第27話:ぶるぶるぶる!
「融合進化……とは?」
ナンディオが尋ねた。
「……えーっと、それはっすね」
ウニリィが顔色を白くさせて固まっているので、マサクィが説明する。
魔獣は自らの力が種としての上限に近づくと、その存在をより高位のものに変化させることが可能であると。
風を操る竜、ウィンドドラゴンであれば嵐竜、ストームドラゴンに。
フレイムゴリラであればヘルフレイムゴリラに。
「進化そのものは騎士様ならご存じかと思うっすけど」
ナンディオは頷く。
「スライムは特殊で、複数体のスライムが集まって一つの存在になることで進化するんすよね」
「なるほど、故に融合進化と。確かにそれをすれば、増えたスライムは減らせそうですな」
「そうなんすけどねぇ……」
「私が、私のせいで、うちのスライムたちの進化を……止めていたんです」
ウニリィがそう言う声は明らかに震えていた。クレーザーが顔をしかめる。
「ウニリィ、お前のせいではない」
ウニリィは服の上から脇腹を撫でる。
「私の身体には大きな傷があります。昔、スライムに食われかけたものが」
「それは……」
「貴族の令嬢には、相応しくない瑕疵かもしれませんね」
ウニリィは自嘲ぎみにそう言った。クレーザーは無理するな、言わなくてもいいと告げるが、ウニリィは目を伏せながらゆっくりと首を横に振って、大丈夫と呟いてから言葉を続けた。
「それは私がスライムを不用意に進化させてしまったからなんです」
「進化すれば魔獣の格が上がるっすからね。それによってテイムしている魔獣の力がテイマーの能力を超えてしまう場合があるんで……、テイマーの事故でもかなり多いパターンなんすよね」
つまり幼い日のウニリィがスライムを進化させたことにより、ウニリィの制御を離れてしまったための事故であったのだ。
「ごめんね、お父さん」
「……なにがだ」
「本当は上級スライムを飼育するためにこの土地を用意したはずなのに」
ふん、とクレーザーは鼻を鳴らす。彼が上位種のスライムを扱おうとしていて、そのためにこの環境を整えたのは確かに事実だ。
「ウニリィが責任を感じる必要なんざ全くない。そもそも俺の管理不足だし、ジョーが出ていっちまったせいでもあるだろ」
ジョーはテイマーの才はなかったが、彼がいればウニリィがスライムに襲い掛かられたとしたら身を挺して護ることくらいはしたはずである。
「ジョーシュトラウム卿が……」
サレキッシモは思わず目を輝かせる。ジョーの足跡がこの村には色濃く残っているようだと期待して。
「それにウニリィ、今はやる気なんだろ?」
ウニリィの言葉の震えは最初だけだった。話している途中に、すでにウニリィの気持ちが固まっているのが父にはわかる。
ウニリィは両手で自らの頬をぱぁん! と叩く。
「……いたい」
「ウニリィさん、無理は……」
ナンディオがとめようとするが、頬を赤くしたウニリィは力強く立ち上がった。
「お父さん、スライムを進化させるわ」
「いいぞ」
「ナンディオさん、マサクィさん」
「はい」
「なんでしょう」
「見守ってて」
彼らは力強く頷き、そして一同は家を出る。
ふるふるふるふるふるふるふるふるふるふる。
牧草地はスライムでみっしりである。さすがに狭すぎて外に出たがっている様子だが、鉄級のテイマーたちが宥めたり、セーヴンがモップで中に追い返したりしていた。
ウニリィが牧草地の入り口の柵の前に立つ。
「……みんな」
ウニリィが声をかけると、スライムたちはぴたりと動きを止めた。
「増えちゃダメって言ってたのに」
むにぃとスライムたちが首を垂れるかのようにひらぺったくなる。
ウニリィにはなんとなく状況がわかった。あるいはスライムたちの意思がなんとなく流れているのかもしれない。
スライムには分裂しないようウニリィが言い聞かせているのだが、厩舎の屋根裏に隠れてしまって、しばらくその命令を聞いていなかった個体がいたのだと。それが分裂を始めたことで、皆がそれにつられてしまったのだと。
スライムを責めたところで意味はないし、責めるべきでもない。もちろんマサクィたちを責めることもない。それこそこれはウニリィの管理責任なのだから。
「大丈夫よ。それでね」
スライムたちが顔を上げるように身を持ち上げてウニリィを見る。
スライムたちに視覚はないし、聴覚もない。それでも、テイマーとして、彼らの主人として。意思を伝えることはできる。ウニリィは今までそれをあまり認識せずになんとなくで行っていたが、ちゃんとしたテイマーであるマサクィが滞在していたことにより、彼からそれを教わったのだ。
「みんなの、進化を、許します」
ウニリィは一言ずつ区切ってそう語りかける。その途端だった。
ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!
スライムたちが一斉に強く身を揺らしたのだった。
「めっちゃ喜んでるっすね」
マサクィが笑う。スライムテイマーでない者たちにとっても、彼らが喜んでいるのはどう見ても明らかだった。
ぱぁん!
ウニリィが手を叩く。
「まずは色ごとに集まって!」
のそのそと大移動が始まった。
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