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【コミカライズ】チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!  作者: ただのぎょー


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第37話:初邂逅2

 マグニヴェラーレは急ぎ王族用の区画へと向かう。

 彼は宮廷魔術師の次席である。王の危機に駆け付けたとあれば近衛兵たちはとやかく言わずに道を譲った。


「こちらは王族の……おお、マグニヴェラーレ殿」


 道を塞ごうとした老侍従も、彼を見ると相好を崩す。

 キーシュ家とミドー家の二大公爵家は王国の初代王ファミリアスの弟たちを祖とし、今でも王位継承権を有している家柄だ。

 老侍従はマグニヴェラーレのことを、それこそ生まれてすぐの頃から知っているのである。


「じい、陛下は」

「お待ちください、取り次いで参りましょう」


 侍従はその場を離れ、すぐに戻ってきてマグニヴェラーレを先導する。

 王がいるのは緊急時に避難するための部屋である。城の中央部、窓もなく分厚い石壁に囲まれた堅牢な部屋だ。

 もちろん、王のための部屋であるから内装は素晴らしいものである。ただ、やはり他の部屋と比べると少々圧迫感を受けるのだった。

 部屋に入ったマグニヴェラーレは部屋の中央に王の姿をみとめる。座り心地の良さそうな椅子に背中を預け、テーブルにはウィスキーの瓶とグラスがあった。マグニヴェラーレは緊急時用の略式の礼をとる。


「ご無事ですか陛下」

「おお、ヴェラーレか。無論、余は無事であるぞ。わざわざどうした」


 王にも愛称で呼ばれるほどに親しい関係ではあるのだ。


「先ほどの狼藉ですが……」


 その言葉に王は笑う。


「狼藉、まあ狼藉であるな。よもや王の前でスライムを出して見せるとは思わなんだ」

「驚きました。王国の歴史に名を残す珍事でしょう」


 王は再び笑いながら立ち上がると、棚からグラスを取り、手ずからウィスキーを注いでマグニヴェラーレの前に差し出した。


「飲むがいい、オッターフェスタの20年ものだ」

「任務中ですが……」

「授爵祝いだ。オーウォシュ子爵」


 そう言われてはいただかざるを得ない。杯を捧げもち、口にする。芳醇な香りが鼻腔を満たし、酒精が喉を焼いた。

 王が顎を撫でて小さくため息をつく。


「あの娘にはちと申し訳ないことをした」

「まあ、聞いておりましたが、確かにスライムをここで見せよと勘違いするような言い方と言えばそうでしたね」

「うむ」

「ですがまあ、そう聞き間違ったとしても、問題などあり得ないのです。そもそも普通の人間は謁見の間にスライムを持ち込んでいるはずがないのですから」


 王が責任を感じる必要はないとマグニヴェラーレは言う。


「まあ、それはその通りだがな……」


 だが王の言葉の歯切れは悪い。マグニヴェラーレは頷き、確認をとる。


「陛下は彼女を捕らえたのが本意ではないのですね」

「まあ、そうだな」

「ジョーシュトラウム卿のご実家に箔をつけたかった。だがそれに失敗してしまったと」

「……はっきりと言う奴め」


 王は機嫌を損ねたように言う。王の行為に失敗だったと直接的に言うような者はいないのだが、これは二人の兄弟のような親しさあってのものであろう。


「男爵になりたての元平民に、王直々のお言葉は刺激が強すぎたのでしょう」


 ふむ……。と王は唸る。

 マグニヴェラーレは安堵した。王が彼女の処罰を望んでないのが明らかであったからだ。王が謁見の間を後にし、彼女が投獄されたのはそう規則で定められているからにすぎないのだ。


「ヴェラーレよ、わざわざそのような話をしにきたということは、何か献策があるのかね?」

「はい。私が彼女の後見を務めることを条件に保釈するのはいかがでしょう」

「む……」


 ファミンアーリ王は唸る。

 奇策ではある。であるが、悪くはない。

 王や公爵家が直々に保護するとなると大事になるというのは、先に声がけしただけで問題になることからも明らかである。マグニヴェラーレは公爵家から離れ子爵となるので、その懸念がない一方で、こうして王族との連絡も可能だ。

 またジョーシュトラウムはキーシュ公爵家と紐づいたが、その家族はミドー公爵家側に庇護されるというのも政治バランス的には悪くない。だが……。


「ヴェラーレよ」

「は」

「惚れたか?」

「まさか。遠目にみていただけですよ」


 マグニヴェラーレは未婚であり婚約者もいない。それが未婚女性の後見をつとめるとはそういうことだと見る者も多かろう。


「ですが、一魔術師として興味はありますね。少なくともそこらの貴族の令嬢たちよりはずっと」

「は、ははははは」


 王は大いに笑った。浮いた話の一つもないこの弟分が、どんな理由でも女性に興味を持つなどと。

 王はすぐさま書類を用意させ、翌日には釈放する手続きが整ったのである。


 さて、翌日である。

 幸いにもウニリィは貴人用の牢に投獄されたということで、マグニヴェラーレは北の塔に向かった。

 鍵が掛けられ、窓にも格子のはめられた個室である。快適ではないかもしれないが、決して待遇は悪くない。まだ平民であるとされれば地下牢に連れて行かれる可能性もあったのだ。

 牢番と共に塔の長い階段を登っていく。その一番奥に彼女が捕らえられているという。

 近づいていくと、部屋の中から扉越しに女性の声が漏れていた。

 マグニヴェラーレと牢番は思わず動きを止める。


「……あなた、この中に入れる?」

「そうそう、隙間を埋めるようにして……そう硬くなって……いいわ……」


 非常に怪しい声が聞こえる。

 しばし黙って待っていると、鍵がガチャリと音を立てた。

 そして閉ざされているはずの扉から、少女がひょこりと顔を覗かせた。

 見上げる少女と、見下ろすマグニヴェラーレの視線が合う。


「あっ」

「……確保」


 ウニリィの脱走は二秒で終わった。

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― 新着の感想 ―
懲りてないだろww それはそうと獺祭20年物飲みたいなー
やりやがったwww
思考がバーサーカーすぎるwww
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