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真魔討伐作戦会議

「じゃあ、戦闘の作戦会議ね。」

「うん。」

 机に紙を広げ、ペンを握ったロルーリを見つつ、私は同意した。

真魔(しんま)って何パターンかあるのよね?」

「うん、そう。昔から色々な真魔が出てきてるし、どの個体が来るか、いざ出てこないと分からない。」


 私が調べた記録の範囲で同じ真魔が登場したのは、最大で七回。


 ちなみに、今のところ記録されている真魔は六つ。だが、毎回同じものが来るか、どの周期で同じものがくるかは分かっていない。


 一つ目、日本のような言葉で言うロボット。

 見た目が数多の四角を組み合わせてできている。日本でよく使われた絵文字のロボットのイメージ。

 分身体をたくさん出して戦わせるが、その中の一つに紛れて、惑わせて囲んで敵を倒す戦法。

 倒し方は分身含めて、勢いで一掃。

 これまでで七回討伐されている。


 二つ目は空気、ガス。

 実体はないが、なぜか意思の疎通ができ、成人男性の声の低いような声を発する。

 ガス、の名の通り戦い方はどの種族も意識しないで行う呼吸に紛れる。

 はじめは一瞬で死に至るガスを無意識のうちに吸ってしまうことが多く、討伐部隊の被害は大きかったが、なぜかモクケ大陸からは出ていかないため、民の被害はない。

 倒し方は風魔法と光魔法を混ぜて、モクケ大陸全体の空気を綺麗にする。

 この個体はこれまでで五回討伐されている。


 三つ目はオオカミの大きい個体。

 見た目はただの大きなオオカミ。

 この個体はこれまでで二回討伐されており、一度は白く、もう一度は黒かった。

 戦い方は純粋に力比べのようなものだ。白い個体は氷魔法を、黒い個体は闇魔法を使いつつ、オオカミの身体能力を使い噛み殺したり、ふっ飛ばしたりと戦う。オオカミという雰囲気があるためか、群れはおらず、言うならばこの真魔は一匹狼。

 倒し方は至ってシンプル。魔法や武器を使って、オオカミを倒すだけ。


 四つめは飛ぶ大きな鳥。

 見た目は日本、というよりエジプト神話に登場するフェニックス。

 戦い方は上空から炎魔法を放つ、という至ってシンプル。

 だが、意思の疎通ができ、やめてほしい、と大きく叫ぶとやめてくれるという真魔でも、よく分からない個体。

 この個体はこれまでで一回討伐?されている。


 五つ目は獅子の群れ。

 見た目は全部赤いライオン。そして父親ライオン、母親ライオン、子どもライオンの三体がいる。

 戦うのは父親ライオンで一般的なライオンのように力で押すだけ。その間、母親ライオンは子どもライオンを守り、子どもライオンは母親ライオンに守られているだけ。

 母親ライオンも強いが、父親ライオンよりも先に子どもライオン、母親ライオン、またはその両方を倒してしまうと、父親ライオンは強くなる。

 倒し方はまず父親ライオンを倒し、その後、母親ライオンを、そして子どもライオンを討伐する。が一番いいとされているが、全部一度に倒したことがないため、全部を一度に討伐する方がいいとも思われている。

 だが、実際のところ、戦ってみないと最適解は分からない。

 この個体はこれまでで五回討伐されている。


 最後六つ目は尾と胴の長い、日本で言う竜のような個体。

 見た目は白と水色でできた竜で、かなり幻想的で美しい。

 その竜の姿を見ると、幻術のようなものにかかってしまい、全員気付くと眠ってしまう。眠っている間は、水や食料がないため身体は衰弱していくが、竜に見せられた夢により、幸せなときを過ごしながら、脱水で死んでいく。

 倒し方はまず、竜の姿を見ないように目隠しするか目をつむる。その後、己の感覚だけを信じて、竜の頭のてっぺんにある角を折る。すると姿は消滅するが、一度夢を見た者は死ぬまで目を覚ますことがない。

 竜は飛ぶことができるようにも見えるが、飛んだことはなかった。

 この個体はこれまでで五回討伐されている。


 討伐回数、種類等すべてがバラバラである。

 だが一つだけ共通点がある。それは、被害はモクケ大陸のみで済んでいる、という点。


 なぜ被害がモクケ大陸のみなのか、いくら調べても調査しても、理由は分からない。


 っと、こんなものですね。


「...それって、本当にどうしても分からない、のよね?」

 やはりなにか思うところがあるのだろう。ただの疑問だけではないような雰囲気で聞いてきた。

 でも、慰めるよりも事実、ですよね。

「うん、そうだね。真魔が出てくる前兆がないことも、すべて。」

 更に悲しませてしまうかも、とは思いますが、やはり作戦会議という今の状況に置いては事実の方が大事ですよね。

「今まで登場したことのない、ほかの個体が出てくる可能性はあったりする?」

 ...それは正直なところ、なんとも言えないんですよね。

 普通に考えるのであれば、これまで数多くの個体が登場し、フェニックス風を除けばすべて複数回討伐されている。

 そのため、ループという規則性がある上で真魔の種類が決まっているのであればほぼ確実にない、と言えるのですが...。

 言い切ることができるほどデータは存在しておらず、これまで1000年間に討伐された真魔を書き起こしても、ループになっているとは言えず、どちらかと言うとランダムになっているように見えた。

 つまり、

「なくはない、と思う。」

 出てくる可能性をなくし、準備せずに討伐する。というのはいささか不安ですし、どちらも言い切れませんね。

「そう...。レミーラ的に、確率はどのぐらい?当たる当たらないは置いといて。」

 確率、かぁ...んー...本当に出すのが難しい...。

「......そう、だね。んー...五分五分、かなあ。私が遡った1000年という長い年数で規則性がないからさ。」

 どっちに傾いてもいない。これが最適でしょう。

「ああ、そうだったわね。レミーラは1000年遡って調べてくれたのよね。ありがとう。」

「ううん、そこは気にしなくて大丈夫。魔物増加率がおかしくて調べただけだからさ。」

「あ!そうだ!魔物増加率がおかしいんだったよね?過去に似たようなことが起こったときは、なんの個体だったの?」

 対策の効率か、失う恐怖か、ロルーリもなにか考えたのだろう。前のめりになって聞いてきた。

「オオカミの個体の黒。今回もそいつが出てくるならロルーリの光属性とはかなり相性がいいよ。」

「その、オオカミの個体はこれまででそれだけ?」

 少し目に光を含んで聞いてきた。でも、優しさだとかでその光に嘘を吐くわけにはいかない。

「ううん、もう一度普通のときに出てきている。」

「...じゃあ言い切れないのね。」

 しゅんとなってロルーリは話す。

 この麗しき方はしゅんとなっても美しいですね。ってそんなこと思っている場合じゃない!慰めないと!

「うん。でも、今まで出た個体ならほぼ全て討伐方法が分かっているし、唯一討伐方法が分かっていない飛ぶ大きい鳥も、討伐しなくていいんじゃないかって、対処法は出ている。だから、そこまで気負わなくて大丈夫だよ。」

 過去の文献にはさっきの通り、討伐方法など過去の方々の様々な犠牲の上で研究されています。

 よほど気を抜くか、新しい個体かでもない場合こちらの犠牲はほぼ0で終えることができる、と私は信じています。


 その言葉に少し希望を見えたのか、ロルーリの顔には少しだけだけど光が戻ってきた。

「そう、だよね。うん。...じゃあ、本当に戦闘の作戦会議しよっか!止めっちゃってごめんね!」

 否、頑張って口角を上げて言葉を紡いだ。ロルーリの瞳に少し見えた光はその王女として貼り付けられた笑みに隠れてしまった。

 ...相変わらず上手ですね。さすがは王女様。

 ...この無理している笑みは見て見ぬフリした方がいいですよね。友達としても、この世界の関係(公爵令嬢と王女)としても。

「うん。じゃあまず、ロボットの個体の場合だけど。あれには私が魔法を放ったほうが楽だから、ロルーリには防御を任せたい。私も防御魔法を張ってもいいんだけど、それだと攻撃魔法の威力が下がってしまうから。」

「うん!了解!どんな属性っていうのはある?」

 属性ですか。ロボットの場合、どれが適切か分からないですし、

「ロボットっていうことしか分からないから、今のところ全部張ってみるしかない、かな。」

「じゃあ、私は防御を、レミーラは攻撃を。」

「うん。それで被害の出る前に分身もろとも一掃する。」

「おっけー!じゃあそれを頭に入れておくね!」

 ロボットの真魔の場合の作戦会議中、言葉はフランクな友達にかける言葉遣いだが、貼り付けられた王女の笑みは崩れることはなかった。

 ...話していけばこの王女の笑み、崩れたりしませんかね。ロルーリだけどロルーリではない人と会話しているみたいで少し気持ち悪いです。

「うん、よろしく。じゃあ次に空気の個体の場合だけど〜」

 そんなことを思いながらも作戦会議を止めるわけにはいかず、その感情を隠しつつ、そのまま口を動かし、話を続けた。



「じゃあ、すべての個体の場合の作戦会議はできたわね!今からはこれまでに記録のない真魔の場合を考えましょうか。」

 六つの場合の作戦会議を話し合っていたのに、その間ずっと王女の笑みが崩れることはなかった。

 ...嫌だなあ...。本当にロルーリじゃない誰かとずっと話していたみたい。

 公の場であったときにはよく見ているから耐性ができたと思ったんだけどなあ。

「ぅん...。ロルーリ、少し休憩しない?ずっと話し続きで疲れない?」

 なんてことない提案のようなトーンで話しかけたが、最初少し声がすぼみかけてしまっているレミーラだった。だが、本人は気付いていないのか、気付きたくないかそのまま言葉を続けた。

 お茶とか雑談とか挟めば、少しは元のロルーリに戻らないかな。

 そんなことを思いながら。

「でも、話しきった方があとあと楽じゃない?今少し休憩挟んじゃうと、気が緩まない?」

 そんな思いからの提案は王女モードをキープするロルーリに断られてしまった。

 ...これはもう、ずっとこれ(王女モード)であるかも、と諦めるべきですかね。こちらが変に気を使うのも悪いですし。

「うん、ごめん、そうかも!じゃあ話し続けようか!」

 腹をくくったレミーラはロルーリと同じく、公爵令嬢の笑みを貼り付けた。

 そんなレミーラを見て、申し訳ない、そんなことを思ったのだろうか、はたまた自分から先に王女の笑みを貼り付けて、傷ついたのか一瞬顔を歪めたが、すぐにスイッチを入れ直したロルーリだった。



「まずは意思の疎通ができるか、実体はあるかをすぐに判断かな。意思の疎通ができる場合まずは対話での退却を願う、実体がある場合まず何に似ている個体かを考える。意思の疎通ができて、それで去ってくれれば万々歳。実体がある場合は何に似ているかを考えて、そこから討伐方法を考える。だから、ロルーリには意思の疎通ができた場合ソルメクナの王女としての対話を、実体があった場合防御魔法の維持をお願いしたい。」

 その会話に友達の雰囲気はなく、公爵令嬢と第二王女の笑みを貼り付けた、言葉だけがフランクな空間ができていた。

「了解!」

「あとはどれにしろ防御魔法で時間稼ぎつつ、その場の作戦会議に案を出してほしい、かな。」

「うん、そうだね。まあ私、動物の知識もないけどね。」

 少し素が戻ったように笑うロルーリを見つつも、レミーラは仮面を外すことなく会話を続ける。

「私もたくさんあるわけではないけど、二人で持ち寄れば少しは思いつくんじゃないかなって。」

「...うん!じゃあ、そんな感じで。あとは荷物かな。食料、寝袋、調理器具、かな?あとはなにかある?」

 1ミリも仮面をズラすことなく会話を続けるレミーラに少し悲しそうな顔をしつつも、ロルーリもすぐに仮面を戻し、会話を続けた。

「そっちは野宿用だとしたら戦闘用かなって思ったけど。ガスを吸わないようにーは風の防御魔法。幻想ーは目をつぶればいい。うん、そのぐらいかな。」

「わかった!じゃああとは各々欲しいものとかあれば準備で。」

「うん。あ、あと。」

 そろそろお開きかな?となったところで公爵令嬢でも友達でもない雰囲気を纏ったレミーラが話し出した。

「うん?なにかある?」

「いざ行くって前にも言うとは思うけど、言い忘れたときように今言っておくね。家族とか友達に何か伝えたいことがあったとき用に遺書は用意しておいてね。死なないとは限らないから。まあ言葉で伝えるのが一番だけど、念の為には。」

 遺書、死ぬかもしれないという言葉にことの重みを感じたのか、ロルーリが息を飲み込んだのが分かる。

「うん、分かった。ありがとう。」

「じゃあ、今日はこのぐらいにしようか。意外と長く居てしまったし。」

 先の言葉を最後に公爵令嬢でも友達でもない、何者か分からないレミーラは消えた。


 前世のレミーラであり、挨拶も何もなしに突如ガチャガチャによって異世界に転生させられた未世礼(みせ れい)だったのか、公爵令嬢を過ごす中で数多の影に触れた別のレミーラだったのか...。

 果たしてあのときのレミーラは誰だったのだろう。

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