第13話:キャー!ナンディオサーン!
マサクィは木級か鉄級の新人で良さそうなの連れてきますよ、などと言って一度コマプレースのギルドに戻った。そしてその間に村でも若いのを雇えるよう声をかけておこう、そういうことになったのである。
エバラン村にはもちろん村長がいるので、そこに声をかけて村の掲示板に人手の募集について張り紙をさせてもらう。ちなみに、エバラン村は農村にしては非常に住民の識字率が高い。
農村といっても王都まで日帰りで行ける距離なので、そちらで買い物などするにはやはり読み書き計算ができる方が便利であるし、王都から本などが行商人によって持ち込まれたり、王都土産として買ってこられたりすることも多いのだ。
「今までは人を雇うなんて考えたことなかったんですけど……」
「うん」
ウニリィは村の広場に『スライム飼育手伝い募集』そう書かれた張り紙を板に張りながら、ついてきたナンディオに話しかける。
「こういうのも慣れていかなきゃいけない感じですか」
「そうだね。貴族で農業なんかをやっている人も多いんだよ。だから君もお父さんにもスライム職人をやめろなんて言いたい訳じゃないのさ。でも全部自分たちでやるようなものじゃない」
例えばワインが名産の領地などがある。そこの貴族は自らもぶどうの世話のため畑に出たりするし、収穫祭では令嬢がぶどうを踏んで汁を作ったりすることがある。だが、ぶどうの生育や収穫の全てを貴族がやるようなことはあり得ないのだ。
「きゃー! ナンディオさーん!」
ナンディオとウニリィがそのような話をしていると、背後から黄色い声がかけられた。ウニリィと歳のころはそう変わらない、村の若い娘たちである。
「ウニちんがイケメンと歩いているわ!」
「シーアちんやめて!」
ウニリィと特に仲の良い、同い年の女の子も彼女をからかってくる。
ナンディオはにこやかに笑みを浮かべてそちらに手を振った。
「人気ですね」
「ええ、ありがたいことに」
ウニリィの言葉にナンディオはそう返す。
ナンディオとその部下である従騎士や従士が村に滞在しているが、彼らは村の娘たちから熱い視線を受けているのだ。
なるほど、ナンディオは少々歳上ではあるが、鍛え上げられた肉体に涼やかな風貌、誠実な人柄である。放浪騎士のような無頼者と変わらないような騎士も存在する一方で、彼が村にやってきた時に装備していたその鎧一つとっても格が違う。
彼の従士たちだって将来有望であろう。つまり、村の未婚の娘たちから人気なのも当然であった。
よってその日の午後である。
「すいませーん、張り紙みてきましたー!」
「お仕事あるってきいてきましたー!」
そう言ってやってきたのは10代後半の女性ばかりである。
エバラン村は農村であるから、収穫期を除いてなかなか貨幣を稼ぐ機会が少ないのだ。こういうちょっと稼げる労働に人気があるのはわかる。ただ、早速きたのが女性ばかりとなると、それはナンディオたちにお近づきになること目当てだなというのが明らかなのであった。
そしてその日の夜……。
「ごめん、これは無理……」
「すいません、ちょっときついかなって……」
女子たちはここでの仕事を辞退した。
「仕事きつすぎ、ウニリィよくこんなことやってるね……」
「スライム可愛いんだけど、こんなにいるとちょっと……」
まあちょっとナンディオ狙いだなっていう彼女たちを前に、ウニリィも張り切って普段より多めに作業してしまったかなと思わないこともない。それでもこれは日常的な仕事量であるのだ。
「そう? 今日は手伝ってくれてありがとね」
まあ、そもそも成人男性であるナンディオが驚き、マサクィがしんどいというほどの作業なのだ。女性にはキツイのかもしれない。
ウニリィは厩舎にいるスライムたちに声をかける。
「あなたたちが私に何かパワーを送ってるの?」
ふるふるふるふるふる。
マサクィが言っていたように、スライムがウニリィに活力を送っているのかと尋ねてみるが、スライムは震えるだけであった。
手近にいた橙色っぽいのを一匹捕まえて、じいっと見つめてみる。
にょろり。
スライムは粘体の体を変形させて、ウニリィの手から逃れて床へと降りていった。
「なにも分からないわ……」
複雑な意思疎通は難しいようであった。
さて、その後も何人か女性を中心に若者たちが求人の募集に応じてやってきたが、なかなか長続きする者はいない。
ただ、その中でウニリィと同い年のセーヴンという男が、何日も続けてきてくれるようになったのである。
セーヴン、彼はジョーに命を救われた少年である。
五年ほど前の嵐の後、林の木が倒れてきたときに彼は倒木の下敷きになってしまったのだ。それを持ち上げて助けたのがジョーであった。
「ウニリィ、終わったぜ」
「あ、セーヴン。ありがと」
セーヴンは巨大なモップを持って厩舎から出てくる。ウニリィが草原にスライムを連れ出している間にスライム厩舎の掃除をしてもらったのだ。
彼は農家の倅である。元々体力はあるが、それ以上に身体を鍛えているようであった。
「スライム戻すのはこっちでやるから、今日はもう上がりでいいわ」
「そうか、ちょっと話できるか?」
「ええ、もちろんよ」
何やら話したいことがあるようだった。






