第127話:きのこ走ってるぞきのこ!
ぱかぱか。
ウニリィたちの乗る馬車は軽快に街道をゆく。
その歩みは普段の馬車よりも速い。道が混んでいないのもあるが、道ゆく人や荷馬車などをすいすいと追い抜いていく。
馬車を曳く馬が駿馬であるとか力強いとかそういう訳ではない。本来ならガタガタ、ギシギシと鳴る馬車の車輪がほとんど音を立てていないのだ。
つまり、馬車にとりついた緑スライムがそれを持ち上げて僅かに浮いているせいであった。
「……実際、すごいのは間違いないのよね。快適だし」
車中のウニリィは思わず呟いた。
ふにょん。
馬車の天井の上で緑色のスライムが自慢げに身を揺らす。ウニリィの役に立てていて嬉しいらしい。
緑スライムのおかげで馬車が速い。予定より早くテイマーギルドに辿り着けそうというのに加え、車体が浮いているために馬車の揺れや振動が少なくて快適であった。
だが……。
「ままー、あの馬車きらきらー」
「きらきら……ええっ!」
道行く少女が馬車を見て感嘆し、母親は驚きの声をあげる。
「すっげー! きのこ走ってるぞきのこ!」
「なんだあれ!」
「おいかけろー!」
男の子たちは追いかけてくる。
「ママー、なんかへんなキノコ走ってるー」
「しっ、見ちゃいけません!」
また別の少女は馬車を変と呼ばわり、その母親は何か怪しいものであるかのように警戒して少女の目をそむけさせた。
「ううっ、問題はやっぱり目立つのよね……」
「ウニリィさんはまだいい。馬車の中に隠れてられるでしょう」
ウニリィの呟きを拾って、サレキッシモが声をかける。
「自分なんて隠れる場所もないんですが」
「……ごめんねぇ」
サレキッシモは御者台にいて馬車を操作しているのである。身体を隠しようもない。
「まあ、吟遊詩人なんて目立ってなんぼの職業ではありますけどね」
そう言う彼だが、帽子を目深に被って目元だけでも隠している。あまり知り合いに気づかれたくはない様子であった。
まあ、ウニリィにもその気持ちは分かる。たとえばサレキッシモが酒場で叙情的な愛の歌を歌っているとき、観客たちにきのこ姿を思い浮かべられたら感動も台無しであろう。
「迷惑をおかけしてます」
「ふっ。いえいえ」
馬車は街道から一度北へ。シブゥバリーに向かう道だ。ウニリィやクレーザーにはあまり用はないが、王都の西側の野菜卸市場である。
エバラン村でも農畜産業に携わる大半の村人たちが良く向かっているところだ。
ざわざわざわざわ。
近郊の農家たち、王都の八百屋たちが集まる場所である。当然混んでるし目立つ。
「へー、あれが王都の流行りってやつかねぇ」
「さすが王都だなぁ、あれが映えってやつだろ」
「ほー、さすがだなぁ」
地方からやってきたであろう若者たちが言う。
違いますぅ……。ウニリィは馬車の中で身を小さくした。
「えっと、ここを右か」
サレキッシモが馬車を東に向かわせた。
シブゥバリーから西、王都から離れる側に向かうとコマプレース、テイマーギルドの支部がある。
魔獣の預かり所としても王都近郊では最大で、マサクィはそこの所属でニャッポさんはそこに預けられていた。
一方で東、王都側に向かうとブルーマウントの町であり、そこにテイマーギルドの本部があるのだ。
ギルドのランク上げ審査などはそこで行われるので、向かっているのだが……。
「そこな馬車、それはなにでできてるのかね?」
「スライムです」
「ほう……」
道行く貴族の遣いかなにかにサレキッシモが話しかけられているようだ。このあたりは高級住宅地、あるいは商業地である。
とても場違いな感じであった。
ともあれ、その一等地に他の屋敷よりも一回り大きな建築物がある。それがテイマーギルドの本部だ。
「ここがテイマーギルド本部……」
馬車の窓からウニリィが首を覗かせた。サレキッシモが尋ねる。
「来たことないので?」
「はじめてよ」
ギルドへの登録自体はコマプレースでもできるので、 ウニリィは10歳くらいの時に一度そこに行ったきりである。
また最下級である木級から鉄級への昇格まではコマプレースでもできるのだが……。
『絶対それじゃ収まらないから本部行った方がいいっすよ』
マサクィにそう言われたためにこうして本部に来ているのであった。
ウニリィは懐にマサクィの推薦状があるかを確認して馬車から降りる。
「じゃあ、私は裏手に馬を繋いでおきます」
「はーい、ありがとうございます。んじゃスライム行くよ」
ふるり。
緑色のスライムはふわりと軽い動きで馬車の幌から浮かび上がると、ゆっくりと地面に降りてきた。
その物理的にはあり得ない動きに周囲で見ている者たちからおお、と声があがった。
サレキッシモが馬車を引いて行き、ウニリィはそれに手を振ってからテイマーギルド本部の玄関に向かう。緑色のスライムは身を震わせながらその後についてくる。
「大人しくしてるのよ」
ふるふる。
ウニリィの言葉にスライムは頷くように身を震わせた。
立派な建物である。両開きの扉を押し開けて、ウニリィは中に入っていった。
ぎゅむ。
緑色のスライムは入口で詰まった。
ξ˚⊿˚)ξ年内ラストの投稿ですかね。
今年1年、応援ありがとうございました。
コミカライズのゆうきそにすけ先生、ありがとうございます。私も楽しく読ませていただいております。
竹書房、インデントの編集の方々もありがとうございました。
引き続き来年もよろしくお願いします。
次話は1月1日に上げると思いますので。
今後ともよろしくー。







