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46.国交50周年記念祭

 


 空に舞う色とりどりの大きな花火と、冬の晴れ間から舞い散る小さな雪。


 キラキラとした王城の華やかな飾り付けと、沢山の両国の王侯貴族の笑顔と、統一感のある美しい衣装。


 国交50周年記念祭のこの日、私はいつになく胸が熱くなっていた。


 城下でもブルクハウセン国の料理や土産物の露店があちこちに軒を連ね、寒い中なのに、王都はお祝いムードに包まれている。

 小国のブルクハウセンを平民達が篤く歓迎してくれることに少しなきそうになった。


 露店は一週間街に出ているときいたので、落ち着いたら一度遊びに行こうと思う。



 今日の私は白のローブ・デコルテで、アクセサリーは真珠で統一されて、髪はアップにしている。


 今日は二国間の公式行事。参加している両国の王侯貴族は皆正装だ。


 エリアス先輩も黒いモーニングコートにタイを締め、きっちりと髪を上げており、心なしか表情までビシッとしまっているように見える


 光輝く王城のホールでエリアス先輩の腕に、イブニンググローブを嵌めた手で掴んでいると、手袋の上からそっと先輩の大きな手が添えられた。


「緊張しているのか?」

「はい······ちょっとだけ」


 そう言うとエリアス先輩は「俺は式典より、レフィと早くキスがしたい」と耳打ちした。


 緊張は解けたけど、今度は顔が熱くなり違う意味で体が強張る。


 私が女だと告げて以降も、エリアス先輩の優しく甘い態度は変わらない。


 いつバレたのかはわからないけど、先輩は本当に私が女の子であると知っていてあんな風に接していたのだと改めて感じた。


 今まで男女の関係だなんて縁が無かったので、こんな風に女性として、恋愛対象として接してもらうことに戸惑いつつも、少し嬉しさを感じている。


 多分、私はずっとこうして女性として先輩に接したかったのだと思う。


 おそらくは、私はいつからか彼に恋心を抱いていたのだと、最近になって気づいた。



 式典は、両国王のスピーチがから始まった。

 勿論両国の代表通訳には叔父上とお父様が立たれていた。


 50年という時間と、両国の信頼、繁栄と未来に向けて話が出ると、大きな大きな拍手が沸き起こり、私も温かな気持ちでそれを見ていた。


 両国王陛下からのスピーチが終わり記念品の交換が終わると、幾つかのイベントが行われ、その間殿下の元には次々とご挨拶に両国の貴族が訪れていた。


 すぐそばでは微笑みの仮面をつけつつ、周囲を伺うエリアス先輩がいて、私はランベルト殿下の通訳者として最後の仕事をこなす。


 短いような長いような、3人で携わったこの仕事も今日で終わりだ。


 ────精一杯、最後まで誠実に務めたい。


 沢山の方々とのご挨拶を私は丁寧にこなしていった。そして、両国の国王が退出なさると式典は幕を閉じた。


 貴族達が会場から少しずつ退場し、後に残ったのは使用人達と、準備の主体になった数人の貴族だけになった。



「レフィリアーナ」


「······お父様」


 通訳の仕事を終えたお父様は、笑顔のまま私を抱き締めた。



 お父様にはまだ伝えていなかった。

 もうすぐ私は退校処分となり、エリアス先輩の元に嫁ぐように言われたことを。


「お父様、私······」


「ローゼンハイン卿!」


 私が話すより前に、傍にいたエリアス先輩がお父様に話しかけ、突然頭を垂れた。


「エ······エリアス先輩······?」


 先輩はお父様に頭を下げたまま、突然ブルクハウセン語で言った。


「準備は整いました。彼女に承諾も頂きました。お約束どおり、私がレフィリアーナ嬢を娶ることをお赦しください」


 ────え?


「······ついに取られちゃったね」


「先輩······? お父様······?」


 お父様はただ笑って私を見ていたが、エリアス先輩と同じように丁寧に腰を折り、静かにヴァルテンブルク語で言った。


「お返事が遅くなりましたことお詫び申し上げます。元より大国ヴァルテンブルクの公爵家に輿入れ出来るなど、我がローゼンハイン家には願ってもない縁談に御座います」


「有難うございます。必ず幸せにします」


「······ふつつかな娘では御座いますが、何卒宜しくお願い致します」


 ────何? どういうこと?


「レフィ。年越し休暇は帰ってきなさい。もう、これが私の娘として過ごす最後の休みになるのだから」

「お父様······」

「不思議だね。まだまだ子供だと思っていたのに。母様に良く似たレフィを手放すのは辛いなあ」

「お父様······! 私は······!」

「仕方ないか。20年前、この国から亜麻色の髪の美しい候爵令嬢を掻っ攫ったのは、紛れもなく私自身なのだから」


 お父様は私を見ると、「じゃあ、またね」と笑って会場を後にした。




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