「あ、ああ。すまなかった」






