41.兄様の心配と優しさ
「······兄様······っ」
「レフィ! 久しぶりだな、どうし······」
何時もは笑顔で飛びつく私が、暗い面持ちでいることに兄様は直ぐ気づいた。
普段陽だまりみたいな微笑みの兄様が、心配そうに私の顔を覗き込んできたので、家族に会えた安心感から私の目からはポロリと涙が零れた。
「ご······ごめんなさい······っ。私、最近、少し変で······っ」
「レフィ······? どうした、何があった?」
別にどうもしていない。
ただ、最近酷く感情が揺れ動くのだ。涙腺も馬鹿になっている。
前は殆ど涙も出さなかったのに、最近とても涙脆い時がある。
どうしてか、自分でも分からない。
感情のコントロールが出来ないのだ。
「何でもないの。兄様に会えたら少し安心してしまって······」
「······お前の涙の原因は、エリアス・クラインだな?」
「ち、違うの······! 先輩は関係なくて······」
ルイ兄様はじっと私の顔を見てから、小さく溜息を吐いて言った。
「······僕はずっと心配していたんだ。お前が、男のフリして学校に通っていることを」
「兄様······?」
「1年生のうちは毎月候爵家に遊びに来てたし、手紙のやりとりも頻繁だったけど、2年生に上がって殿下の通訳者になってからなかなか会えなくなったし、あの腰巾着の補佐に入ったと聞いて、僕は気が気でなかったんだ。だから僕は父上に言ったんだ。レフィを寮ではなくうちの屋敷から通わせてくれって」
眉を寄せる兄様は悔しそうに言った。
「父上の返事は否だった。おまけに父上からは、僕が率先してレフィの様子を見に行くことも、連絡を取ることも控えろと言われた」
叔父上が? どうして······
「それでも、ずっとずっとレフィのことが心配で······ヴァルテンブルク国の公式行事だと父上が目を光らせているから、だからオレアレンス国への出張を言い訳に、リアン叔父さんに頼んでブルクハウセンの舞踏会に呼んでもらったんだ。後で父上には大目玉を食らったけどね」
ルイ兄様······そんなに私のことを心配なさってくださってたのね。なんてお優しいのかしら。
「あいつ、嫌がるレフィを無理矢理傍においてるんだろ? 知ってるよ。ずっと知ってて僕は手を出せずにいたんた。でも、レフィが目の前で泣いているのに、僕はこれ以上見て見ぬふりは出来ない」
「兄様、何を言って······」
「今からエリアス・クラインを一発殴りに行く」
「に、兄様?!」
今まで見たことがないくらい厳しい顔をしたルイ兄様は、その細腕でぐっと拳を握りしめた。




