第29話:ぎゅむ。
ξ˚⊿˚)ξもうこの作品のヒーロー、スライムでいいんじゃないかな。ダメですね、はい。
さて、スライム将軍である。
マサクィの分類によれば属性を強く有するので、例えば青いやつならウォーター・エレメント・スライム将軍ということになる。あとはアースとウィンドとファイアである。
「名前が長いわ」
ウニリィの言葉に赤いスライムがふよん、と揺れた。
––そんなー。
スライムの声がウニリィの脳内には聞こえる気がする。
「……というより会話できる?」
––こえはだせないよー。
発声器官がないのは変わらないようだ。だが、意思は明瞭に伝わってくる。進化によって、思考力が今までよりずっと高くなっているのは間違いないようだった。
ふよんふよんふよん。
青くてでっかいのと黄色いのと緑色のが前に出てきて、赤くてでっかいのの隣に並んだ。ウニリィの視界は隙間もなくみっちみちである。
ナンディオは警戒に改めて盾を構え直した。
「みんな、どうしたの?」
––あのね。
––あのときはごめんね。
「!」
––こうしてあやまれるから。
––もうきずつけたりしないから。
スライムたちはそう意思を伝えてきた。
彼らもずっと気にしていたのだ。
ウニリィはふと得心する。彼らが進化したがっていたのは、ずっとこれを彼女に伝えたかったからという理由もあったのだと。
「わ、わたしこそ、ごめんねぇ、……ありがとう」
ウニリィはそう言って、スライムに飛びついた。
むにょん。
柔らかい体が、だがしっかりと彼女を包み込むようにして支えた。
「ウニリィさん!」
ナンディオやマサクィたちは慌てる。
ウニリィが赤いスライムに飛びついたかと思うと、他のスライムも集まって四匹のスライムに取り込まれているように見えるためだ。
「大丈夫だ」
クレーザーはそう言って、彼らが前に出ようとするのをとどめた。
スライムの出す消化液は強力だ。ウニリィはあの事故以来、スライムを愛していても決して注意は怠らなかった。
その彼女が自らスライムに身を預けたのだ。それだけの、絶対の信頼を示しているのである。
集まったスライムたちに押し出されるようにして、ウニリィは四匹の体の上に寝転がるような形になった。
ふよんふよんふよんふよん。
スライムたちの体は歓喜に波打ち、わっしょいわっしょいウニリィを担いでいるような感じである。
「あははは」
ウニリィは笑う。
天を見上げれば、気の早い星がまだ明るい空に見え始めていた。
「……肝が冷えます」
「スライム将軍を四匹、完全に支配下に? マジで?」
いくらスライムが下級の魔獣とはいえ、上位種、それも王級の一個手前のものである。実のところ進化がここまできてしまうと、その戦力も尋常ではないのだ。もし戦いとなれば騎士団が魔術師団と連携してやっと討伐が考えられるようなものである。それが四体!
ナンディオはそれに戦慄し、マサクィはそれを完璧に統率しているウニリィのテイマーとしての腕前に戦慄した。
「そらがきれー」
ふよんふよん。
だが、ウニリィとスライムたちは呑気なモノである。囚われていた過去に解放された喜びもあるのだろう。
「おーい、そろそろ降りてこい」
クレーザーは呼びかける。
「今日はもう日が暮れるし、その、なんだ。エレメンタル・スライム将軍とやらの検証とかは明日にしよう」
「そうね」
ふよん。
日がもう西の地平線を赤く染めている。そもそも旅行の荷物の片付けすらせずにこのトラブルであったのだ。
ウニリィの身体をスライムたちはゆっくりと地上におろした。
彼女の身体も服も、どこも消化されたような跡はない。これはクレーザーも内心では安堵した。
「じゃあ、今日はお家に帰るけど、何かあるかしら?」
––おなかー。
––ちょっとへったー。
––ちょっとじゃなくへったー。
––ごはんー。
彼らは口々に空腹を訴える思念をウニリィに送る。
進化にはエネルギーを使う。それゆえだろう。そういえばさっきもマサクィを食べていい? と聞いていた。
「お父さん、みんながおなかへったって」
「あー……なるほどな。一度、厩舎に戻してそこで食事させるか。飯は同じでいいのか?」
いつものクレーザー特製の栄養剤でいいのかと尋ねた。
ふよんふよん。
彼らは嬉しそうに身を揺らす。
「いいって」
「じゃあ用意するから中で待ってろ」
そういうことになった。だが……。
ぎゅむ。
「ええと……」
ウニリィが困惑する。
ぎゅむーー。
ウニリィが赤くてでっかいスライムの体を押す。
ふよん。
体は揺れるが動かない。
「……ええっと、入らないわね」
厩舎の入り口である。
高さは良い。問題は幅である。魔獣用の頑丈な厩舎の扉の幅よりも、大きくなったスライムの幅の方がずっと太いのであった。
今は赤いのが体の前半分を突っ込んで動かなくなったところである。
ふよんふよん。
黄色いのが赤いのの後ろに回り込んだ。そしてその巨体で赤いのを押し込んでいく。
ぎゅむ。
入り口が詰まった。






