第115話:ウッホホホホー
ウニリィが朗らかに声をかける。
「はーい、みんなお疲れさまー」
ジョーとナンディオがなんだと思ったら、足元にはスライムたちがのそのそ集まっていた。
ふるふる。
黄色いの、アース・エレメント・スライムたちである。もさもさになった牧草地から、染み出すようにしてあらわれてウニリィのもとにあつまってきた。
「あなたたち用のごはんは別にとってあるから」
わーい。
ふるふるふるふる。
「ひび割れ直ったー?」
先日、ジョーとニャッポさんが牧草地で戦ったために、焼けこげたりひび割れたりしたのである。アース・エレメント・スライムたちはそれを直すために地面に潜っていたのだった。
ついでに草にも栄養を与えているが。
スライムたちはうにょうにょとウニリィに説明する。
「ふむふむ、ひび割れは全部直してー、じごくにつながってた穴はふさいだー? ……やばっ」
ヘルフレイムゴリラは地獄の炎を召喚できる。
よもや開けた穴がそもそも本当に地獄に繋がっているとも地獄に繋がったままになっているとは思っていなかったとウニリィは戦慄する。
……まあ塞いだならいいか。だがウニリィは細かいことを気にしないので、それはそれとした。今の彼女には塞がった地獄の穴よりも、もさもさの牧草地の方が問題なのだ。
「じゃあ私はスライムにエサやってから草刈りするから。みんなは先にお願いしますー」
「おー」
「うっす」
「ウホホ」
そんなこんなで作業が開始された。
「そーいえば兄さん」
「なんだー?」
ざくざくと草を刈りながら返事がかえる。
「前にニャッポさんと戦ってときに、炎を纏ったニャッポさんにタックルしたじゃない?」
「したな」
「ウホホ」
あれは驚いたと、ニャッポさんもぶちぶち草を抜きながら返事をする。
「なんで髪の毛とか燃えないの?」
「あー、それはあれだ。魔力で覆われてるからだ。その魔力の鎧みたいなのが破られなければ問題ない」
「へー」
「っていうかな。それなかったら帰ってきた日に、お前のパンチ喰らったとき死んでるからな」
「……てへ」
「あれ他の人にはやるんじゃないぞ……」
そもそもウニリィとてあんなことになるとは思ってなかったのだが、神妙に頷いた。
そのようなことを話していると、ニャッポちゃんが興奮したように声を上げる。
「ウホホホ!」
「どうしたっすか?」
マサクィがそちらへ向かい、首を傾げた。
「……レタス?」
「あー、植えておいたのよ。あ、ちゃんと育ってる」
前にニャッポちゃんがきた時にちょっと話していたが、牧草地の一部に野菜を植えることにしたと。スライムが土に潜ったのでとりあえず急いで片隅にだけレタスやらカブを植えておいたのだとウニリィは説明する。
そして一日半で収穫まで育っていた。まさにスライムチート農法である。
「お前、これ絶対秘密にしろよ……」
「本当ですね……」
ジョーとナンディオは頭を抱えた。下手するとウニリィ一人で軍隊食わせられるんじゃないかな疑惑である。これは露見すればどんな王や領主、将軍たちでもウニリィを確保したがるであろう。
「いや、ほらニャッポさんいっぱい食べるって言ってたじゃない。だから用意してみたの。食べて?」
そう言われてもウニリィとしては大量の野菜を食するというニャッポさんの食事を用意したかっただけである。
ニャッポさんは感謝を示すようにウニリィに頭を下げ、レタスを両手で抱えて引っこ抜くと、さっと根の土を払ってガブリとかじりつく。
そして両手を天に掲げた。
「ウッホホホホー!」
「うーまーいーぞー! だそうっす」
訳さなくてもわかる。ニャッポちゃんはガツガツとレタスに齧り付き、あっというまに一玉を平げると、ウニリィの前の地面に拳をつき、深く頭を下げた。
「ウホホ」
「さすが魔王陛下だそうっす!」
「魔王陛下やめれ」
「ウホッ」
「忠誠を誓うっす」
「誓わなくても食べさせてあげるから!」
ウニリィはなんとかニャッポさんを立ち上がらせて、その後はみんなでレタスの試食に入った。
「美味しい」
「うまい」
「ウホウホ」
何もつけない生のレタスが美味い。カブも急いで収穫し、後で食事に出すことにした。
ウニリィは言う。
「これさ」
「ん?」
「ちょっとだけお土産に持っていって兄さんの彼女さんにだけ食べさせてあげられる?」
「……おい」
「いや、ポチコさんの牛乳とか持っていって腐っちゃうとあれだし、今は卵の在庫ないしさ」
まあ、生の食品は難しいのはわかる。だがついさっき秘密にしろと言ったのにこれだ。
「ドリーに美味いのを食わしてやりたいっていう気持ちは嬉しいがよ」
「うん」
「知る者は少ない方が良いのは間違いないぜ?」
「そうです、アレクサンドラ嬢の背後には公爵家がいますからね」
ジョーのみならず、ナンディオも難を示した。
「でもさ、ここに美味しいのあれば、アレクサンドラさんもここにきたくなるかなって」
はー、とジョーはため息をついた。
ウニリィは真っ直ぐなのだ。ジョーにアレクサンドラを連れてエバラン村に来させる。その意志に従って動いているのだった。
「わかった」
であれば、兄としてはそう言うしかないのであった。







