第30話:み、見ました……?
ぎゅむーーーー…………すぽん。
みんなで押したり引いたりして、なんとか一匹目の赤いスライムを厩舎の中へと入れることができた。
「はぁー……」
「はぁはぁ」
ウニリィたちは息を荒げて床にぺたんと座り込んだ。
スライムは全身が粘体なので、中心部の核を除いては形状を変化させることができる。
無理やり扉を抜けたスライム将軍は、角のとれた直方体のようになっていた。
ふよんふよんふるりふるりふるふる。
身を揺らすとだんだん元の形に戻っていく。
「普通のスライムだったときよりちょっと体がかたいかしら?」
––がーん。
ウニリィの言葉にスライム将軍はショックを受けたようだ。
「それとお前たち、寝床はどうすっかね」
クレーザーが棚の方を見る。夜、スライムたちが休んでいる棚だ。
スライムがのそのそとそちらに近づく。
棚の高さはウニリィの胸よりも低いくらいである。一方のスライム将軍は成人男性よりも背が高くなり、幅はウニリィが横に手を広げたのを二人分くらいあるのだ。
ふよん。
赤いスライムが体の一部をすこし伸ばして棚に触れた。それだけでぎしぎしと棚が軋む。
大きさ的にも丈夫さとしても、どう考えてもここで眠るのは無理である。
ふよんふよん。
赤いスライムは扉の方に向かった。
扉の外にいる青いのと黄色いのと緑色のと顔を突き合わせる。
––ダメっぽい。
––おおきすぎる。
––どうしよう。
––こうしよう。
スライムたちの体が突如輝く。
「ちょっ」
誰も反応する間がなかった。
そして光が収まった時、彼らのいたところには普通のサイズのスライムが山のように重なり合っていたのである。
「ウッソやろ!?」
マサクィが叫ぶ。
「自発的退化まで可能なの!?」
元の大きさになったスライムたちは、ウニリィの周りを囲む。
ふるふるふるふるふるふる。
さっきまでと違って明確に意思は伝わってこない。
それでも、彼らが言いたいことは、『これなら大丈夫?』ということと、『ごはんー』であるとわかる。
「ぷっ」
ウニリィは思わず噴き出した。
「なるほど? 確かに私は退化しちゃダメって一度も言ったことないものね」
ふるふる。
スライムは肯定するように揺れる。
「セーヴン!」
「はい、準備できましたよ」
彼は栄養剤を取りに行っていたのである。樽を重そうに運んできた。
ウニリィがそちらに向かおうとすると、クレーザーが止める。
「飯はこちらでやっとくからよ。ウニリィ、お前はスライムとのテイムがちゃんと繋がってるか確認しててくれ」
「あ、そうね!」
ということで、セーヴンたちが柄杓でスライムたちに栄養剤をたっぷりかけてやり、それを吸収してお腹いっぱいになったスライムが順にふよふよとウニリィのところに近づいて手にとって確認される。そしてそれが済んだらマサクィによって棚に並べられていくという流れになった。
「どうっすか」
マサクィが漠然と問う。
「えっと、繋がり……従魔とのリンクは大丈夫っていう言い方でいいのかな」
「ういっす、なら問題ないっす」
ちゃんとウニリィにテイムされた魔獣として、言うことを聞くということだ。
「数は減ってるわね」
さっきまでのように異常な数になっていたのより減っているのはもちろんだが、ウニリィたちが王都に向かう前よりも少し減っている様子だった。棚に並べ切れば正確な数もわかるだろうが。
「多分、元のスライムからいち、に、さん……四段階進化してるのがエレメントスライム将軍なんですよね、そこから今、二段階退化したんだと思います」
「つまり一回は進化した感じってことかしら」
「っすね」
そうかー、つまりスライム王って通常のスライムから5段階進化でいけるんだなー、これ学会に持ってけば大発見扱いなんだよなー。とマサクィは思った。
ウニリィはちょうど手にしていた緑色のスライムを持ち上げる。
ふるふる。
「これは何スライムですかね」
「エレメントスライムっすね。緑なんで風で」
じいっとウニリィは顔の高さに持ち上げたスライムを見つめる。
大きさは今までのスライムと変わらないが、透き通った緑色が今までは淡い色だったが、これは鮮やかであった。属性の力が強く出ているのだろう。
「へー、風ねー、どんなことができるのかな」
ウニリィがそう言った瞬間だった。
ぷくー。
スライムがぷくりと丸く膨らんだ。
「え、ちょっ」
ぷふー。
そんな音と共にスライムが萎んでもとのサイズに戻る。
それは風船を膨らませてから萎ませたようであり、風船が萎むとは空気が放出されるということである。
ぶわっ。
ウニリィに強く風が吹きつけた。
「きゃっ!」
ウニリィの長い髪が乱され、そして特に警戒もせずに座っていたウニリィは強風によって後ろに転ばされた。
なんならスカートまで捲れ上がった。
風はすぐにやみ、がばっとウニリィは身を起こしてスカートを押さえる。
「み、見ました……?」
マサクィはゆっくりと目を逸らした。
ウニリィが転んだ際に手放したスライムが地面に転がっている。
「もう! もう!」
ぱぁん!
ウニリィがスライムを引っ叩く。
ふるふる。
スライムはその刺激に喜んだ。






