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51.誘拐

 


 目を開けると、見たこともない天井が見えた。


「······なんだっけ······?」


 ゆっくりと上半身を起こすと、ズキリと頭が痛む。


「いった······、な、なにここ······」


 辺りを見回すと、大きめの倉庫のようだった。

 いくつもの木箱や樽が積み重なっている。


 何だろう。微かに香るのは······潮の匂い?


 薄暗い建物中、あちこちにある窓から入る陽の光を頼りに壁伝えにある大きな窓を覗き込んだ。


 うーん、見たことあるような無いような······

 あ、アレは海洋博物館の看板のクジラのマークだ。


 そういえばあの辺り、高い建物がホテルしか無いからやたらあの手書きの看板のクジラが目立つのよね。


 おばあちゃん元気かしら······


「······っ!」


 ハッとして直ぐに我が身の有り様を確認した。


 私ったら!

 何をボケッとしてんのかしら!


 私は貴族の家門。誘拐、殺人の類は幼い頃か等口が酸っぱくなる程両親から可能性を示唆されている。


 頭の痛み、知らない場所で寝かされている事実。

 おそらく私は何か犯罪に巻き込まれているのだ。


 そうと分かれば直ぐに自主点検だ!

 床に寝かせられていたようだが、衣服の乱れはなし。

 仕立て屋マダムの作ったダークグレーのスーツが埃で白く汚れているが、襟はしまったまま。チェストプロテクターもきちんと着いたままだ。


 後ろでに手を縛られてはいるものの、首から下の外傷らしきものは無し。


 オッケー、取り敢えずは生きている。


 でも、さっきから頭がズキズキする。

 殴られたのだろうか。


「······何よアレ! 男?! どういう事ですの?!」


 積荷の奥から若い女性の声がする。

 綺麗なヴァルテンブルク語だ。


「ブルクハウセン国のローゼンハインか否かの問いに『はい』と答えて······髪の色も指定された亜麻色で長い髪の······」


「記念祭があって、あの女の父親も入国しているのよ?! それに本国にいるという弟がついてきているかもしれないじゃない! 性別すら間違うなんて貴方どれだけ愚鈍なのかしら?!」


「はっ······あんた達が寄越した情報の中に性別なんか書いて無かったじゃねーか。こっちはちゃんと確認したのに、『余計なこと聞かずにとっととやれ』と言ったのはそっちだろ。『王城の馬車を使うからそこを狙え』と言われたんで、ちゃんと指定通り馬止めでそいつを拾ったんだ。こちとら、仕事は遂行してんだよ。金は払って貰うぞお貴族様よ」



 おっと。これは有力情報。

 この甲高い声の主は貴族らしい。今は記念祭中で、他国の貴族が入国しているとは考えずらい。


 この子はおそらくヴァルテンブルク国の貴族令嬢だろう。


「仕方ないわ。アイツを餌にレフィリアンとかいう女を呼び出しましょう」


 おいおい。

 ターゲット名間違ってますよ、お嬢さん。

 何だか誘拐にしては手際も情報収集も意思疎通も悪いな。


 これ、所謂プロの犯行ではない。

 絶対ズブの素人が指揮をとっている。


 コツ、コツ、とヒールの音が響き、大きな積荷の間から出てきたのは、妖精のような美しい銀髪と金色の瞳をした美しい女性と、汚れた靴を履いた肌が浅黒い男だった。



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