第125話:スライム叩く音ソムリエ
「おはよう!」
ぱぁん!
「はい、おはよう!」
ぱぁん!
マグニヴェラーレが帰った翌日の朝である。
いつもの通り、スライム厩舎にウニリィはいた。そこに声がかけられる。
「おはようございます、ウニリィ」
「あ、セーヴンおはよう。早いね?」
厩舎の入り口にはセーヴンが立っていて、褐色の肌がカンテラの灯りに照らされている。
しかしセーヴンとマサクィの仕事はウニリィがスライムたちを起こし終えた後の清掃からだ。まだ夜も明けていないこの時間に厩舎にくる必要はない。
「昨日は不調そうだったからね。一応、早く起きてきたんだよ」
いざとなれば代わってくれるつもりだったようである。
「心配かけちゃったわね。でももう元気よ」
ウニリィは力こぶを作るように、腕を曲げた仕草を見せた。
女性にしては体力がある方とはいえ、力こぶがができたりはしない。そもそも服の上からは見えやしないが、それだけ元気だと言いたいのだろう。
セーヴンは笑い、足元でうねうねと外に向かう無数のスライムを避けながら厩舎に入ってくる。
「スライムを叩く音でわかるさ」
「スライム叩く音ソムリエね……」
ウニリィはふと思ったことを口にしたが、どんな仕事なのか謎である。セーヴンは笑みを浮かべた。
「いや、何不思議そうな顔してるの。ウニリィだって叩いた時の反応でスライムの体調判断できるでしょう」
「……言われてみればそうね」
自分もスライム叩く音ソムリエであったか。などとウニリィが思っている間にセーヴンはウニリィとは別のスライム棚に向かうのだった。
「起きちゃったし手伝いますよ」
「ありがとう」
「おはよう」
ぱん!
「おはよう!」
ぱぁん!
厩舎には挨拶の声とスライムを叩きつける音がしばらく響いた。
そしてスライムを起こし終えて、ウニリィは言う。
「ありがと、早く終わったわ」
「いえいえ、元気になって良かったです」
セーヴンはモップを手にする。これから厩舎の清掃であり、彼の本来の朝の仕事はこれなのだ。
そして言葉を続けた。
「マグニヴェラーレさんが来て元気になっているのは、ちょっと複雑ですが」
「ん」
「ははは、『いつか万難排してこの家に婿入りする』でしたか?」
「ちょっと! なんで知ってるのよ!」
セーヴンは意外そうな顔をした。
「サレキッシモさんから聞いたに決まってるでしょう」
「あの男! 口封じしないと……!」
セーヴンは可哀想な、あるいは残念そうな者を見るような視線をウニリィに向ける。
「もうたぶん村民全員知ってますよ」
ウニリィの悲鳴が早朝のエバラン村に響いた。
ウニリィが羞恥に悲鳴をあげたり、サレキッシモを追い回してスライムを投げつけたりしながらも日々は進んでいく。
ジョーが王都に到着したという話がエバラン村にもまわってきたし、改めてパレードも行われるという。
マグニヴェラーレからは手紙が来た。
式典に出たり、宮廷魔術師として王の警備に駆り出されたりと忙しくしているということ。本当はウニリィを迎えに来たかったが難しいのでそれを謝罪する内容である。
『王都でお会いできることをお待ちしています、我が最愛のウニリィへ、マグニヴェラーレ』
手紙はこう締められており、ウニリィは身を捩らせたのであった。
「私のところにもアレクサンドラ姫から連絡をいただきました」
そう言ったのはサディアー夫人である。
「王都でクレーザーさんとウニリィさんにお会いしたいと」
「ひえぇーー」
「ひえぇーー」
ついに公爵家の令嬢と対面する時が来たらしい。
「なんでそんな反応なんですか」
「緊張して」
「畏れ多いというか」
サディアー夫人は呆れたような表情を見せる。
「あの、マグニヴェラーレ殿は公爵家のご令息ですが」
「それはー、その最初は知らなかったし」
「まあ、お慣れください。ジョーシュトラウム卿のお父上と妹君なのです」
社交の場に呼ばれもすれば、貴族との交流も増えるということだ。
サレキッシモも笑う。
「あのジョーシュトラウム卿のご家族であり、誰しもお二人が元平民であるとわかっているのですから。礼儀作法だってよほどのことをしなければ問題ありませんよ」
「そうか」
「そうよね」
サレキッシモはウニリィにウインクを決めた。
「無許可で陛下の前にスライム連れてくとかね」
「んぐっ……」
というわけで王都に向かう日が近づいているのである。
今回、ウニリィが先行して王都へ向かい、後からクレーザーが行くことになっている。
なぜならウニリィはまず王都のテイマーギルドに行き、昇格審査を受けてこいという話となっているからだ。審査自体が一日がかりになることもあるし、待たされることもあるとテイマーギルド所属のマサクィからは聞いてるためである。ちなみに彼からは昇格の推薦書も貰っている。
ウニリィがいない間のスライムの世話もマサクィやニャッポさん、セーヴンたちが力強く請け負ってくれた。だが……。
うにょうにょうにょ。
「えっと……」
うにょんうにょんうにょんうにょん。
ウニリィの前で緑色のスライムたちが激しく身を捩って何かを主張していた。







