第61話:はしたないからやめなさいよ……
エバラン村に到着すれば、立派な馬車に村人たちがざわめき、遠巻きに眺めてくる。
そういえば、今乗っている馬車はマグニヴェラーレさんのだったと、ウニリィは思い出した。村人たちを安心させるべく、窓から顔を覗かせる。
「あっ、ウニリィだ」
「やっぱりウニリィちゃんだった」
同年代の子、特に女の子たちが中心に、まずはほっとした表情で手を振ってくる。
年嵩の者たちは、クレーザーが男爵に叙されてから、ウニリィにも遠慮気味になってしまって、ちょっと寂しいところだ。
「ただいまー」
ウニリィもそう言って、にこにこと手を振りかえす。
「ウニちんおかえりー」
「あっ、シーアちん!」
とことこと村の女の子が一人近づいてくる。友人のシーアだ。
馬車の速度というものは決して速いものではない。こんな舗装されてない田舎道であればなおのことだ。だから彼女はとっとこ小走りにウニリィの馬車の横にやってきた。
「帰り早かったねー」
「うんー、ちょっと用事できちゃってー」
気を利かせたのか御者が馬車の速度をさらに落とす。
「ね、ね。それでさ」
「なになにー?」
「ウニちんのとこのスライムすごいね!」
ウニリィは真顔になった。
そりゃあウニリィのとこのスライムはすごい。ウニリィ自身もびっくりするほどすごいが、それは本来なら村に知れ渡るようなものではない。
だが……。
「飛んでたものなぁ……」
「ねー! 飛んでるねー!」
そりゃあ空を飛んでるのだから、村の者なら誰からでも見えているはずである。
シーアは身を乗り出すようにして尋ねた。
「ね、ね。それで私はいつあれに乗れるの?」
「乗れません!」
えー。とシーアは不満げだ。ウニリィは、ぷうと頬を膨れさせる。
「だいたい、まだ私も乗ってないのよ!」
その言葉に思わずマグニヴェラーレはくすりと笑った。ウニリィ自身も、スライムと空を飛ぶ気満々ではないかと。
その笑い声に、外にいるシーアが気づく。
「あれ、クレーザーさんじゃないの? そこにいるの」
「うん、お父さんは後ろの馬車。実は王都からね……」
ウニリィがマグニヴェラーレのことを説明しようとしている間に、シーアは道の脇にある、道と畑の境界を分ける膝丈ぐらいの石垣にぴょんと跳び乗り、その上でさらにぴょんと跳んで、馬車の中を覗き込んだ。
礼儀作法としてはなってないというか、王族相手にやったらその場で切り捨てられても文句の言えないような所業である。
マグニヴェラーレは別に文句を言うような気はなかったが、それでも窓の向こうで女の子がスカートを翻しながら高く跳んで、馬車の中を覗き込んでくれば驚きはする。
「シーアちん、はしたないからやめなさいよ……」
ウニリィはそう声をかける。だが、彼女はたったったと、他の村人たちのいる方に駆けていった。
「みんなー! ウニリィがまたイケメン連れてきたー!」
「ちょっ……シーアちん!」
おお、とざわめきが聞こえる。
ウニリィはため息をついて、マグニヴェラーレに頭を下げた。
「村の者が失礼を……」
「いえ、構いませんよ。それより、カカオ家はどちらに?」
「あ、村の一番奥ですー」
なるほど、魔獣の飼育施設であれば、村の端に作るのは道理である。
ウニリィたちの馬車がそこまで行けば、一人の青年が馬車に寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
「セーヴン、ただいま!」
カカオ家で働くようになった村民のセーヴンである。ウニリィは馬車が完全に停まる前に、彼の褐色の手を借りて馬車から飛び降りた。
御者が唖然とし、マグニヴェラーレはおかしくなった。普通は小さい段差をつけてから先に男性が降りて、そのエスコートを受けるものだ。
「あのね、紹介しなきゃいけない人とか、色々説明することがあるんだけど……」
セーヴンは馬車の中に向けて黙礼をする。どう見ても貴族らしき男が中に座っているからだ。
がしり、とウニリィがセーヴンの腕を掴み、顔を覗き込む。
「緑色たちは?」
「牧草地の真ん中に」
ウニリィは肩をいからせて、どしどしと牧草地に向かう。
青いのがのそのそと追いかけようとして馬車から落ちかけたので、セーヴンはそれを拾い上げた。
「君はカカオ家の従僕かい?」
「はい、セーヴンと申します。よろしくお願いします」
マグニヴェラーレは彼についてウニリィを追う。
ふるふる。ふるふる。
ウニリィの帰還を黄色や赤のスライムたちは喜び震えるが、緑色のはいない。くっついて進化して空を飛んでいたに違いない。
そう思いながらウニリィが牧草地にくれば、その真ん中でドゲザ・スタイルの謝罪の構えをとるマサクィと、その隣で体を平ぺったくしている緑色のスライムの姿があった。
さっき飛んでいたのは空気で膨れていたのだから、そこまで大きくはない。だが、マサクィよりも大きい塊が、牧草の上で固まっていた。
「申し訳ありませんっしたー!」
ウニリィは、情けない様子にふっと、笑みを漏らした。
つかつかと、彼らの前に立つと、思いっきり手を振りかぶる。
ぱぁん!
ふるふる。
ウニリィの張り手が炸裂し、巨大な緑色のスライムはその身を揺らすのだった。
ξ˚⊿˚)ξ「ウニのこと、英語でシーアーチンっていうんやで」っていうサブタイが浮かんだけどボツです







