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第62話【彼】

 重なった唇の感触にフェアリーは驚いた。


 目を閉じたリズの顔がすぐ目の前にある。


 リズはギュッとフェアリーの背中まで手を回しており離れない。


 人間の接吻を知らないわけではなかったが、まさか自分が人間とそれをやる日が来るとは思っていなかった。


 リズの甘い香りが鼻をくすぐり、フェアリーは次第に目を閉じてリズとの接吻を堪能した。


 抱き締めてくるリズに、フェアリーも応えるように優しく抱き締め返す。


 全身を密着させて、ぬくもりを感じ合う。


 接吻は、人間の好意を表す接触行為だ。

 

 リズがこれを自分にしてきたということは、やはり彼女は自分に好意を持っているということになる。


 その好意に困る自分がいた。


 そして満更でもない自分もいた。


 その満更でもない自分に、フェアリーは困惑した。


 世界樹も、仲間たちも、自分さえも愛したことがないのに……


 それでもフェアリーは、リズが満足するまでキスをやめなかった。


 穢らわしい人間でも、リズならば何故か許せた。


 フェアリーのために泣いて、怒って、報われてほしいと願うこの少女が、お節介で、余計なお世話で、とても愛しい。


 これが愛というやつなのだろうか?


 数億年も生きていて、ついぞ知ることがなかった感情だ。


 フェアリーは冷え切っていた心に、熾火にも似た熱が灯されるのを感じ、リズの小さな肩を抱く手に力を込めた。


 優先順位に従って義務をこなすことしか知らなかった自分が、リズという一人の少女に意義を見出そうとしている。


 そんな錯覚にも等しい愚かな心が、どうしてだろう……今はひどく愛しい。


 永く、息をするのさえ忘れるほど濃密なキスを終えて、二人はゆっくりと唇を離した。

 

 身体は密着したまま、頬を赤くしたリズが切なく見つめてくる。

 いっそ目を背けたくなるほど、リズの上目遣いはフェアリーの胸を締め付けた。

 次のリズの言葉が、なんとなく察せられるからだ。


「行かないでフェアリー……側にいてよ……ずっと……」


「……困った人ですね。あなたは」


「ねぇ……だったらアタシも、精霊の力でフェアリーと同じ妖精になれないの?」


「なにを言って……」


「なんでもするから連れてってよ。お願いフェアリー……一緒に居たい……」


「リズ……」


 抱きつくリズを、フェアリーは引き剥がすことができなかった。

 どうしても手に力が入らなかった。

 なにをやっているんだろう。私は……


 人間は嫌いだけど、やはりリズだけは……


「おやおや……随分と仲睦まじいじゃないかフェアリー」


「!?」


 男の声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だった。

 リズとフェアリーはハッとして離れ、船の甲板を見渡す。


 すると、その声の主は晴れた空の下に広がる海の上にいた。


「え!?」


 リズがその声の主を見て驚愕した。

 

「な!? あなたは!? でも、その声は……?」


 その声の主を見てフェアリーも驚いた。


 声こそ男のものだったが、見た目はフェアリーとまったく同じの銀髪で【妖精の黒衣】を身に纏っている。


 背中には半透明の羽が生えており、それを羽ばたかせて海の上を浮遊していた。


「フェ、フェアリーが……二人!?」


 リズが困惑して、隣のフェアリーと飛んでいるフェアリーを交互に見た。

 顔こそ似ているが、相手のフェアリーは胸がまったくない。

 声も男の事から身体も男のようだ。


「人間嫌いのお前が、どういう風の吹き回しだフェアリー?」


「その声……まさかあなたは『彼』?」


 フェアリーと同じく永年生き残ってきた妖精の一人だ。

 

『彼』もまたフェアリーと同じく、人間に何度も自分の地球を壊されてきた妖精だ。


 彼も人間を恨んでいる。

 こんな恨みを持つ前に戦死できれば良かったと嘆いていた本人だ。


「ああ。久しぶりだなフェアリー」


「お久しぶりです彼。ですが、その姿はどうしたのですか? まさかあなたまで人間に?」


「いいや。この姿は地球用の身体だ。今の俺は、なんにでもなれる」


「……どういう意味です?」


「準備は整った。さぁフェアリー。俺と共にこの地球を終わらせよう」


「な!?」

 

挿絵(By みてみん)

フェアリーと彼

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― 新着の感想 ―
[一言] この惑星を木っ端微塵にするッッ! でも、どのようにするんだ?
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