第10話:はい、異常です!
ふよふよふよふよふよふよ。
ウニリィとマサクィの前には無数のスライムが並んで揺れている。
「……な」
「な?」
マサクィがぷるぷると震え出す。ウニリィは首を傾げた。
スライムたちはふよふよ揺れる。
「……ななな」
「ななな?」
マサクィは叫んだ。
「なんじゃこりゃー!」
大声にびっくりしたのか、スライムたちの表面がふるふると波打った。
「うちのスライムたちですわ」
「っっっっっ…………いや多っ!」
渾身の叫び声をあげてから、え、嘘だろ、え? とマサクィは小さく呟く。だいぶ困惑している様子だ。
ウニリィはそれには気を払わず、スライムたちに話しかける。
「みんなー。これから私とお父さん以外に、ここにいるマサクィさんがあなたたちのお世話してくれることがあるからー」
はーい! とでも言っているつもりなのか、スライムたちがふるふる揺れる。
「待って、ウニリィさん待って、落ち着いて。ステイです、ステイ」
「はい、ステイ」
振り返ってウニリィの方を見てマサクィが言う。
落ち着いてないのはマサクィさんのほうではとウニリィは思ったが、それには触れず、マサクィの言葉を待った。
「すいません、スライム多くないですか。っていうか多いですよね?」
「そうですか?」
「え、これを多いと思ってない!?」
マサクィは片手を草原に向けて広げて示した。
ふよふよふよふよふよふよふよふよ。
スライムは草原を埋め尽くしている。ウニリィは彼の言葉の意味を考えた。
「私、他のテイマーさんの仕事って見たことないんですよね」
マサクィはがくりと膝をつく。ウニリィは頬に手を当てて言う。
「あれ、ひょっとして私なにかやっちゃいました?」
マサクィはずるずると地面に横たわった。
「ええっと……」
ウニリィが困惑していると、スライムたちがうにょうにょ近づいてきて、マサクィの服の袖を、ごはん?ごはん? と、つつきだす。
「マサクィさんはご飯じゃないわよー」
マサクィは慌てて立ち上がって、ウニリィに尋ねた。
「えっと、えーっと……これをクレーザーさんとウニリィさんの二人で世話してらっしゃる?」
「いえ、父はスライム職人の仕事がありますので、普段は私一人で」
マサクィは再び地面に身を投げ出した。
スライムたちがごはん?ごはん? とマサクィをつつく。彼は再び慌てて立ち上がった。
「マサクィ殿」
背後に控え、ここまで黙って二人の様子を見ていたナンディオが声をかけた。
「は、はい、なんでしょう騎士様!」
マサクィは背筋を正す。
「やはり彼女のスライム飼育は異常かね」
「い、異常だなんて」
「はい、異常です!」
ウニリィは否定しようとしたが、マサクィは食い気味に肯定した。
「ここまでの数のスライムを飼育し、意思の疎通もできているのは異常な才能としか言えません。金級の、最上位のテイマーとてこれはやらないでしょう」
「それほどかね」
「それほどです」
そんな異常って言われてもー、とウニリィは思う。
「スライムって最下級って言われる魔獣じゃないですか。それが数だけいてもそんなにすごいことではないのでは?」
ウニリィの言葉にマサクィは目を大きく見開いた。
「確かに、実力があるテイマーであれば、より強力で希少な魔獣を使役するようになります。それこそ金級であればドラゴンであるとか、幻獣種、フェニックスとか」
「はい」
「もちろんそこまででなくても、自分だってヘルフレイムゴリラをテイムしています」
「へるふれいむごりら」
「ほう」
ナンディオが思わず声を上げる。
それは地獄の炎を纏ったゴリラで、フレイムゴリラの上位種であり、進化すればアブソリュートヘルフレイムゴリラにまで至る魔獣である。
騎士が数名でかからねば対処できないほどの魔獣であり、この青年はそこまでの強力な魔獣を使役できるのかと感心したのだ。
「だから上位のテイマーがスライムをたくさん飼育するという機会自体がないだけといえば、確かにその通りかもしれません」
テイマー初心者がスライムをテイムしても、すぐにより強い魔獣をテイムするようになるということだ。
「ですよね!」
つまりウニリィは別に異常ではない。そう続けようとしたが、マサクィは首を横に振った。
「でもねウニリィさん、鐚銭だって万枚集めれば金貨になるんですよ」
鐚とは屑鉄による粗悪な貨幣である。それであっても数万枚集めて両替すれば価値としては金貨になるのだ。両替商は嫌がるだろうが。
いくら低級のスライムといえども、この数を使役できるというのは明らかにおかしい。それこそ金級に至るほどの能力であると。少なくとも自分一人でこの数はどうにかなるものではないと。マサクィはその旨をウニリィとナンディオに説明した。
「そんなぁ……」
今度はウニリィがよよよ、と嘆いて地に手をついた。
ふよふよふよふよ。
今度は、だいじょぶ? とでもいいたげにスライムたちがウニリィをつついたのであった。
ξ˚⊿˚)ξちょっと恋愛要素が薄いので(させる気はある)、ジャンルをハイファンに移動しますわ。恋愛し出したら戻すかも(未定)
注:たぶんこのままハイファンに置いておきます






