第18話【妖精VSドラゴン】
ドラゴンが降下した現場へ全力疾走するフェアリーは「どうしてドラゴンが地上に! 何をやってるんだあいつらは!」と怒りをぶち撒けた。
あいつらとは自分以外のフェアリーたちのこと。
そして世界樹さまも含めている。
あってはならないドラゴンの侵入が起こっているんだ。
フェアリーたちが迎撃に失敗したのは明白だ。
馬鹿野郎! っと腹の底から怒鳴りたくなる衝動を抑えて走る。
最短ルートで来たフェアリーはドラゴンを発見した。
エタンセルの西側の大通りだ。
先程の大爆発はこのドラゴンのブレスによるものだろう。
人間を狙ったわけではなく、宇宙から降りてきた落下速度を爆風で緩めるためのブレスだ。
現に人間はブレスに奇跡的に巻き込まれていない。
しかし爆風に吹き飛ばされたらしい人間が何人か倒れている。
その内の一人にドラゴンが狙いを定めて飛び掛かろうと構えた。
ダメだ! 間に合わない!
即座に判断したフェアリーは路面を踏み砕き、弾ける飛んだ石の破片を蹴り飛ばした。
人間にドラゴンの爪が刺さる直前!
飛んでくる石に気づいたドラゴンがそれを回避。
それによってドラゴンはフェアリーに気づき、爪を構えて踏み込んだ!
よし! 食いついた!
そうだ! 狙うなら私を狙え!
迎え撃つフェアリーも地面を踏み込み消えるような加速する!
「おおおおおおおおおお!」
二本の剣を煌めかせ、フェアリーはついにドラゴンと激突する。
ぶつかり合わせた剣と爪の衝撃波が三メートル先の建物にヒビを入れ、周囲の人間たちを吹き飛ばし、悲鳴が沸き起こる。
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
「なんだよこれ!?」
「何が起こってるんだ!?」
未だに事態を飲み込めていない呑気な人間たちにフェアリーは舌打ちする。
「速く逃げろ! できるだけ遠くに! 邪魔だ!」
フェアリーの怒声に人間たちはさらにパニックに陥った。
走って逃げ出す者や腰を抜かして動けなくなる者。
倒れた人間を何とか抱えて逃げようとする者。
そんなパニック状態の大通りで斬り結ぶフェアリーとドラゴンの速度は尋常ではなく、端から見れば両者の間には凄まじい火花が散るばかり。
敵のドラゴンは【人型】と呼ばれており、全長は二メートル。ドラゴンの中では最も小型だ。
一番数が多く、敵の中では雑魚の部類だ。
しかしそれはフェアリーに【聖剣】があればの話。
今のフェアリーの装備は人間が作った鉄製の剣二本。
「はっ!」
フェアリーの斬り落としが雷光のように走り、ドラゴンの腕を捉え、刃が食い込む。
しかし手応えはない。
ドラゴンの鱗は鋼鉄を上回る硬度を有しており、人間の作った武器では刃が通らないのだ。
「くそっ!」
純粋な技量ではフェアリーが圧倒的に上だったが、相手の防御力を上回る攻撃力がまるで足りなかった。
本来なら一瞬で片付けられる雑魚に、フェアリーは手も足も出ない状況になった。
【聖剣】さえあればすぐに片がつくのに!
世界樹さま! 世界樹さま! どうか御返事を!
ドラゴンが地球に侵入しています!
こいつを倒すために、今一度だけ封印の解除を!
一つの瞬きすら致命傷を招きかねない剣戟戦を繰り広げながらフェアリーは世界樹に交信を試みた。
しかし完全に遮断されているらしく、声の一つも返ってこない。
……どういうことだ?
ドラゴンを撃ち漏らしたことを知らされていないのか?
少なくともドラゴンが地球に侵入したことを知っていれば、付近で対処できるフェアリーに討伐を任せるはずだ。
なのに、それさえないとはどういうことだ?
まさか、ドラゴンに侵入されたことにすら気づいていないとでも?
そんなバカな話があるのか?
撃ち漏らしたフェアリーが世界樹さまに報告しなかったのか?
いや、そんなはずはない。
そんなことをする理由がフェアリーたちにはない。
ではなぜ世界樹さまは気づいていないのだ?
こんな非常事態に。
わけが分からない。
★
大爆発が起きた現場へ駆け付けたブロンクソン騎士長は、そこで異次元の戦いを目にしてしまった。
あのリズという少女の使い魔フェアリーが、黒い怪物と戦っている。
銀の斬光が入り乱れ煌めき弾ける火花。
両者の一閃は光を照らして交錯を描く。
斬光の軌跡は曲線と直線を幾重にもぶつけ合う!
横切り! 袈裟斬り! 逆風による払い抜け!
抜け様に返しの一閃! 神速の乱れ突き!
フェアリーの二刀流から放たれる剣技は、もはや達人級と呼ぶことさえぬるく見えるほどに異常だった。
そしてそれらを捌く黒い怪物も、おおよそ人間が追いつける速度では動いていなかった。
フェアリーと黒い怪物の衝突は周囲に斬波を飛ばして被害をもたらす。
数メートル先の窓ガラスが弾け飛び、建築物に大きな切れ目が走ったり、しまいには時計台が斬り崩れた。
「た、隊長!」
「あれは……」
ブロンクソンの部下二人があまりの光景に戦慄の声を漏らす。
ブロンクソンもまた、その例に漏れない。
「ぁ、ああ……信じられん……これがこの世の戦いなのか?」