第143話:良さそうな娘じゃないか。
その後、マグニヴェラーレの父でありミドー家当主であるレンティヌラ、そして兄であり次期当主となるボルチーノが帰宅してきた。
今日は貴族たちの会議があり、本来であればその後は貴族たちと会食を入れるはずだ。会議の根回しである。だが、ウニリィが来ているという連絡があったのだろう。会食をキャンセルして夕食のため自宅に戻ってきたのである。
ウニリィは彼らと挨拶をかわし、夕食を共にした。だが、食事中は多少の話はすれども、貴族の作法的にもそこまで話し込む訳でもないし、ウニリィもマナーをミスしないよう緊張していたこともあってそうたくさんの話ができるわけではなかった。
まあ、幾度か『ぴぇっ』と鳴き声が漏れたかもしれないが些細なことであろう。
そして夕食後、ウニリィは女たちに連れて行かれてしまい、男たちはシガールームに移動である。
マグニヴェラーレはタバコを好まないが、父や兄は嗜む。彼らは葉巻に火をつけ、紫煙を燻らせた。
マグニヴェラーレがごく僅かな魔力で風の障壁を身の回りに展開すると、彼の側に向かってきた煙はゆっくりと弾かれて天井へと昇っていった。
「すまんな」
「いいえ、問題ありません」
マグニヴェラーレは従者に蒸留酒を持ってくるよう頼むと、ソファーに座った。
シガールームは男たちの社交場である。
「……良さそうな娘じゃないか」
「どうも」
父が言い、マグニヴェラーレは軽く応じる。ボルチーノは笑う。
「そんなにぱっとした令嬢には見えなかったけどね」
「華やかさという意味ではそうかもしれませんね」
「お前ならもっときれいどころ捕まえてこれるだろうに」
マグニヴェラーレは首を横に振る。
「美人が見たければ鏡でも見てますよ」
父と兄は苦笑した。まあ間違いない。社交界で男女問わず一番の美形は誰かと問えば、マグニヴェラーレの名は必ずその中に上がってくるのだ。
兄は続けて問う。
「貴族らしくないのが好みか?」
「私が知る貴族らしい令嬢の大半は、頭に綿菓子でも詰まってるのではないかという会話しかできないか、私の地位か容貌を手に入れようとぎらついた感情を向けてきました。それを貴族らしいとするのであればそうでしょうね」
レンティヌラは息子をたしなめる。
「女というのはそういうものばかりではないぞ」
「わかっていますよ。リンギェもそうですが、賢い女性だっている。キーシュのアレクサンドラもそうでした」
そう言ったところでマグニヴェラーレは笑った。
「どうした?」
「いや、自分の結婚が認められれば、彼女が義姉になるのだなと」
ウニリィの兄のジョーはアレクサンドラと結婚するのだから。
「まあ、それも込みでこちらとしては悪い縁談ではない」
父は言う。
二大公爵家は祖を同じくしていることもあり、その間で婚姻が結ばれることはあまりない。だがこうして友好的な近さを保つことは両家にとって悪くない話だった。
ボルチーノは尋ねる。
「それにしてもちょっと貴族なれしていないというか、ぽやっとし過ぎじゃないか?」
兄としてはウニリィに不安があるようだった。父は頷く。
「これが仮にボルチーノがウニリィ嬢と結婚したいと言ってきたのであれば、公爵家当主として反対せざるを得ないだろう。だが、オーウォシュ子爵となるヴェラーレなら問題ない」
「ありがとうございます」
マグニヴェラーレは謝意を述べた。これで、家庭内の障害はなくなったも同然ということだ。
「魔導書を嫁に連れてきたのではないだけ万倍マシだとも」
父も母と同じことを言うのだった。兄が言葉を継ぐ。
「それは確かに。スライムテイマーと聞いたが」
「ええ」
「有能とは言っていたが、流石にスライムはどうなのか。家から見栄えの良い魔獣を提供しようか? ねえ、父上」
「確かにスライム程度と見る向きはあろうな。必要なら用立てるが」
貴族たちの間でも強く、見栄えのする魔獣というのは評価が高い。ドラゴンは別格としても、ペガサスやフェニックスなど、美しく飛ぶ魔獣は人気がある。
もちろんウニリィのテイマーの力量にもよるが、ミドー家の伝手あればそれらを入手することも不可能ではない。
マグニヴェラーレは行儀悪くフットレストに長い脚を投げ出すと、酒盃を持った手で窓の外を指差した。
「それを見て、スライム程度と言えるならどうぞ」
「ん?」
窓の外で、巨大な緑色のスライムがのしのしと庭を闊歩している。
「んん!?」
マグニヴェラーレは魔力に指向性を持たせてスライムに向ける。
魔術として形になってはいない。だが、魔力を感知できるものなら気づけるものだ。
ふるり。
緑色のスライムは身を震わせると、のそのそと窓ににじりよってきた。
うにょん。
なあに? とでも言っているのだろうことはマグニヴェラーレにはわかる。父や兄にはわからない。
「ひえぇ!」
男二人の悲鳴がシガールームに響くのだった。
ξ˚⊿˚)ξ『ポ』ではなく『ボ』







