3000円の友人
長い間ニートをしている友人に農作業のアルバイトで来てもらった。けれど、期待通りにやらかしてくれる。僕と親父はどうする?
【前編】
「おめん家はカネがありそうだな〜」
僕と奥田はジムニーから降りドアを閉めた。
着いた先は、僕の家。赤い屋根のそんなに大きい家ってわけでもない、先祖代々受け継ぐ農家。
奥田は高校からの友人。だが長い間無職ニートを極めており、オマケに車の免許すら持っていない。そんな奥田に田植えを手伝ってもらうことになった。
僕は久しぶりに見た奥田の姿を見て思わず
「高校の時はあんなに痩せてたのに…な」
すると奥田は
「このデブ!このブタに言われたくね」
僕らは、こんな感じで言い合って笑いあえる仲。10年ぶりに会ったがいつもと何ら変わらない。奥田はとりあえず田植えの間は僕の家に泊まることになった。
そして、田植えも最終日を迎えた。
このあと奥田はカネを盗むなんて僕と親父は予測していなかった。
テーブルの向こうには親父と奥田が座って、朝ご飯を食べている。僕は納豆ご飯を食べ始めた。奥田は紅いタラコを載せたご飯をもりもり食べている。が、なんだか落ち着きが無い。戸棚をチラチラ見ている。奥田は何を考えているのだろう。
「ごちそうさまでした」 僕と親父がご飯を食べ終わった。
しかしまだ奥田は食べている。
「奥田のカビゴン!さっさと食って40秒で支度しろ」
僕は声を荒らげた。奥田は無言で睨みつけてきた。
「さっさと着替えて田んぼに行く支度するど」
親父の一声が部屋中に響いた。
僕と親父はササッと着替えて外のビニールハウスへ向かった。ビニールハウスに着いたが、まだ奥田が来ない。
「奥田は、まだ来ねなが?」
まだ奥田は、家の中にいる。
この時は僕と親父は、奥田が戸棚のビンから500円玉を6枚盗んでいたなど知る由もない。
10分くらい経ってから
「すみません、ちょっと遅くなってしまいました」
と、奥田が息を切らしながらビニールハウスへ走ってき
た。
親父と奥田は軽トラックに乗り、僕は田植えの機械に乗り田んぼへと向かった。
【中編】
田植えも終わり、奥田を家へ送って行かなければならない。
僕は着替えて、ジムニーへと乗り込んだ。
奥田は親父からアルバイト代を受け取り、持ってきた荷物を持ってニコニコ笑顔で「お邪魔しました」
玄関から颯爽とジムニーの助手席のドアを開けて乗り込みドアを閉めた。
「北美鈴町のペットショップわがるべ?メダカを買うからそこに寄ってけれ」
奥田はそう言うと、僕はカビゴンのタクシーじゃねーと思いつつ「わかった」と言いそのペットショップへとジムニーを走らせた。
「おめような、高校の時に留香と美織に下駄箱に雪を詰められてたよな。俺が雪を詰めたと勘違いして殴ってきたよな」
奥田が笑いながら高校時代の話を振ってきた。
僕も笑いながら、
「そんな事もあったな、結局は奥田にボコボコにされたっけな」
奥田は、僕の都合の悪い話ばかり。
奥田の行きつけの北美鈴町のペットショップに着き、駐車場に車を止めた。
「奥田だけ行って来いよ。僕は車で待っているから」
「なんで来ないんだ?なんでよ、なんでよ!」
「行ったって何にも買う物ないし」
奥田はつまらなそうに助手席からドアを開けて降りて強めにドアを閉め、店内へと入って行った。
車の中で40分もの時が過ぎた。メダカが10匹ほど入った透明な袋を持った奥田が、わりぃわりぃと言いながらジムニーに乗り込んだ。奥田の家へとジムニーを走らせた。
車内では恒例の奥田の高校時代の話題がまた始まった。
奥田は笑いながら、
「おめような、まだ留香の事好きだが?」
以前にも、同じクラスだったランサーエボリューションが大好きな木下からも同じ質問をされたのを思い出した。
留香とは、僕が好きだったクラスの女子。僕は嫌われていた為に、遊んだりデートしたり携帯電話のアドレス交換すらできなかった。女子の携帯電話のアドレスなんか皆無だった。だが、奥田は軽々とクラスの女子やあの留香のアドレスをGETしていた。
後でランエボの木下から聞いた話だが、修学旅行の3日目の夜に奥田と美織と留香はナイトフィーバーもしていたらしい。
それを聞いた僕は正直羨ましかった。
「もう20年前の話だ。今はジムニーが楽しくってそんなの忘れてしまった」
ジムニーのハンドルを少し強めに握り僕は答えた。
【後編】
奥田の家へと着いた。奥田は助手席から降りて家へと入って行った。駐車場にジムニーを止めて降りて玄関へと僕は向かった。玄関の扉を開けて
「お邪魔しま〜す」
奥田はこっちに来いと言わんばかりに手招きをする。
ギシギシと鳴る階段を上った。
その先に奥田の部屋があった。消防車や救急車のミニカーやハコスカのポスターがズラリとあった。その一角にはメダカの水槽が鎮座していた。買ってきたメダカを水槽に入れては自慢気にメダカの事を説明してくる。が、僕にはさっぱりわからない。
その時、ブーンブーンと僕のスマホが鳴り出した。スマホを手に取ってみると親父からだ。
「もしもし、親父どうした?」
「俺の500円玉がいっぱい入っているビンから3000円分持って行ったが?」
僕は身に覚えがない。
「僕は持って行ってないよ」
親父が
「んだなが〜。奥田に盗ってないか聞いてみれ」
電話が切れた。
僕は奥田の目を見て問い質した。何度も何度も…
奥田は盗ってないとの一点張り。
僕はそろそろ透析治療するため病院へ行かなければならない時間になった。ギシギシと鳴る階段を下った。玄関先で
「お邪魔しました」
と言いジムニーへと向かった。
奥田の家から30分のとこにある苧環中央病院に着いた。駐車場にジムニーを止め一目散に透析室へと行った。
透析治療が始まった。
透析の管につながれながらベッドの上に起き、スマホを手に取り奥田の家に電話をした。
「なんよ?まだ何かあるなが?」
奥田の不満げそうな声が電話の向こうから聴こえた。
僕はまた問い質した。
やはり奥田は盗ってないの一点張り。
僕は最後の手段を使った。
「外部からかもしれないから、明日警察に相談に行くけどいい?」
と、言った瞬間に
「俺が盗っだかもしれない」
奥田がふざけた声で言い出した。
「やっぱりな」
僕は奥田に呆れた。裏切られた想いが半端なく重くのしかかってきたような感じだった。
僕は4時間の透析治療が終わりジムニーに乗り込んで家路に着いた。
次の日の早朝に奥田の家に電話をした。
「もしもし奥田です。おはようございます。」
奥田の母サトミが電話に出た。
僕は昨日の事を話した。サトミは、ビックリしていたようだ。
盗った3000円は返す事で警察沙汰にはしない事で和解をした。
そして1週間後、母サトミと友達の本田に付き添われて3000円を返しに来たそうな。
そして親父に説教され泣きながらサトミと本田と帰ったそう。
僕はたった3000円の事で、奥田との距離を置くことにした。
今頃、アイツはどうしているのだろうか。
終わり
終わり良ければ全て良しってこの事なんだなと実感できるかなと思います。このモデルになった友人とは疎遠になり連絡がつかない状況です。