第128話:えっ?
ξ˚⊿˚)ξ2026年初投稿ですー。
今年もよろしくお願いします。
ノハナー・サートゥミーはテイマーギルドの中堅職員である。
サートゥミー家は子爵家であり、彼女はそこの令嬢である。実家はかつては権勢を誇っていたが、今はその影もない貧乏貴族である。貴族令嬢として、のほほんと過ごしている訳にもいかずこうして職を得ているのであった。
テイマーギルドに限らずだが、この手のギルドの本部にはそういった貴族の令息で家を継げない次男以下や、嫁ぎ先の決まっていない令嬢などが多く職員として在籍している。
平民の職員から見れば出世先を独占されているようなものであり、あまり良い感情を向けられない。その一方で、彼ら彼女らは貴族であるからそれなりの教育は受けているし、本部は貴族や役人との繋がりも多いために適材適所でもあるともいえた。
『まあ、別にこの仕事嫌いじゃないですけどね』
仕方なく働きに出ているノハナーだが、テイマーギルドの職員という仕事は嫌いではない。そして魔獣を嫌がらない貴族令嬢というのは割と珍しく、重宝されているのだ。
実家のあるスタンピード半島のギルド職員として働き始め、今では王都の受付嬢である。
「失礼しまーす」
さて、今そんな彼女の座る受付の正面でギルドの扉が開かれた。入り口から若い女性が遠慮がちに扉を開けてきょろきょろと物珍しげに周囲を見まわす。
ウニリィであった。
『仕事の依頼にきたのかしら……?』
ノハナーは思う。
可愛らしい女の子だ。様子からしてここに来るのは間違いなく初めて。服装からすれば下位の貴族令嬢かそこそこの商家のお嬢様といったところだろう。
ちなみに高位の貴族令嬢であれば扉を自分で開けたりはしないし、そもそもギルドに用があっても職員を呼びつけるのであって直接ギルドにきたりはしない。
「ほら、スライムおいで」
女の子は後ろに振り返ってそう言った。どうやら彼女はテイマーで、スライムを連れているようだ。
ぎゅむ。
だがしかし彼女の背後で巨大な緑色のスライムが扉に詰まったのである。
「あっ」
女の子はしまった、と声を上げた。
ここはテイマーズギルドの本部なので、確かに扉も大きい。ただ、本来はここは人のための入り口である。従魔は正面玄関は使わず、専用の門があるのだ。ただ、ここに初めてくるテイマーがうっかり従魔をこちらにつれてきてしまうことは良くあることだ。
「テイマーギルド本部にようこそ、いらっしゃいませ」
ノハナーは声をかけた。
「えっ、あっ。はい。こんにちは」
ウニリィは慌てて頭を下げる。
「従魔用の入り口はギルド建物を出ていただいて右手にございます。そちら大型魔獣も通れるようになっておりますので」
「ああ、そうなんですね! ありがとうございます。でも……」
ウニリィは慌ててスライムを引っ張ろうとし……、そもそも引っ張れるようなとっかかりはない。
今度はぎゅむーっと、体重をかけてスライムを外に押し出そうとした。
「すいません、引っかかっていて。すぐ出しますので!」
テイムしたスライムが巨大化してしまうトラブルもまた、ままあることだ。
これは進化とは異なる現象である。スライムは身体に大量の水分を蓄えることができるので、長期間雨が降ったりすると、大量の水で膨れあがったスライムが見かけられるのだ。
雨上がり後の森などは巨大なスライムが増えて注意が必要であるが、とはいえそこまで危険ではない。
もちろん体当たりや、のしかかられた時の威力は大きくなるが、スライムの能力で一番危険なのは消化液である。それが水で薄まるためであった。
王都近郊でそんなに長雨は降っていない。川か用水路、井戸などに落下したのであろうとノハナーは推測した。
「はいはい、焦らなくても大丈夫ですよ」
彼女は受付の机から杖を取り出して立ち上がる。
ノハナーは初級の魔術師でもあった。いざという時にちょっとした魔術が使えるというのも彼女の価値を高めていた。なんといってもいまみたいにトラブルは多いのである。
「こんにちは、お嬢さん。ちょっと失礼しますね」
「すいませんー」
ウニリィは頭をぺこりと下げた。ノハナーは軽く杖を振ってスライムに向ける。
「じゃあいきますよ。〈脱水〉!」
脱水はその名の通り水分を抜く魔術である。
これさえあれば雨の日のお洗濯だって安心、すぐ乾くというものだ。
生物に使うものではない。確かに達人が使えば、脱水症状を引き起こしたり、生物をミイラにしてしまうような極めて危険な魔術でもある。しかし一般的に生物には魔力への抵抗力というものが備わっている。汚れに触ったらすぐに病気になるわけではないのと同じように。
抵抗力を貫通して魔術を通すというのは、それ専門に訓練を積んだ魔術師にしかできないものである。
ぴかりと杖が輝く。
「あっ」
ウニリィが思わず呟いた。
スライムは低級の魔獣である。魔術への抵抗力もほとんどなく、初級の魔術師であるノハナーの脱水であっても普通に通用する……はずだった。
ノハナーの失敗はこのスライムが上位種であると看破できなかったこと。そして飼い主のウニリィにその確認を怠ったこと。
ぱん!
スライムの表面で魔術が弾かれた。
「えっ?」
ノハナーは自らの魔術が失敗したことに唖然とした。スライムは身を震わせる。
ふるり。
『怒』







