第68話:棒もってこい棒!
ξ˚⊿˚)ξシーンが終わらないなら1話を長めにすれば良かろうなのだ!
ジョーの持つ剣が折れたとき、相対するノイエハシヴァ軍は快哉をあげた。
そしてジョーの配下たちもまた快哉をあげた。
「やったぞ!」
「ジョーの兄貴の剣がやっと折れた!」
「棒だ! 棒持ってこい棒!」
無数の敵兵を斬り倒し、血溜まりの中央で息も絶え絶えといった様子のジョーに、味方から棒が投げ渡される。
疲労に震えるジョーの手がそれを掴み……そして震えも息の乱れも一瞬にして整った。
ジョーの手の中で棒が閃き、ジョーに斬りかかろうとしていた兵たちが吹き飛んだ。そしてジョーの手にした棒が折れた。
「イマイチ!」
「次もってこい次!」
ジョーに次々と棒が渡される。それは敵味方の折れた槍であったり、魔術師の杖であったり、旗竿であったものだ。
ジョーが何本か棒を折り、新たな棒を手にしたところで、彼の顔に笑みが浮かんだ。
「きたきたきたぁっ!」
「おおおおお!」
ジョーが棒を振る。
その場にいた男たちは、後に両軍の兵の誰しもが、『その一振りで戦場の空気が真っ二つに斬られたんだ』と語った。
古今東西の英雄たちは、その大半が愛用の武器の名と共に伝説に語られる。例えばナインスホーガンであれば愛刀ペールグリーンと共に戦場を駆けたと。
それは英雄の魔力が自身の身体と愛用の武具、武器や鎧を強化するからだという。
ではジョーの愛用の武器とは何か。
棒。
むろん棒である。
ではあらかじめ棒を持って出陣すれば良いのかといえばそうではない。
ジョーが吟遊詩人らに彼の伝説として共に語られることとなる武器、それは『そのへんで拾ったなんかいい感じの棒』なのであった。つまり、十歳の頃から彼の本質はまるで変わっていないということだ。
ジョーが『なんかいい感じの棒』を手にしたとき、彼の魔力は最大限に強化され、その真価を発揮する。そしてそれは今、この戦場に顕現していた。
「なんじゃありゃ……敵さんが可哀想になってくるわい」
ジョーの全力を初めて目の当たりにする老ヘヴンシーは、魔術を行使していた杖をおろしてそう呟いた。
敵軍が竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ばされていく。当然、その中心はジョーだ。
「ベアーモートの田舎伯も見誤ったものじゃな」
結局、それから戦いは一刻ほど続き、ノイエハシヴァ軍は敗走した。どちらの軍も損耗率でいえばほとんど差がなかったとされている。だが、ジョーの率いる部隊は最後まで士気高く、ノイエハシヴァ軍は化け物を見たようにその顔面は蒼白であったという。
「ジョー!」
戦いが終わってすぐ、女の声が戦場に響いた。アレクサンドラの声である。
ジョーは苦笑した。
「なんだよ、ドリー。こんなとこまでやってきて」
「きちゃった」
兵士たちをかき分けてジョーの前に立ったアレクサンドラは、いつぞやと同じ言葉を口にした。
「来ちゃったのか」
「ジョー! 勝ったのね! ジョー!」
アレクサンドラはジョーの胸に飛び込んだ。
ジョーの部下たちがやんやとはやしたてる。
「おい、ドリー汚ねえぞ……」
今日のジョーは鎧がごつごつとして硬いわ、数刻の戦いにより彼の身体は汗だくだわ、さらに無数の敵兵の血を浴びて血まみれであった。
今までで最悪の抱き心地である。だが最高だった。
むふー、と満足げにアレクサンドラは息をつき、ジョーも諦めて彼女を抱きしめ返す。
彼女のドレスは血まみれでぐちゃぐちゃになった。
だが彼女はそんなことを気にしなかったし、ジョーも部下たちも笑っていたのだった。
それから半刻後。
多少は片付いたジョーたちの陣地にベアーモート伯の部隊が戻ってきた。
伯の部隊は騎馬に乗り、ぴかぴかの鎧が夕陽に煌めいている。
一方のジョーの率いる部隊は徒歩で、血まみれで、ぼろぼろだ。
だがジョーの部隊は武器を手放すことなくベアーモート伯の部隊を睨みつけ、ベアーモート伯の騎馬隊はその顔に怯えを見せていた。
ジョーは部隊の中心で、王国の旗を背に、棒を地面に立てて両手をその上に重ね、威風堂々と立っていた。
その側に彼の副官たる騎士ナンディオがいるのはいつものことであったが、アレクサンドラ姫とヘヴンシー宮廷魔術師まで控えているのであった。
「遅参だな、ベアーモート」
ジョーの声は朗々と響いた。彼はベアーモート伯のことを閣下と敬称で呼ばず、伯爵とすら呼ばなかった。
「貴様! 平民上がり風情がなんたる口を!」
「くかかかか」
ジョーの隣で老爺が笑う。
「本陣の大将になんたる言い草かの?」
鉄床作戦の本陣は敵を正面から受け止める鉄床側である。敵を後背から叩くハンマー側ではない。
つまり裏切るためにベアーモート伯がハンマー側に回ったため、今この瞬間、戦場で最も地位が高いのはジョーなのであった。
ベアーモート伯は苦渋を飲んだような表情を浮かべて言う。
「……ジョーシュトラウム卿。見事な戦いぶりでした」
「ああ」
しばしの沈黙。ジョーは次の言葉を待ったが、ベアーモート伯が何も言わないので、口を開いた。
「遅参を謝罪する言葉もなければ、下げる頭もないようだ」
アレクサンドラが一歩前に出る。
「キーシュ公爵令嬢アレクサンドラよ。わたくしが勇士を祝福に来たのは半刻も前のこと。それよりも遅く戻るとはどういうことなのかしら?」
アレクサンドラはジョーに抱きついて血に汚れたドレスのままである。彼女がジョーに会いにきたのは、このように政治的な意味もあるのであった。もちろん、ジョーに会いたいというのが一番ではあるのだが。
「い、いや、我々も敵軍と交戦を」
ベアーモート伯爵が言い訳を口にしようとし、ジョーはそれを遮って言う。
「せめて敗走するノイエハシヴァ軍に追撃を加えてたなら、言い訳も聞いてやれたかもしれねえけどよ」
そしてベアーモート伯の汚れ一つない鎧を指差して続ける。
「それじゃだめだ」
ベアーモート伯は動揺した様子を見せて叫ぶ。
「くっ、こいつをこ」
殺せ、そう言いきる前にジョーの棒が伸びて手近な兵を昏倒させ、ナンディオが盾を構えて兵士に体当たりして薙ぎ倒す。ヘヴンシーは魔術で無数の矢を作り出し、兵士たちに向けた。
ジョーの棒が翻り、ベアーモート伯を馬上から地面に叩き落とす。そして棒は伯の喉元に突きつけられた。
「謀反だ。捕縛しろ」
「ういっす!」
ジョーの部下たちがベアーモート伯を簀巻きにしだす。彼の部下たちはそれに手出しができなかった。
ジョーはそれを見届けると、天に棒を突き上げる。
「凱旋するぞ!」
ジョーの部下たちも、己の武器を掲げて歓声をあげるのだった。
ジョー:セイバー
宝具:そのへんで拾ったなんかいい感じの棒。
ξ˚⊿˚)ξ2.5章終了です。
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次からが3章ですが、前回お伝えしたようにちょこっと修正入れたり、話の続きを考えたりするので来週は水金の更新2回予定です。
代わりではないですが月曜日にここまでの登場人物紹介入れます。
そこにどこを変更したか書いておきますから、読み返す必要はないです。
それではまたー。






