第144話:がっでむ!
夕食の後、リンギェたちとカードゲームなどしながら会話を楽しんでいたウニリィであったが、ふと誰かに呼ばれたような気がして立ち上がった。
「……スライムが呼んでいます」
誰かも何かもない。ウニリィが第六感のようなものを働かせることがあるのはスライムでしかあり得ないのだが。
「お義姉さま、ハートの6を出してから行ってくださいませ」
リンギェが笑いながら言う。テーブルの上にはカードが並んでいた。7並べである。
「置いたら負けちゃうじゃないですか」
「残念ながらもう詰んでましてよ」
ぐぬぬ……とウニリィは唸る。
さっきから運の要素も強いはずのゲームを何戦かしているが勝てない。
リンギェに言わせればウニリィは顔に出すぎるのであるが。ババ抜きしていて、ここまでジョーカーの位置を表情であらわせるのかと驚くばかりである。
ウニリィがハートの6を置けば、卓を囲んでいる母娘とその侍女たちがハートの5、4、3と群がり、ウニリィは手札から出せる札がなくて負けた。
「では行きましょうか」
「トリュフィーヌ様も行かれるのですか?」
ウニリィが問えば彼女は頷きを返す。
「ええ、家の中のことですし。それとお義母様って呼んでもよくってよ」
「……みなさん、良くしてくれるのはとても嬉しいのですが、ちょっと気が早いのではー」
ふふふ、とトリュフィーヌは笑う。ふふふ、とリンギェも笑う。
えへへ、となんとなくウニリィも笑みを返す。
ウニリィは気づいてないが、完全に嫁として囲い込まれているのだった。
そういうわけでウニリィがスライムの気配のする方に向かえば、シガールームである。
中に入れば、窓からスライムが部屋の中を覗き込んで体をゆらゆらと揺らし、部屋の中ではレンティヌラとボルチーノが顔を引きつらせていた。
「失礼します」
「おや、ウニリィさん」
マグニヴェラーレはとろけるような笑みを浮かべ、父と兄はぎょっとした顔を浮かべた。
「うちのスライムが何か粗相をしてませんか?」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、ちょっと父や兄には刺激が強かったみたいで」
「まあ、あなた……」
トリュフィーヌはあきれ顔である。
「いや、こんな上位種とは聞いてないぞ……」
貴族の大半は魔術を専門には学ばない。だが、マグニヴェラーレが優秀な魔術師であるのはなぜかといえば、高位の貴族たちには魔力を有している者が多いからである。
そして自衛のため、最低限の魔力感知を学び魔術への抵抗力はつけておくのだ。これは暗殺などから逃れる意味もある。
「王ではないというが、そのなりかけではないか」
兄も言う。
つまり、彼らはこのスライムがただおおきいだけではないと知覚できたのである。
「まあ、ミドー当主ともあろう者が情けないことをおっしゃって。ウニリィさんの従魔なのですよ、ねえ?」
女性陣の方が肝が据わっているようである。魔力感知の精度がそこまで高くないからかもしれないとヴェラーレは思わなくもないが。
「え、ええ。大丈夫ですよー」
ウニリィがそう言えば、スライムもうんうんと頷くような仕草を見せた。
ふと、ウニリィは思いだして尋ねる。
「そういえば、ヴェラーレさんが言ってたんだけど、あなた、彼に何か伝えたい事があるの?」
スライムはうにょうにょと震えた。
なにやらもじもじするような仕草にも見える。
「まあ! なんてこと!」
ウニリィが驚きの声を上げたので、マグニヴェラーレは尋ねる。
「スライムはなんと?」
「私には秘密なんですって」
うにょん。
「村に戻ったら、マサクィさんからヴェラーレさんに伝えて貰うし、いそいだ話でもないからだいじょーぶ。だそうですよ。……何かしら?」
「なんでしょうね」
謎である。
主人に対して従魔が秘密を持つなどということはそうそう聞くものではない。
テイマーギルドの長などが聞けば頭を抱えるだろうが、ここにはそれに疑問を思うものはいないのであった。
カタン。と音がした。
レンティヌラが気付け代わりに蒸留酒をあおったのである。
音はグラスが卓に置かれる音であった。
彼はふーっと酒気混じりの息を吐く。
「いやいや、驚いた。スライムをたくさん飼っているのとか、大きいという話も聞いたが……」
王都でスライムを溢れさせた事件を当然彼も知っている。だが、水を含めば膨らむのがスライムだ。
マグニヴェラーレが気にするとはただのスライムテイマー、スライム職人ではないと思っていたが、ここまで上位種とも思っていなかった。
「だがわかったことがある。ジョーシュトラウム卿だ」
うんうんと、ボルチーノも頷いた。
「ジョー、兄が何か失礼を?」
「いや、そうではない。彼が王都に戻ってきた、つまり凱旋の直後に陛下に謁見したときの話だ」
当然、貴族たち、レンティヌラたちもその場にいたということだ。
「はい」
「彼はボロボロの鎧を身につけていた。陛下は尋ねられたのだ。それほどに激戦であったのかと。ジョーシュトラウム卿をねぎらうお気持ちだったのであろう」
「は、はい」
「ジョーシュトラウム卿は笑ってこう返したのだ。『いや、これは戦ではなく妹にやられたのです』とな」
「がっでむ!」
ウニリィは天に吼えた。







