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1.愛情は言葉にして伝えるべきもの

【★読まれる前の注意事項★】

思春期特有の勘違いガールが出てくるので、地雷の方はご注意ください。

尚、作者はわりと心理描写をガッツリ書く作風なので、登場人物達へ過剰に感情移入されて読まれる事はあまりお勧め致しません。

(登場人物が受けたストレスを読者様が一緒に受けてしまう可能性がある為)

出来れば、第三者視点でお話を傍観するような感覚で当作品をお読み頂く事を推奨いたします。

 通常であれば、婚約者と共に夜会に参加しているはずのプレイニー子爵家の令嬢セシリアだが、その日は珍しく兄であるサミュエルにエスコートをされ、夜会に参加していた。

 何故なら二週間前に婚約者であるウィルフレッドから、この夜会のエスコートは出来なくなったと事前に連絡を受けていたからだ。


 そんな婚約者のエスコートが受けられない状態であれば、無理に参加しなくてもいいはずなのだが、本日の夜会は今年13歳となったこの国の第二王女の誕生祝いとお披露目も兼ねていた為、同じ十代であるセシリアが参加しない訳にはいかなかった。

 何よりも兄サミュエルの妻である身重の義姉に無理をさせたくなかったので、今回の夜会参加を自ら名乗り出たのだ。


 そんなセシリアに兄夫妻は苦笑しながら「無理に参加しなくても……」と気遣う言葉をくれたが、セシリアは夜会への出席を強く希望した。何故なら、エスコートを断って来た婚約者の事が気になったからだ。


 『二週間後の王女殿下の誕生祝いの夜会では、君のエスコートは出来ない』


 そのように断りを入れてきた婚約者のウィルフレッド。

 すなわちそれは『夜会には参加するが、セシリアのエスコートは出来ない』という意味も含む。ようするに別の女性をエスコートする事になってしまったので、セシリアのエスコートは出来ないという意味での断りであったからだ。


 ではウィルフレッドのエスコート相手は一体どんな女性なのだろうか……。


 婚約者のセシリアが気になるのは当然である。

 そんな好奇心と、妊婦である義姉の代理で夜会に参加する事にしたのだ。


 だが、兄と共に会場入りしたセシリアは、婚約者であるウィルフレッドの姿をなかなか見つけられなかった。

 代わりに目に付いたのは、今回の夜会の主役でもある第二王女殿下と同じく、本日社交界デビューを果たした初々しい令嬢達だ。そんな令嬢達の姿を眺めながら、5年程前の自分も同じ状態だった事を今年で18歳となるセシリアは、懐かしみながら笑みをこぼす。


 だが、その群れから少し離れた場所に見慣れた男性の姿を見つけ、セシリアは驚く。眩い程のさらさらの金髪に濃紺の青い瞳を持つ長身のその男性……セシリアの婚約者であるウィルフレッドだ。


 どうやら王女に群がる令嬢達の中に今回、彼がエスコートをしている相手がいるようだ。職業上、周囲の動向や気配には過敏であるウィルフレッドだが、その相手を気にかけている所為か、セシリアからの視線に全く気づいていない。


 セシリアよりも5つ年上の彼は現在、花形でもある王家直属の第一騎士団に所属しているのだが、騎士特有の直情的なタイプではなく、冷静で落ち着いた雰囲気をまとった青年だ。

 だが今の彼は、少々落ち着きのない様子を見せている。


 そんな婚約者の状態を珍しいと感じながらセシリアが見つめていると、王女に群がる輪の中から眩いハニーブロンドの髪をクルクルに巻いた空色の瞳の美少女が抜け出てきた。そしてセシリアの婚約者であるウィルフレッドへ幸福そうな笑みを向ける。


 そのいかにも恋する乙女のような美少女令嬢の様子を見た瞬間、セシリアは硬直してしまった。すると、何故かその美少女令嬢とバチリと目が合う。

 セシリアの存在に気が付いたその美少女令嬢は、何故か獲物を見つけた狩人のような勝ち誇った笑みを浮かべながら、エスコート役のウィルフレッドにそっと耳打ちをした。


 そこでやっとウィルフレッドが自身の婚約者であるセシリアの存在に気づく。

 同時にウィルフレッドにエスコートされている美少女令嬢が、グイグイと彼を引っ張りながら、セシリアの目の前までやって来た。


「お初にお目にかかります、セシリア様。わたくし、ラザフォード伯爵家のフランチェスカと申します」


 満面の笑みを浮かべ、自信に満ちた表情の美少女令嬢からの突然の声掛けに呆気に取られていたセシリアだったが、慌てて自己紹介を返す。


「セシリア・プレイニーと申します。フランチェスカ様、お声がけ頂き、ありがとうございます」


 確実に年下である美少女令嬢のフランチェスカだが、爵位は彼女の方が上だった為、セシリアはやや下手に出るように名乗った。すると、何故かフランチェスカが満足そうな笑みを深める。


「わたくし、本日がデビュタントでして……。母方の従兄でもあるウィルフレッド様にエスコートをお願いしてしまいましたの。ですが、いくらデビュタントとはいえ、ご婚約者であるセシリア様には、今回エスコート役を奪ってしまうような形になってしまい、大変申し訳なく思っております……」


 そう言って両眉尻を下げるフランチェスカだが、その口元は何故か嘲笑を含んでいるような印象をセシリアに与えてきた。だが相手は年下で、しかも自分よりも爵位が上の令嬢である。たとえそれが気になったとしても表情には出ないよう配慮が出来る社交経験が、セシリアにはあった。


「そのようなお気遣いを頂き、誠にありがとうございます。ですが、フランチェスカ様のエスコートをされると決められたのは、ウィルフレッド様のご意志かと思いますので、そちらは気にされなくとも――――」

「そうなのです!! この度はウィルフレッド様が、とても前向きにわたくしのエスコート役を引き受けてくださったのです!!」


 セシリアが謙遜気味な返答をしている最中に瞳をキラキラさせたフランチェスカが、興奮しながら食い気味に言葉を被せてきた。その勢いにセシリアは一瞬で呑まれてしまい、思わず口を閉ざす。


「従兄妹関係であるとはいえ、わたくしは今までウィルフレッド様とあまり交流する機会がなかったのですが、今回改めてお話をさせて頂いた事で、何故か不思議と運命的なものを感じてしまいまして……。もしかしたら血縁関係だからかもしれませんが、ウィルフレッド様も同じ様な感覚を抱かれたそうです。そんな不思議な感覚を互いに抱いたからか、わたくしがエスコートをお願いすると、ふわりと優しい笑みを浮かべて快くお引き受けくださいましたの。しかもそれだけでなく、二週間前からわたくしのデビュタント用の衣装に合わせて、正装服もオーダーメイドでご準備してくださいました。そして本日のエスコート中はとても親身になってわたくしを気遣いまでも……。何よりも嬉しかった事は、わたくしの本日の装いをご覧になった際、『まるで妖精の姫のように美しい』とお褒めの言葉までくださいましたのよ?」


 まるで捲し立てるように興奮気味で一気に語ったフランチェスカは、うっとりする様な表情を浮かべながら、何故かセシリアに対して挑戦的な態度を垣間見せてくる。


「こんな素敵な殿方であるウィルフレッド様とご婚約されているセシリア様が、とても羨ましいですわ! 婚約者でもない半人前のわたくしにですら、こんなにも甘い言葉を囁いてくださるのですから、セシリア様は日々ウィルフレッド様からの甘い愛の囁きを頂いているのでしょうね……。よろしければ、普段どのような愛を囁かれているのか、ご参考までにお聞かせ頂けませんか?」


 セシリアを持ち上げるような言い方だが……よくよく内容を確認すると、先程自分がウィルフレッドから告げられた言葉が全て甘い愛の囁きだったと主張するような言い方だ。

 そんなフランチェスカに、やや困惑気味な笑みをセシリアが浮かべる。


 そして思わず彼女の手を取って傍らに佇んでいる自分の婚約者にそっと視線を向けた。するとウィルフレッドが、何とも言えない微妙な笑みを返してくる。それにつられるようにセシリアも同じような笑みを返した後、再びフランチェスカへと向き合う。


「申し訳ございません。実はわたくし、ウィルフレッド様からそのようなお言葉を頂く機会が殆どなかった為、お話しする事が難しいのですが……」

「まぁ! ご婚約者様なのに!?」


 敢えて大袈裟に驚く様子を見せてきたフランチェスカにセシリアは更に困惑した笑みを深める。同時に彼女の隣に佇む婚約者が、口元を軽く押さえながら対面しているセシリアから、そっと視線を逸らした。

 そんな婚約者の様子に更にセシリアは、困り気味に眉尻を下げる。


「ええ。ウィルフレッド様は、わたくしにはあまり甘い言葉を囁く事はなさらないので……」

「そんな……。ご婚約者であるのに……。ウィルフレッド様!? わたくしのようなデビューしたばかりの小娘に甘い言葉を囁かれている場合ではございませんわよ! そのような言葉は、ご婚約者様に差し上げた方がよろしいかと思いますわ。これではまるでウィルフレッド様が、ご婚約者のセシリア様よりもわたくしの方へ過度に愛情を注いでしまっているよう周囲の方々が勘違いされてしまいますわ……」


 そう言って、右頬にわざとらしく手を添えて困った表情を浮かべたフランチェスカが、何ともわざとらしい様子で小首を傾げる。

 そのあまりにも愛らしい仕草に思わず口元が緩みそうになったセシリアだが、それを堪えるように必死で口元を引き締め、困惑気味な笑みを敢えて作る。


「お気遣い頂き、誠に感謝いたします。ですが……愛情の深さは何も言葉だけで表すものではないかと思います。わたくしは別の表現方法で十分ウィルフレッド様より、婚約者に対する誠意ある接し方を頂いてますので、ご心配には及びませんわ」

「ですが……甘い言葉はあまり頂けていないのでしょう? 愛情というものは、しっかり言葉にして頂かないと、相手には伝わらないものではないでしょうか……。態度や雰囲気のみで察して欲しいというのは、あまり誠実ではないかと思います。何よりも思わせぶりな態度を取ってしまったつもりはないのに、全く愛情を抱いていない女性に気があると勘違いされてしまう危険性も出てきますし。セシリア様もそのようなケースで、もしご自身が勘違いをされてしまうような事があれば、きっと深い羞恥心に苛まれてしまいますでしょう? ですから殿方には、態度や雰囲気ではなく、しっかりと口頭で最愛の女性に愛情を囁くべきだと、わたくしは思います。それが一番分かりやすく、誠実に相手へ愛情を伝えられる方法ですし、異性避けにもなりますから!」


 そう熱く語ったフランチェスカの言い分では、ウィルフレッドから甘い言葉を囁かれた自分は好意を抱かれているが、婚約者という立場であるのにその言葉を囁かれていないセシリアには、そういう感情を抱いていないのではないかと、仄めかしながら質問を投げかけているのだ。


 フランチェスカのその主張の意図にすぐに気づいてしまったセシリアは、先程から彼女のエスコート役に徹している自身の婚約者へ、再び視線を向ける。すると、ウィルフレッドも困り果てた様子の笑みを浮かべていた。そんなウィルフレッドの様子に気づかないフランチェスカは、瞳をキラキラさせながら、彼に同意を求める。


「ウィルフレッド様もそう思われませんか?」


 先程までセシリアに向けていた笑みとは違い、愛らしさの塊のような満面の微笑みをウィルフレッドにフランチェスカが向ける。すると、ウィルフレッドが困惑気味の笑みを浮かべたまま、小さく息を吐き、遠慮がちに口を開く。


「大変申し訳ないが……私も愛情を伝える方法は言葉ではないタイプの人間だ」


 そう言って、ウィルフレッドはフランチェスカの手をそっと放し、そのまま対面していたセシリアの方へと歩み寄る。突然、自分のエスコートから外れたウィルフレッドに信じられないという表情を浮かべたフランチェスカは、恐る恐る声を掛けた。


「あ、あの……ウィルフレッド様?」


 すると、セシリアの背後にまわったウィルフレッドが、どこか悪戯を企む少年のような笑みを一瞬だけ浮かべた。そしてセシリアの背後に廻った状態のまま、彼女の左手を労わるように優しく手に取る。


 だが次の瞬間――――。

 ウィルフレッドは右腕を素早くセシリアの腰に回し、彼女の体を勢いよく自分の方へと引き寄せた。

当作品をお手に取って頂き、誠にありがとうございます!

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