6.エリアス先輩の恋心
エリアス先輩の補佐に付き、ランベルト殿下の仕事を手伝うようになって一週間が過ぎだ。
殿下は本当に忙しい方で、学校と王城を行き来しながら公務をこなしている。私が担うのはブルクハウセンとの国交50周年記念祭における資料の相互訳だ。
スピーチの原稿やら、配布資料やら、会場の設営に関するものから、量は膨大らしい。
ただメインの翻訳については叔父のリーネル侯爵が担当しているため、私が担当するのはあくまで王太子サイドにかかる仕事だけらしい。
「毎回使用人の方が学校まで資料を運んでくるの大変じゃないですか?」
「貴様を王城に上がらせる方が大変だ」
まあ、私外国人だし、手続きとか煩雑そうだし。
確かにそうなんだろうけどさ。
「王太子殿下はお忙しそうなので申し訳無いなあと思っただけですよ」
「ならばとっとと仕事をこなせ」
エリアス先輩と、今日も学校の貴賓室内の執務部屋に籠もり、ガリガリとペンを走らせているが、相変わらず仏頂面である。
言われなくても頼まれた分はしっかりやっている。
今のところ、国家機密に関係するような代物はなく、ただただイベントの準備物の訳文をひたすら作っている感じだ。
全て授業後に行っているので、携わっているのは一日2時間程度だし、その日運ばれた資料を淡々とこなすだけなのでそこまで重労働ではないが、この仏頂面のせいで拘束感が否めない。
つまり、居心地が悪い。
「少しくらいお話しません?」
「いらん。俺を懐柔しようとしても無駄だ」
コイツ。
まだ私が、殿下に色仕掛をしようとしてると誤解してるのか。殿下も殿下で、わかってて訂正しようとしない。しかも私の本当の性別を伝えていない。
ややっこしい誤解の渦に巻き込まれたまま、エリアス先輩は私が何かおかしな行動をしていないかいつも目を光らせていた。
「エリアス先輩、そんな仏頂面じゃ女の子にモテませんよ」
「女などにモテなくて結構」
「女などにって······八ッ!!」
コイツ!
ヤケに私に突っかかると思ったら······!
なるほど。エリアス先輩こそが男色なんだわ!
「だから僕に敵愾心を抱いて······」
「何をぶつくさ言っている」
そうかそうか。
それなら納得だ。
先輩はランベルト殿下に恋しちゃってるのだ。
ただでさえ身分の壁やら、性別の壁やらあるのに、私みたいなお邪魔虫まで登場しちゃったら、そりゃあ嫌だよね。
しかも相手は必ず世継ぎを作らないといけない身の上。どうしたって男同士で添い遂げるのは不可能だ。
珍しく私の胸は、切ない小説を読んだようにキュンとした。
「······応援しますよ、エリアス先輩」
「何がだ」
「いや、僕、お邪魔虫にはならないです。エリアス先輩にとって殿下は唯一無二の存在ですもんね?!」
「???? んあ? まあ、そうだが······」
「大丈夫。身体はともかく心は自由です。殿下の一番は絶対にエリアス先輩ですよ!!」
「······何の話だ?」
「大丈夫、エリアス先輩。僕がサポートしますから!」
「???? ······ああ、しっかり補佐役に徹してくれ」
こうして私は先輩の恋を陰ながら応援することを決めた。