第12話:うほっ。
マサクィは丸一日、ウニリィと共に仕事をした。
昼から夜にかけて、そしてもちろん翌日の早朝、いや夜明け前に起床してスライムを叩くのも一緒にやった。
そして昼食どきである。
「いや、想像してた仕事と全く違いましたね……」
マサクィはパンをちぎりながら、ウニリィ、クレーザー、ナンディオに話し始める。一日働いてみての感想と今後の検討である。
マサクィが疲労しているのは誰の目にも明らかであった。ナンディオが尋ねる。
「厳しそうですか」
「疲れました……」
マサクィはそう答え、もそもそとパンとシチューを口に運ぶ。
クレーザーはエールを飲んで笑う。
「シチー・ボーイにゃキツイかね」
クレーザーは身長こそウニリィより低いが、横には太く筋肉質である。一方のマサクィは身長こそ高めであるが、どこか頼りない印象を受ける青年であった。
「いや、自分は王都内で働いてるんじゃないですし、テイマーのなかでは体力あるほうなんすけどね」
とはいえナンディオはウニリィの仕事ぶりを先に見ている。その彼がコマプレースのテイマーギルドで人を雇っているのだから、体力がある者を派遣して貰うよう頼むのは当然であった。
マサクィは王都近郊でこうした作業の手伝いや隊商の護衛、時には冒険者とともに行動し、魔獣と戦ったりもするのである。決して体力がないわけではない。ここの作業に不慣れなのも疲れに影響しているが、それにしてもウニリィの仕事量は異常であった。
「これは仮説なんですが……」
マサクィはそう前置きする。
「ウニリィさんとおそらくはクレーザーさんも。スライムから活力を得ているでしょ。そうでもないと説明がつかないっすわ」
「スライムから……」
「活力……?」
ウニリィとクレーザーは揃って首を傾げた。マサクィは自分の懐をごそごそと漁る。
「テイマーは自分の使役する魔獣から能力を借り受けることができます」
そう言いながら取り出したのはクルミの実であった。乾燥した硬い殻に包まれたものである。
「見ててくださいね……うほっ」
マサクィがそう口にすると、バキッという音と共に手の中のクルミの殻が粉々になる。
「すごい、力持ち!」
ウニリィは感嘆した。
「なるほど、素晴らしいですな」
ナンディオは頷く。
「その、うほってのは……?」
クレーザーは掛け声が気になるようだった。
「自分がテイムしてるのヘルフレイムゴリラなんでゴリラっぽい感じにしないとダメなんすわ」
「ほう」
「火とかは出せないんですか?」
なんといっても名前がヘルフレイムゴリラなのである。
マサクィはうーん、と首を傾げた。
「どーなんすかね、ヘルフレイムゴリラはフレイムじゃなくて、だいたいゴリラですからね」
「だいたいゴリラ……」
マサクィは手のひらのクルミを卓上に置くと、一つを自分で摘み、食べます? とウニリィに勧めた。
ウニリィは一欠片もらって、もそもそと口に運ぶ。
「テイマーとしてのレベルが上がれば炎も出せるかもしれないですけどねー。ともあれ、スライムは特に能力を主人に与えることはないとされてたんですが、実はスタミナとか与えてたんじゃないでしょうか」
「スタミナ……」
つまり、何も能力を与えていないのではなく、目に見えない恩恵、活力が少し向上していたのではないかという仮説を立てているのだ。
「ええ、スライムの量が量ですからね。塵も積もればってやつで。何かそういう実感とかないです?」
「ある」
マサクィの言葉にウニリィとクレーザーは首を傾げたが、返事があったのはナンディオからであった。
「先日、彼女たちがスナリヴァへ買い物に行くのに1日付き合ったのだが、ずいぶんと疲れた様子であった」
「あー、なるほど? ウニリィさん、テイマーとしての訓練は受けてないんすよね」
ウニリィは頷く。マサクィは砕けたクルミを指差した。
「自分はテイムした魔獣が遠くにいても力を出せるよう訓練してますが、それやってないならスライムがそばにいる時だけ活力を得ているんでしょ」
得心したというようにナンディオは頷いた。
ウニリィとクレーザーはなんとなく自分の手を開いたり閉じたりしながら、本当かなあと疑問のようである。
「なんでまー、お二人のスライム飼育の仕事量がバカ多いってことがわかったところで、その仕事を代行できるかって話になるわけですが」
うん、と三人は頷く。
「まー、お察しの通り自分一人じゃ無理っす」
「どのくらいテイマーが必要になる?」
マサクィはうーん、と唸る。
「この仕事、別にテイマーじゃなくてもできますね」
「む」
「もちろん、ここのスライムが非常に良くテイムされているからという前提ですが、これ単に必要なのは純粋に人手っすよ。テイマーじゃなくてもいけます」
そもそもがウニリィやクレーザーだってテイマーとしての訓練を受けている訳ではないのである。
魔獣の委託管理にはテイマーの責任者が必要なので、それはマサクィがやると言った。それ以外はテイマーギルドから木級の新人を連れてきたり、村の若者を雇って対応する。
「じゃあよろしくお願いします」
「よろしくおねしゃーっす」
そういうことになったのだった。
ξ˚⊿˚)ξうほっ






