第33話:……あっ、お父さんが白目むいてる!
ξ˚⊿˚)ξ今日は午後、編集の方と打ち合わせという名目でスイーツいただいていたので投稿が遅れました!
季節のパフェおいしかったです!!
「はい、どうどう。ウニリィさん落ち着いて」
サレキッシモが声をかけるが、ウニリィはふんすふんすと鼻息が荒い。
「私、馬じゃありませんことよ!」
礼儀作法の本でちょこっと言葉遣いも貴族風に矯正しつつあるが、貴族令嬢は自分が馬じゃないなどとは言わないであろうし、手紙を床に叩きつけたりもすまい。
「まあ、彼らが辞退する理由もわかります。それがウニリィさんの責任ではないということもね」
「そうなのですか?」
サレキッシモは歌うように大仰に述べる。
「おぉ、ウニリィ・カカオ、美しきご令嬢よ。野を駆ける駿馬が如く自由なる魂に、百合が如き凜とした佇まい、薔薇の如くに色づく顔」
「やめてくださいよ、もー……」
サレキッシモはしばしばウニリィの美しさを讃える。ウニリィとしても悪い気はしないが、恥ずかしさも覚えるものではあった。だが、美しさに問題がないのならやはり……彼女は言葉を続ける。
「私がスライムを飼っているせいではないのですか?」
サレキッシモは笑う。
「確かに、ここにまで来てくれた男たちにとってはそれが大きな障害であることは否めませんけどね。ですがそもそも会う前から断られたりしているじゃないですか」
「ええ、確かに」
そうなのである。キーシュ家を経由して送られてきた釣り書きから、選んだ相手と手紙でのやりとりをはじめるのだが、そのやりとりのうちから断られることがある。あるいはそうでなくともこちらの家に招くより前、王都での顔合わせの段階で断られる場合が多いのだ。
ウニリィはちらりとサディアー夫人の方を見た。厳格な家庭教師も少し背中を丸めるようなにして小さくため息をつく。
「サレキッシモさんのおっしゃる通りですわ」
「……なぜでしょう?」
「立場が定まっていないからです。言い換えればカカオ家に婿入りする価値が不安定にすぎると彼らは考えているのでしょう」
「不安定……」
「つまりですね……」
サレキッシモとサディアー夫人の語ることによると、そもそも現状のカカオ家は実質的に男爵相当として扱われているが、正式な授爵はまだであるということ。そしてカカオ家の価値は、貴族的な視点からではジョーありきということだ。
ジョーは英雄である。民衆の好む立身出世の人物だ。だがそれを既得権益側の存在である貴族が好意的に受け入れるだろうか? 答えは否である。
もちろんアレクサンドラ姫やキーシュ公爵家はジョーを高く評価している。彼らが後ろ盾となっているので、順当にいけばいずれはジョーという存在が王都の貴族たちにも受け入れられるだろう。
「いずれは、ということは今はそうではないということですね」
サレキッシモは頷く。
「ジョーシュトラウム卿は、今話題の英雄だからね」
話題として旬であるということは、世に出たばかりということである。
「それにね、英雄だというのが問題なのさ」
ウニリィは首を傾げ、サレキッシモが続ける。
「そのジョーの妹さんに言うのは心苦しいことではあるのだが、英雄というのは戦場で輝く存在ってことさ」
「あー……そう、ですよね」
つまり、最悪の場合ジョーが戦死する可能性は十分に考えられるということである。
仮にジョーが戦死したとして、王家よりクレーザーに与えられるカカオ男爵という爵位が失われるわけではない。失われるわけではないが……、その場合にカカオ家と縁を結ぶ意味が相手の家にとっては失われるといって良いだろう。
「難しいものですね」
ウニリィも短くため息をついた。
「うーん」
「そーなんすか?」
ウニリィは納得しているが、話には関わらずに横で聞き耳を立てていたマサクィたちテイマーとしては首を傾げるところでもある。
エレメンタルスライム将軍を四匹同時にテイムできる存在なんて、テイマーの最上位である金級テイマーにもいない。やらせれば可能なのかもしれないが、そもそもスライムの上位種の研究はほとんど進んでいないのである。もちろんウニリィの能力がスライムに特化しているということはあるにしても、これは恐るべき価値と言えるだろう。
しかしそれを公表していない以上、仕方ないことだし、テイマーなどという職は魔獣との交流をするという観点から、貴族などには下に見られがちというのもわかっているのだが。
「ウニリィさんご本人の価値に気づいてくれる人が現れるといいですね」
「ん、はい?」
マサクィはそう声をかけたが、ウニリィにはいまいちぴんときてはいないようだった。サディアー夫人が言う。
「ですが、その状況が動くでしょう」
彼女はクレーザーの方を見た。話に加わっていなかったクレーザーは、手紙を持った状態で固まっているのだ。
彼が手にしているのは婚約の釣り書きや断りの手紙ではない。今日、王家より届いたものである。
その内容は皆が知っていた。使者がこれを渡すときに言っていたからである。
『男爵位授爵のため、登城せよ』と。
ついに正式に男爵の位を授かることになったのである。






