43.違約の代償
一度堰を切った涙は、留まる事を知らず、蹲った床にボタボタと落ちていく。
「······ずっと······ずっとずっと······私は先輩を騙していました······男だと、偽って······!」
「レフィ······」
苦しい。
喉の奥が焼け付くようだ。
「貴方が、親しくなる度に、優しくなる程に······苦しくて······言えなくて······!」
「レフィ······! 俺は······!」
「騙すつもりなんて無かったの······! 最初はただ留学を続けたかっただけだった。毎日を楽しく暮らしたかっただけだった······先輩に······こんなに好かれるだなんて、思っていなくて······!」
「もういいから。レフィ、もういい」
「苦しかった······貴方を欺いて、嘘を重ねて······言えなくて······」
「······レフィ」
「貴方の気持ちに、答えることすら出来なくて······」
築き上げたものが、ガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。
エリアス先輩は何も言わない。
ああ、嫌われてしまった。
失ってしまった。
もう二度と、貴方の腕に包まれることはない。
自分から壊したのだから、当たり前のこと。
なんて無様なのかしら。
あんなに優しくて、真っ直ぐな人を騙し続けた。
自分のエゴの為に貴方を欺いた。
その報いを受ける時だわ。
3人とも黙り込んだ静寂の中、コツ、コツと足音が響き、私はぐちゃぐちゃのままの顔をゆっくりと音の方に向けた。
姿を現したのは能面のように表情が無いランベルト殿下だった。
「約束は覚えているね? ローゼンハイン君」
「······はい。ランベルト殿下······」
「何があろうとも、王族たる私への約束は違えてはならない。わかっているね?」
「承知しております。御心のままに」
土下座に近い形で。私は頭を垂れた。
全ては自分が犯した咎だ。
受け入れるより他はない。
「ゲームオーバーだ。ローゼンハイン君。約束通り、君には学校を辞めてもらう」
「はい」
「······殿下! そんな! レフィは······!」
「いいの、ルイ兄様。そういうお約束だったのだから」
兄様がぐっと言葉を飲み込んだのが分かった。
王族への誓約は絶対だ。
ランベルト殿下は蹲る私のそばにくると、後ろに手を組み、立ったまま顔を少し近づけた。
先程までの無の表情から一転した殿下は、にっこりとした微笑みを見せた。
「退学後、約束通り私の指示に従ってもらう。我が国、ヴァルテンブルクのクライン公爵家嫡子、エリアスの元に嫁ぎたまえ」




