第142話:かわいい。
トリュフィーヌやリンギェから見て、つまり高位の貴族夫人や令嬢が客観的に見て、ウニリィという少女が可愛らしい女性であるのは間違いない。
元々村娘であるから素朴なところはあるが、平民らしく健康的な美しさを有している。そしてそれにもかかわらず、平民にしては日焼けも少なく色白であるのは貴族令嬢としても良い。これはウニリィがスライムの酸への対策として、夏でも厚着で手袋を欠かさないことも理由だろう。
化粧っ気もなく、装いもちょっと裕福な平民がおしゃれして街歩きしている程度のものであった。それを風呂に入れて、ドレスに着替えさせ、化粧まで施せば確かに化ける。磨けば光るというやつだ。
それは彼女たちにも納得いく。
「春の妖精ねぇ……」
しかし、マグニヴェラーレがそうとまで絶賛するほどかというと、それもまたどうなのかと思うのである。
トリュフィーヌは跪く息子から目を逸らしてリンギェを見た。
リンギェもまた母に視線をやって、軽く肩をすくめて笑う。
「ちぃ兄様はウニリィ義姉さまにぞっこんですから」
「そうね、それは幸いなことだわ」
トリュフィーヌは頷く。
そのうち魔導書でも持ってきて、これが大切なヒトですとでも言い出して結婚しようとするのではなどと思っていた三男が、こうして女性に浮いたセリフの一つでも言えるようになったのだ。
幸いなことに間違いはない。
ただ、ちょっと悪意的な言い方にはなってしまうが、ウニリィ程度に美しい女性など社交界にはいくらでもいるのだ。輝くような金髪、透き通るような白い肌、整った顔立ち。王族や高位貴族ともなればなおのことである。
「今まで見合いとかさせていたご令嬢たちとは何が違ったのかしら」
つまり、美しさだけが基準であれば、マグニヴェラーレの出会ってきた女性たちの中にはウニリィよりももっと美しい女性がいたのである。
「やっぱり『ぴぇっ』と鳴くところじゃないでしょうか」
母娘は声を出して笑い出した。
「そうね、私が紹介してきた令嬢は『ぴぇっ』とは鳴かなかったわね」
「きっと春の妖精は『ぴぇっ』と鳴くのです」
「……そこ、うるさいですよ」
マグニヴェラーレは立ち上がり、不満げに言った。
「ごめんあそばせ。でも貴方が女性に情熱的なのを見ると、どうしても騙されたような気分になるのよ」
「だ、騙してなど……!」
ウニリィは慌てて手を振る。
「ああ、お義姉さま、そういう意味ではないのです。お義姉さまはご存じないかと思いますが、ちぃ兄様は本当に女性に塩対応だったのですよ。それがこれですから」
リンギェはにっこりと笑みを浮かべて続ける。
「だから母も私も、お義姉さまにはすっごく感謝してるんですよ」
トリュフィーヌも頷き、ウニリィは胸を撫で下ろす。母は尋ねた。
「それで、ヴェラーレ」
「はい」
「やはり決め手は『ぴぇっ』なのですか?」
「違います」
「本当に?」
「可愛らしいとは思いますが」
「やはり」
「いや、違いますからね」
「ではどこが?」
マグニヴェラーレは自分で椅子を引いて腰を下ろす。ウニリィの隣である。リンギェはにやにやした。
それには気づかぬ様子でマグニヴェラーレは顎に手を当てて考え、ゆっくりと口を動かす。
「間違いなく最初は興味でしたよ。国王陛下の前にスライムを持ち込んだ女性、スライムを使って脱獄しようとする女性」
「これは面白い女枠」
「さすがにその言い方はウニリィ嬢に失礼では?」
「すみません、義姉さま」
「いえ、その通りですし」
ウニリィはとんでもないと首を振る。
マグニヴェラーレがとりなしてくれ、保護者となってくれたからこうして自由に過ごせているのである。そこには感謝しかないとウニリィは言った。
「大丈夫? 保護者だからっていってこの子に無理難題とか押し付けられてない? 迷惑だったら相談してちょうだいね?」
「は、はい。大丈夫です」
「それで? 興味がどうなったのかしら」
「彼女と彼女の父が飼育しているスライムもまた非常に興味深い。スライムとして極めて高い能力、そして異常と言ってすら良いほどの知性。学術的、魔術的な興味が先行したことも否めません。あ、そうだ。先ほどスライムが私に何か伝えたそうな様子でした。後で翻訳を」
「なにかしら? はい、わかりました」
マグニヴェラーレは言葉の途中で振り返ってウニリィにそう伝える。
母親はちょっとつまらなそうな雰囲気である。だがリンギェはそれをたしなめた。
「ほら、お母様。先行ですから。続きがありますよ」
「そうよね。それで?」
マグニヴェラーレは軽く肩を竦める。
「ウニリィ嬢の隣がとても居心地良いと気づいたのですよ。私は自分で言うのもなんですが優良物件です。それに対して貪欲ではなく、金銭も社会的地位も求めてはいない。ただ、私に対する好意と感謝だけは示してくれる。魔術師としての好奇心まで満たしてくれる」
「ふむ」
「そうして見ているうちに、彼女の美しさ、それは外見もそうですし、心のありようにも惹かれていったのです」
そうしてマグニヴェラーレはウニリィの手を取った。
「貴女の隣にいられるなら、私は幸せになれると感じたのです。ですから、私は貴女の隣にいられるよう努力したい。そして貴女を幸せにしたい」
「まっ、情熱的」
トリュフィーヌは感嘆の声をあげ、三人の視線がウニリィに集まる。
「ぴぇー」
ウニリィは突っ伏して顔を隠すようにして奇声を上げた。
「かわいい」
男一人と女二人の声が重なった。
ξ˚⊿˚)ξすいません、前回告知し忘れましたが、今週の月曜日にコミカライズ版ウニリィの4話が公開されています。マサクィさんの顔芸回です。毎回誰かしら顔芸やってる気もする。見てね!
よろしくお願いいたします。
ちなみに書籍版は4月に発売予定です。
先日、後書きなども出版社さんに送りましたし書籍化の準備ができておりましてよ。
そちらも重ねてよろしくお願いいたします。







