第50話:もー……もー……!
普段は丸っこいカガミモツィのようなスライムが、でろりと溶けるようにウニリィの手の中から滑り落ちた。それでも特に問題はないようで、スライムは地面の上でふるふると震えていた。
「はぁ、全く」
「何かわかりましたか?」
真剣な表情でマグニヴェラーレが近づいてくる。あまりにも馬鹿馬鹿しい話で、伝えるのがためらわれるほどだが、説明しないわけにもいかない。
「スライムたちはですね……」
「はい」
「全員酔っ払いです」
マグニヴェラーレと巡回の兵士は、何言ってるんだこいつという視線をウニリィに向けた。
「お酒に、酔ってます。ええ。お酒を飲ませたのがいるのでしょう。犯人も想像がつきます」
「ふむ……」
夜会の前に、ウニリィやクレーザーたちを見送った従者風の男がいたが、あれかとマグニヴェラーレにも想像がついた。
ウニリィは足元にまとわりついてきた別のスライムを持ち上げた。
「あなたたち、暴れたりした?」
ふよふよ。
––してません! いいこにしてました!
「……そう」
勝手に増えているのはウニリィの基準ではいい子にしているとは思えないのだが、酔っ払いなのでしかたあるまい。
「スライムと意思疎通ができるのかね?」
「まあ、なんとなく?」
マグニヴェラーレは驚きを見せた。
「ほう」
「暴れたりしなそうなので、ほっといてもらえれば大丈夫だと思います」
「しかし道を塞がれていると……」
「ですよねー」
ウニリィは、ぱぁん! と手を叩いた。女性が鳴らすにしてはびっくりするほど良い音が出た。
「みんな! 戻るわよ!」
ふよふよふよふよふよふよ。
酔っていてもウニリィの言葉は絶対である。
ウニリィは外に出ているスライムを引き連れながら、王都邸の中へと向かった。
「うっわ」
ウニリィは思わず声を上げた。王都邸の床はスライムで満ちていて、足の踏み場もない有様だ。
「えっと、ヴェラーレはここで」
「そう……ですね。お気をつけて」
ウニリィはマグニヴェラーレを外で待たせ、スライムを引き連れて屋敷の中に。
「はいはい、どいてどいて」
玄関から廊下に向かい、スライムをじゃぶじゃぶとかき分ける。
ふるふるふるふる。
ウニリィに押し除けられるのが楽しいのか、スライムたちからは喜の感情が流れてくるが、ウニリィにとっては動きづらいだけである。
「……もー。……もー!」
もーもー唸りながら、ドレスの裾を持ち上げてじゃぶじゃぶと廊下を歩んで部屋に入れば、そこがスライムの増えた中心点なのであろう。スライム同士が重なり合った青いゼリーの海のようであった。その海の上に、家具が島のように点在している。
そしてテーブルの上に、人影があった。
「あっ……」
それはリュートと酒瓶を抱えて情けない表情を浮かべているサレキッシモであった。ウニリィはまずは安堵する。
スライムの群れの中心にいる彼が危害を受けていないためだ。
彼もまたウニリィを見て安堵した様子を見せた。だが、はっと気づいたような表情を一瞬浮かべてから、酒瓶を身体の後ろに隠して居住まいを正し、テーブルの上に座り直すと手をついて、額が卓につくまで低く頭を下げて叫んだ。
「申し訳ありませんでしたぁ!」
それは東方国家において、セプクに次ぐ謝罪の形として知られる、ドゥゲザ・スタイルであった。
「ええっと、サレキッシモさん」
「すみませんでしたぁ!」
吟遊詩人だからか無駄によく通って美しい声である。スライムたちがびりびりと揺れた。
「っとですね、謝罪の前に説明をお願いします。スライムにお酒を飲ませましたね?」
「はいぃぃ! わかりますか!?」
サレキッシモは顔を上げた。
わからないはずがない。今も、サレキッシモが身体の後ろに隠した酒瓶に、スライムがにょろにょろと体を伸ばしてちょっかいをかけているのだ。
「私はお酒をスライムたちに飲ませたことはないので、こうして彼らが酔っぱらうということも知らなかったのですけどー」
そう言って周囲を見渡してから言葉を続ける。
「なんで増えちゃったかって、わかりますか?」
そもそも置いていったスライムは一匹であったのだ。サレキッシモは罰が悪そうに答える。
「ええとですね、スライムとお酒を楽しんでいたところ、酔っ払ってきたのかぐにょりとなってきたので……」
「はい、続けて?」
「……水を汲んであげてみたところ、めっちゃ増えました」
「あー……」
「あとはスライムたちが勝手に水を……!」
あそこに一匹置いて行ったスライムは、ウォーターエレメントスライム将軍が、自分の身体の水分を抜くことで小さくした個体である。
お酒を飲んで魔力の制御が甘くなったところで、十分な水が補充されたため、体が膨れあがり、そして融合が維持できなくなってどんどん分裂していったのだろうとウニリィには想像がついた。
「こらっ!」
サレキッシモはびくりと身を震わせた。
だがウニリィは彼に言ったのではない。酒瓶に体を突っ込もうとしているスライムに言ったのである。
ウニリィはテーブルに近づき、むんずとスライムを握りしめると、テイマーとしての力を込めて命じた。
「しゃきっとしなさい!」
ふるり。
––はーい。
ξ˚⊿˚)ξはい、50話です。
私の小説で50話といえば10万字です。
あれ、予定では10万字くらいなのでは? ……話、全然終わってなくない? というのは仕様。
ξ˚⊿˚)ξ仕様だ!
んでですね。
もう1イベントこなしてあと数万字くらいで連載を終える予定だったんですが、ちょっといくつかの事情ありましてー……。
1:連載ペースをおとします。
2:まだ話を終わらせません。
という二つの方針で進めます。
いくつかの事情ってなんやねんと思うかもしれませんが、現状では言えないので、いずれ報告させていただければと。
とりあえず週3回更新はしたい。
ゆったり末長くお付き合いいただければなーと思います。
ξ˚⊿˚)ξよろしくお願いします!






