第112話:母さん。
そんなわけでカカオ家にはニャッポさんなるゴリラの従業員が雇われることとなったのである。
従魔召喚石については保留だ。テイマーギルドで申請する必要があるので、王都かコマプレースの支部にでも行かないことには話にならない。今すぐにどうということはなかった。
「用意できた?」
「おう」
「大丈夫だ」
ウニリィの呼びかけにジョーとクレーザーが答える。
「じゃあいってきます!」
「行ってらっしゃいませ」
「ういーっす」
「ウホウホ」
「みんないい子でね!」
ふるふるふるふる。
翌日、カカオ家の三人は朝の仕事を終えた後、スライムをマサクィたちに任せ、出かけたのであった。
「よっと、……重いですね」
「ほら、自分で墓参りについてきたいって言ったんでしょ」
「そうですけどね、吟遊詩人なんて楽器より重いものは持たないものですよ」
そう、彼らは母の墓参りに向かっているのだった。そしてサレキッシモが彼らの荷物持ちをしている。
昨夜、墓参りの話をしたら、ついていきたいと言い出したのだ。
本来なら家族だけでいきたいところであるが、思うところもあり荷物持ちとしてならついてくることを許可したのであった。
「まあまあ、そんな遠くはないから」
村を出てすぐの南側が小高い丘になっていて、そこにエバラン村の共同墓地があるのであった。道も草が抜かれ土は踏み固められているし、ちょっとしたピクニックにもならないような散歩程度の距離である。
到着すると早速、クレーザーはサレキッシモが担いでいた荷物から小ぶりな鎌を取り出すと伸びていた芝を刈る。
ジョーはその隣で雑草を引っこ抜き始めた。
ウニリィはサレキッシモから水筒を受け取ると、布で墓石を磨き始める。
「綺麗にしてくれてんのな」
ジョーが呟く。
「たまに手入れはしているさ」
クレーザーがそう返した。
ウニリィももちろん墓参りにはくるが、あまりそう頻繁に来るわけでもない。多分クレーザーは一人でもここに来ているのではないかと思う。
ウニリィは墓の文字を眺めた。
『クレーザーの妻、ユーチェレクと名もなき子、ここに眠る』とある。そしてその下には生没年。
母は出産の際に赤子と共に亡くなったので墓にはその二人が眠っている。
「言われてみれば、母さんの名前って、この辺の名前じゃないわよね」
ウニリィが誰ともなくそう呟いたが、サレキッシモが返事をする。
「そうですね、異国風の響きがあります」
「知ってる?」
「冒険者については詳しい方ですが、流石に二十年も前の銀級冒険者までは……調べておきます」
「うん、よろしく」
サレキッシモは紙に名前などをメモしていった。
彼がついてくることを許可した理由の一つはこれである。吟遊詩人は物語になり得るような英雄や冒険者などの情報に詳しい。彼自身は知らなくても吟遊詩人同士の情報交換をすることで調べることもできよう。ジョーの物語を歌うために、その母についても調べるというなら、その結果をいずれ報告するようにと伝えたのだ。
「これでよしと」
ピカピカになった墓、ウニリィはそこに花を飾ると墓の横にどいた。
ジョーが代わりに墓の前にいき、そこで跪く。
「母さん」
ジョーは父を親父と呼ぶのに、母のことは母さんと呼ぶのだなとウニリィは思った。ジョーが十歳の頃は、まだ両親を父さん母さんと呼んでいたからであり、父を親父と呼ぶようになったのはその後であるからだ。
「五年間も会いにこない薄情な息子ですが、会いにきました。あの日冒険者になるって言った通りになったんですが、結局その後で軍に雇われて兵士になって……」
その言葉から、ジョーはきっと、村を出て行く日に、母に挨拶をして出て行ったのだろうなあと感じた。
「なんやかんやあって貴族になります」
だいぶ端折ったな……。ウニリィは思う。天国の母もそのなんやかんやを報告して欲しいのではないだろうか。
「んで結婚します。嫁さんも貴族の娘です」
公爵家って報告しなくていいの? ……いや、私も確認したわけではないけど。
「今も棒を振っています」
それは言わなくてもわかってると思う。
「なんかつい先日知ったんですが、母さん冒険者だったんですね。親父から聞きましたが、棒の振り方を教えてくれたことがあるとか。師匠? さすがに師匠ではないか。ともあれ母さんが丈夫に俺を産んでくれたおかげで、元気にやっていけてます。ありがとうございます。……行ってきます」
そう言って目を瞑って頭を下げてしばし固まり、照れたような笑みを浮かべながら立ち上がった。
「おう」
「ん」
ジョーは退き、ウニリィが墓の前に立つ。
目を閉じて祈りを捧げ、そして墓を見据えて宣言した。
「母さん。父さんにここにくるまでの道を石畳で舗装させるからさ」
「俺が!?」
突然の言葉にクレーザーが驚く。
「それで、ジョーにもう一度ここに来させるわ。ジョーの嫁さんって人を連れて挨拶に来させるから」
ジョーはしょうがねえなぁと笑った。ジョーは遠い領地をもらうことになっているのだ。ここにくることはもうないかもなと思っていた。だが、アレクサンドラ、公爵家の姫をエバラン村に逗留させる準備をさせるとまで言っているのだ。それは許さぬと妹は仰せであった。
ξ˚⊿˚)ξはい、本日11/17(月)ですがー。
ついに本作、『チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!』コミカライズ配信スタートです!
本日12時から『竹コミ』で見られるようになりますので、
小説版と共にお引き立てのほどよろしくお願いします!
12時過ぎたらリンク貼っておきますねー。







