第154話:とっちめてやらねば。
クレーザーはなるほど、ウニリィの婚約話がこんな影響をと思った。だが同時に、ん? と考えるところもある。
マグニヴェラーレがウニリィをパートナーに選んだために、リンギェをエスコートする人間がいない。リンギェが今回パートナーを探すことになった理由であるが、それはサレキッシモの言葉を使えば『前提』だ。
ミドー公爵家の末姫であるリンギェが夜会のパートナーを求めれば、それに応じる男など無数にいるだろう。そんな彼女がなぜそこでサレキッシモを選んだのかということである。
「サレキッシモ君は彼女にとってなにが『手頃』だったんだい?」
クレーザーはそれをリンギェの言った言葉を使って尋ねた。
サレキッシモはソファーの上でニヤリと笑う。
「なんだとおもいます?」
「……婚約者候補としてとか」
「あはははは! 王都をふらついてる吟遊詩人の私が、公爵令嬢と婚約者として釣り合うはずはないでしょう!」
サレキッシモは腹を抱えて大いに笑った。
いや、クレーザーの言うことは一般論として確かに正しい。社交で男女が行動を共にするというのは、家族であったり婚約者やそれに準じる仲であるということを示すのだから。
「手頃なのは男よけとしてですよ」
「男よけ」
「リンギェ嬢は婚約者を決める適齢期です。今期の大きな夜会で彼女をエスコートした者がいれば、それは事実上の婚約者としてみなされるでしょう。しかし、彼女はなんらかの理由での婚約者を定めたくはないのでしょうね」
「なんらかの理由……」
「それが何かはわかりません。今は結婚したくない理由があるのか、秘められた恋をしているのかとかね。後者だと歌のタネになって面白いのですが」
サレキッシモは笑いながら吟遊詩人らしい意見を言った。クレーザーは尋ねる。
「しかしサレキッシモ君が彼女をエスコートしたんだったら、君が婚約者とみなされるのでは?」
「まず私がちょっと歳が離れてるのがまずちょうど良いですね。結婚において男が倍ほども歳上なことは貴族でも平民でも決してはめずらしくないですが、それは理由あってのこと。リンギェ嬢がそうする必要性がないので、婚約者にはあまり見えないでしょう」
例えば商人の男であれば幼少の頃から丁稚修行をして金を貯めて、独立して自分の店を持ってやっと一人前、それからやっと嫁を貰うということがある。そうすると歳がいってから若い娘を嫁にもらうということも多いのだ。騎士や兵士も似たようなものだ。娘の親とて最前線の一兵卒に嫁がせるよりは、多少歳が離れていても手柄を立てて収入も安定した男に嫁がせたいと思うものである。
しかし、ミドー公爵の末の姫がそれに該当するかと言ったら当然そんなことはありえない。
「ふーむ、なるほど。しかしそれだったら公爵家の従者に頼んでも良いのでは?」
「年齢だけならね。しかし従者だと上の地位の者の命令で容易に追いやられてしまう懸念があるんですよ」
「お前そこをどけとか、彼女を渡せ、そう言われたら逆らえないってことか」
「そこで私です。このミステリアスな紳士はどこからきたのかわからないですし、高圧的に出づらいのですよ」
クレーザーは笑う。
「そして直接的な手段に出られたら姿をくらましやすいですしね。しがらみがないんで、とんずらできますから」
「あー、それは貴族だとそうはいかない」
サレキッシモは器用にウインクを一つ。
「というわけで、私に白羽の矢が立ったのでしょう」
「なるほどねぇ」
「公爵夫妻の発案かリンギェお嬢様の発案かはわかりませんが、貴族家の婚約は家長の意向が最重視されます。少なくともミドー公爵もこのことを存じているのでしょうね」
「ほほう、さすがはサレキッシモ君も元貴族で詳しいね」
ふふん、とまんざらでもない様子でサレキッシモは笑った。
とクレーザーは昨日の話を回想した。
このことをウニリィに伝えるわけにはいかないが、ともあれ彼女を安心させてやろうと言う。
「大丈夫」
「……いや、そんな本人だけ納得したような表情されても、何もわからないんだけど」
ウニリィはじとりとした視線を父に向ける。
まあこの場では語れない理由だってあるのかもしれないとウニリィは考える。ちょっと自分を通さずにサレキッシモとお父さんが通じ合ってるのはなんか腑に落ちないけども。後でサレキッシモをとっちめて聞き出してやらねば。
ウニリィはそう決心した。だがその機会は永遠に失われることになる。
「お父様、お母様」
「なんだい、リンギェ」
「なにかしら」
鈴が鳴るような声でリンギェは両親を呼ぶ。そしてサレキッシモを示した。
「こちらにいるサレキッシモ。彼に祝勝会のエスコートを頼みましたので」
サレキッシモは優雅に一礼をとる。
「はぁ……!?」
エバラン村の食材を使っていた朝食を楽しみに微笑みを浮かべていた公爵夫妻が、鬼の形相を浮かべた。
「ちょっと、ご両親に伝えてないんですか!?」
サレキッシモはリンギェに耳打ちするが、リンギェが答える前に公爵の低い声が響く。
「随分と仲が良さそうだねぇ」
「ひっ」
「サレキッシモ君と言ったな。ちょっと……いやじっくり話を聞かせてもらおうか」
「そうですわね。どこでこの虫がリンギェちゃんに近づいたのか……」
サレキッシモはミドー公爵夫妻に連れて行かれてとっちめられた。
ξ˚⊿˚)ξいよいよ来週火曜日、
4/7がコミカライズウニリィ発売日です!
よろしくお願いいたします!!







