9.女装
ランベルト殿下からのお話は、夏に開催されるブルクハウセン国との舞踏会のことだった。
冬に開催される国交50周年記念祭に向けて、打ち合わせを含めてこのような機会を数回設けるらしい。
「今回ブルクハウセン側からはローゼンハイン伯爵が来るんだよ」
「は······? お父様が?」
「ヴァルテンブルク語が堪能だと聞いているから通訳者としてブルクハウセンの王太子殿下に同伴しているんだよ。君はやりにくいかもしれないけど、勿論私サイドの通訳として参加してもらうから」
「え?! 嘘······え、遠慮させて頂きたく······」
よりによってお父様が来るなんて······。
ヴァルテンブルク国で男装生活しているのバレちゃうじゃない。
「おい。殿下の依頼を断るなんて不敬だぞ!」
エリアス先輩はかなり厳しい顔で私を嗜めた。
「······失礼致しました、ランベルト殿下。ごめんなさい、エリアス先輩」
「ふふ、いいよ。ローゼンハイン君。エリアスも、そんな怒んないであげて。久々の親子の再会だ。色々あるんだよ、ね?ローゼンハイン君」
「は、はい」
「だから、当日、君は女装して来なさい」
「へ?」
女装······ということは、ちゃんと令嬢として親に会えと言うことか?
「勿論国王陛下の通訳者としてリーネル侯爵もいらっしゃる。親戚一同の前で恥はかけまい」
「え······いや、だから僕がいないほうが······」
「大丈夫だ。ドレスは私が用意してやる。採寸をするから、今日このあと王城へ来なさい」
「······はい······」
だんだんと返事をする声が小さくなる私を見ながら、エリアス先輩は一人首を傾げた。
「殿下? 何故此奴が女装を?」
「エリアス。ヴァルテンブルクにはヴァルテンブルクの慣習があるように、ブルクハウセンにはブルクハウセンの決まりがあるんだ」
「親と会うのに女装する決まりが?!」
「ククク······まあ、色々とね。だから、エリアス。当日ローゼンハイン君のエスコートをしてあげなさい」
「何故女装した男にエスコートが必要なのですか?」
「お前は私の直属の部下だ。ローゼンハイン君とまとめて私の傍にいてもらった方が助かる。どうせ決まった令嬢もいないんだから、ローゼンハイン君と組んでも問題はあるまい?」
「まあ、殿下がそう言うなら」
首をひねったままエリアス先輩は不承不承頷いた。
傍らで、来たる舞踏会に私は項垂れでいた。