第126話:それに比べてこの僕は……
ウニリィは困っていた。
「……そんなこと言われても」
うにょうにょうにょ。
彼女の前では巨大な緑色のスライムが大きく身を捩らせている。
セーヴンが尋ねる。
「スライムは何を言ってるんですか?」
「ついて行きたいって」
「あー……」
彼らの言い分によると、自分たちだけウニリィの役に立てていないということである。
青いスライムはウニリィと一緒に王都に行った。ウニリィからするとトラブルの原因であったという気がしなくもないが、護衛をしたといえばそうでもある。
黄色いスライムは土の改良だ。土地に魔力を浸透させることで、すごい勢いで草を生やし、しかもそれが美味い。最近はニャッポさんのための野菜も育てている。
赤いスライムはそのような目立った動きはしていないが、薪がわりになっていて何気に一番身近なところで助かっている。ウニリィかクレーザーが指示を出せば火力の調整も思うがままだ。最近は寒くなってきたので暖炉にいて部屋を暖めてくれる。
「……ですって」
ウニリィはスライムの言いたいことをその場の皆に伝えた。
……うにょーん。
スライムがぺちゃりと潰れる。
「それに比べてこの僕は……だって」
緑色のスライムはウニリィが村に帰ってきた時に気球のようになって飛んでいた。ウニリィも一度乗らせてもらって宙に浮き、凄いと思いはした。だが、それがウニリィたちの生活の役に立っているかというとそうではない。
普通の村人にとって空を飛ぶ必要のある用事などそうそうないのである。
「うーん……」
ぺちゃんと平たくなっているスライムたちを見てクレーザーたちは唸った。
「そもそもスライムゼラチンとか作るのにとても役立ってくれているのだが」
うにょん。
「それはみんなやってることだしぃって」
「うーん……」
「連れてってあげればいいんじゃないっすかね」
マサクィが言う。
にょろん。
緑色のが頭をもたげた。マサクィは続ける。
「いや、ほら。社交に行くならマズいっすけど、行くのテイマーズギルドじゃないっすか。テイムしてる魔獣を見せる必要があるわけでしょ。ウィンドエレメントスライムくんにはそこで力見せてもらった方が昇格に繋がるでしょ」
スライムがむくりと身を起こす。
ウニリィは反論した。
「でも、わたしはその後、王城に向かわなきゃいけないのよ? この子はどうするの?」
さすがに部屋ひとつほどもある、この巨体をずっと連れ歩く訳にもいかない。
「テイマーズギルドには魔獣の預かり所があるんで。チヨディアのはコマプレースほど広くはないっすが、預かりを拒否されるってこともないっすよ」
「それならいいんじゃないかね」
「お父さんがそう言うなら」
クレーザーが賛成し、ウニリィも頷いた。
緑色のスライムは喜びと感謝を示すようにマサクィに勢いよく抱きついた。
「あぶぶぶぶ……」
マサクィはスライムの中で溺れかけた。
さて、出発である。
「んじゃ乗ってください。……乗れますかね?」
御者兼護衛はサレキッシモだ。村に滞在していてもスライムの世話にはあまり役に立たないが、こういう時に身軽に動けるのが便利な男である。
「ウホホ」
むぎゅ。
「ウホッ!」
むぎゅーーーー。
ニャッポさんが緑色のスライムを馬車に押し込もうとして、馬車の入り口で詰まっている。
ミシミシ。
「おおい! 馬車を壊さないでくれよ!」
クレーザーが悲鳴を上げる。サレキッシモも頬を引き攣らせながら言う。
「そもそも重すぎません?」
縦横高さが1mの水の重さは1トンなのである。スライムも身体の大半が水分であり、部屋ほどの大きさのあるスライムとなればその重さはその数倍になろう。
「やっぱり無理なんじゃ?」
ウニリィの言葉にスライムはいやいやと首を振るような動作を見せると、体を光らせる。魔力が放出されているのだ。そしてふわりと浮かび上がった。
そして馬車の幌の上に乗る。乗るというよりは飛んでいかないように捕まっているという感じだろうか。
「……なんか緑色に光る、でっかいきのこみたいなんだけど」
幌の上に、幌より大きいカガミモツィ状のものが載っていれば、そりゃあ形としてはきのこに見える。
わたしこれに乗って王都に行くの?
女の子なら誰しも『灰被り姫』に出てくるかぼちゃの馬車に憧れるものだが、よもやきのこの馬車に乗ることになるとは……。
ウニリィはそんなことを思いながら、ええい、ままよと馬車に乗り込んだ。
仕方ない。スライムが期待するようにこっちを見ているので。
改めてニャッポさんがウニリィの荷物を馬車に載せてくれたので、ウニリィもきのこ馬車に乗り込む。
「じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「ウホホ」
皆に見送られてウニリィはカカオ家を出発した。
「あはははは、ウニちんウケる!」
ちなみにエバラン村の入り口のあたりで、きのこ馬車をシーアにめっちゃ笑われた。







