8.面倒なイベントは次々にやってくる
「エリアス先輩、エリアス先輩! 2年からは秋に合宿があるって本当ですか?!」
「ああ、あるぞ。だからどうした」
だんだんと先輩との距離感か縮まった(私が一方的に縮めた)今日この頃、先生から渡されたプリントを片手に、夏休み明けにある合宿の経験者である先輩に詰め寄った私が知りたかったのは、「合宿は強制なのか、水着を着るのか否か」である。
「全員海で泳ぐぞ。泳げないやつは浅瀬で浸かるぐらいだが水着は着なくてはならないな。毎年2〜3年の合同行事だ」
「ああああああ〜······」
しまった。
まさかこの手の行事があるなんて。
1年の頃は水泳の授業は、私は持病持ちというていで、先生達が室内競技に変更してくれたお陰で難を逃れた。
「ぜ······全員参加ですかね」
「全員参加だ。単位に響くからな」
「······そうですか。先輩も行くんですか? ランベルト殿下も?」
「行くよ。一応授業カリキュラムの一つだからな」
成る程。王太子殿下ですら参加するのであれば、私みたいな一介の生徒が行かないなんてことは出来ないだろう。
だが水着は着れない。性別がバレてしまう。
現地での対応について一度先生に相談に行こう。
「合宿の前に、ブルクハウセン国との舞踏会忘れないでね」
ゆったりと腰掛けて声をかけたのはランベルト殿下だった。
「殿下······本日はお時間があるので?」
いつもは貴賓室で必要な事を必要なだけ指示するとあっという間にいなくなってしまう殿下は、今日は部屋の一番重厚な執務机で資料にペンで書き込んでいた。
「うん。ちょっと君に話もあったしね」
「殿下。二人きりでコイツと話すと色々着飾らせようと誑かしてきますから、俺とフィンのいる前で会話してください」
「着飾る?」
フィンと呼ばれた小柄な従者は私を見てから困ったように笑みを浮かべ、ランベルト殿下はくすくすと笑っていたが、エリアス先輩は真剣に眉を寄せた。
「僕は誰も誑かしてなんかいないですってば。心配性だな先輩は」
「いいや。あれやこれや隙あらば俺に何かを斡旋をしようと仕掛けてくる。きっと殿下にも同じように······」
「ああそういえばエリアス、最近肌艶がいいね。それにそのカフスボタンも新しいものだな。細工が珍しい」
「······!! 有難うございます」
嬉しそうに口角を上げたエリアス先輩は、私が斡旋した洗顔と放課後無理矢理連れて行き買わせた服飾品店のカフスボタンを褒められ、とても幸せそうだ。
好きな人に褒められるって嬉しいもんね。
良かったね、先輩。
ニコニコと先輩を見守る私とエリアス先輩を交互に見ながら、ランベルト殿下もフッと笑みを溢した。
「誑かされてるのは、どっちなんだろうね」
殿下の言葉の意図を汲むことなく、先輩はカフスボタンを触りながら嬉しそうに手元の資料に目を落としていた。