第136話:あなたそれでいいの?
「待って」
リスコゥは眉間を押さえて固まった。
「えー……」
「あー……」
ノハナーとオットーは困惑し、唖然とした。
わふ。
ナガトゥキーはオットーの手をぺろぺろと舐め、分離したスライムはリスコゥが動かなくなってしまったので、のそのそとウニリィの膝の上に向かった。
「分離が……できる?」
「融合進化というんですか? スライムたちは集まってくっついて進化したので、こうやって離れることも可能みたいです」
「スウーッ」
リスコゥの疑問にウニリィが答える。
「ああ、そうか。普段は分離して過ごしてるのか」
オットーが納得したような声を出した。
「そうですね。このエレメンタルスライムの状態で過ごしています」
常日頃からスライム将軍がのしのし動いているという訳ではないようであった。リスコゥは再び考える。
「それは……通常のエレメンタルスライムか?」
「通常……のを見たことはないのですが、騎士級? とかではないです」
実のところ、スライムが騎士級を飛ばして進化してるため、ウニリィは騎士級のスライムを見たことはない。
リスコゥはオットーに視線をやり、彼は頷きを返した。その言葉に間違いないだろうと判断しているようだ。
ともあれ、エレメンタルスライムであれば多少通常のより強力だとしても、鉄級が扱う従魔として問題はない。
「まあそれであれば、研修の後に小型の転移石をお渡ししても構いません」
ふよふよ。
ふるふる。
巨大なスライムも、ウニリィの膝の上のスライムも、ふるふると揺れて喜びをあらわしているようだった。
ウニリィは両手で膝の上のスライムを挟み、目の高さまで持ち上げて問いかける。
「ねえ、あなたそれでいいの?」
うにょん。
それでいいってどういうこと?
とスライムは身を捩る。リスコゥたちも急にウニリィが何を言い出すのかと思った。
「いや、ほら。私が危険な時に小さいのが召喚されるんだと、水のが来ることになるんじゃないかしら」
びくん!
その言葉に衝撃を受け、ウニリィの手の中でスライムが伸びて固まった。
巨大なスライムも跳び上がって驚き、着地時に地面を大きく揺らした。
ウォーターエレメントスライムは彼らの中で唯一、将軍のランクのまま小さくなれるのである。
ウニリィが危機の時に召喚されるというなら、彼が呼び出されることになると緑色のも気づいたらしかった。
うにょんうにょんうにょん。
ウニリィの手の中でスライムが激しく身を捩る。子どもが床の上に寝転がっていやいやをしているようであった。
「召喚石いらないそうです」
ウニリィは笑みを浮かべてそう言った。
彼女は実のところ、従魔召喚石なんて求めていないのである。だって彼女はテイマーのランクを金なんかにあげる必要もなければ、危険なところに行く気もないのだから。
逆にそんなものを持っていれば、スライムたちがそれを使って冒険でも行こうなんて言い出しかねないと思っているくらいだ。
だからウニリィは召喚石は仮に許可が出たとしても、持って帰るのを断れないかなと考えていたくらいであって、スライムの方からいらないと言ってくれる流れになったのは、むしろしめしめと思っているくらいなのである。
「うふふ」
思わず声も漏れる。
こうして召喚石を持ち帰ることは阻止できた。だが、これが将来さらなるトラブルを呼び込むことになるのだ。しかし当然、そんなことは今のウニリィにはわからないのである。
それはともかく。
「そ、そうか」
リスコゥは驚愕を表情に浮かべ、なんとか絞り出したというような様子で言葉を返す。
あれ、とウニリィは思った。
ここはギルド長も喜ぶ場面では? スライムが王都に転移してくるのを阻止した的な流れなんですけど?
だが、リスコゥが驚愕しているのはそこではない。
「う、うう、ウニリィさん?」
「はい」
「水のって?」
「あ、水のスライム将軍は小さくなれるんですよー」
リスコゥは片手を前に出してウニリィの言葉を止め、逆の手で再び眉間を押さえた。
「待って」
「はい」
「さっき同じのがあと3匹いるっていったよね?」
「言いましたね」
「ウインド・エレメンタルスライム将軍があと三匹いるって意味ではない?」
「あ、同じようなスライム将軍があと三匹いるって意味です」
リスコゥはしばし固まり、再び尋ねる。
「水のって言った」
「言いましたね」
「ひょっとしてなんだが……あと二匹って火と土だったりする?」
ウニリィは笑みを浮かべて、ぽんと手を叩いた。
「わあ、さすがギルド長。お見通しなんですねえ」
リスコゥはテイマーギルドの長として魔獣に関する秘匿された情報も知っている。その中には地水火風の四属性を揃えることによって上位の存在に進化できる魔獣や精霊といった存在についての文献もあるのだ。
つまり、四属性のエレメントスライムが将軍で揃っているということは、王に至る道がひらけているということだ。
「スウーッ……」
ウニリィの感心した様子とは裏腹に、リスコゥの身体はずるずると椅子に沈んでいくのだった。







