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4.王太子殿下のお願い

 


 一階の校長室の真隣にある貴賓室は、あるのは知っていても入室するのはこれが初めてだった。


 ここは校内における王族専用の控室だからである。

 古くから貴族階級では使用権限が無いため、王族の許可なしに足を踏み入れることは出来ない。


 部屋の中に案内されると、古くはあるが歴史を感じる重厚な家具と調度品がありさながら城のような部屋であった。

 ランベルト殿下は、上質なソファに腰を下ろすと向かいのソファに座るよう私を促した。


 いや、となりのでっかい人、立ったままですけど。

 私だけ殿下の真向かいに一人座っていいのかしら


「し、失礼致します」


 ドギマギしながら腰を下ろすと、上から降るような視線を感じた。


 チラリと目線を上げると、突っ立ったままの背の高い貴族令息らしき学生が私を睨んでいる。


 な、なんなの? なんで睨むの?

 貴方、初対面よね? 私貴方に何をしたの?

 私、言われた通りに座っただけなんですけど。


 睨みをきかせるその男は、蜂蜜色に輝くセンターパートの髪を肩下まで伸ばしていて、ガンを飛ばすとそれがサラサラと揺れた。深いサファイアブルーの瞳は美しいが、今はビームの如き強い眼力にただ怖さを感じるのみで、酷く居心地が悪い。


 従者が茶器をテーブルに並べ、アールグレイの上品な香りが立ち込めると、ランベルト殿下がまた優しげな笑顔で私に話しかけてきた。


「さて、ローゼンハイン君。丸一年ヴァルテンブルクで過ごしてみてどうでした? 祖国とは言語も違うし、習慣も違うでしょう」


「······そうですね。だいぶ周囲の方々に助けられていますので、なんとかここまで励むことが出来ました」


 上からの強烈な視線を感じたが、そのまま知らない振りをしながら殿下の問いに答えた。


「何か不便とかはない?」

「ございません、殿下」

「王都の街は見に行ったかい? どう? この国は」

「はい、休日に何度か買い物に伺いました。上流階級の店は勿論、平民街においても品揃えも良かったです」

「そう。平民街にも行ったんだ。続けて?」


 にこやかな表情とは裏腹に、試されているのだと私の中の貴族の声が聞こえた。

 でも、何を求めているのかは分からない。

 警備体制もキツイ訳ではなく、殿下が御自ら聞いているということは、おそらく何か犯罪を疑われてとか、罪の尋問するための意図ではなさそうだけど。


 ならば留学生として普通に答えて差し支えなかろう。


「······印象的でしたのは、平民街の子供達ですね。店の近所の子供達が道端に落書きをしていたんです。幼いにも関わらず、皆きちんと文字が書けていました。王都の平民の識字率が高いのですね。それに痩せて淀んだ目の道端に這いつくばった子もいなかった。教育水準か高く、福祉体制も整っていると感じました」



 これは本当に思った。

 今まではヴァルテンブルクの貴族階級の生活しか垣間見ていなかったから、平民街の様子を見て自国との違いに驚いたのだ。


「······君は仕立て屋に出入りしていると聞いたから、てっきり洋服や服飾の話でもするのかと思っていたのだけれど。そうか。周りを良く見ているね」


「洋服のお話を致しますか? ふふ。春になりましたので最近ですと青のダブルストライプのシャツを仕立てましたが······こちら国の仕立て屋は腕が良いですね」


 なんなら私が通っている仕立て屋のマダムは私の男装にいたく賛同し、いかに女性が好むスマートな男性を演じられるか、その服の見た目に惜しみない努力を捧げてくれる。


 私の男装は殊の外女性にウケが良い。


「ふふ······成る程。本当に君はヴァルテンブルク語が堪能だな。こちらの国の人間と変わらないぐらいネイティブじゃないか」


「えっ?! いやいや、とんでもございません!」


 困る困る。留学生エフェクトがあるから、おかしな行動も男装も粗が見えないのに。余計なことを言わないで欲しい。



「どうかな? エリアス」


「俺からは何とも」


「じゃ、決めてしまおう」


 何だ? 何の話だ。

 さっきから立って睨みを聞かせていた仏頂面の男は殿下と言葉を交わすと静かに溜息をついた。


「試すようで悪かったね、ローゼンハイン君。実は君に折り入って頼みがある」


「僕に出来ることでしたら、なんなりと」 


 私はこの国の国民ではない。

 だから、全てをヴァルテンブルクに捧げることは出来ないので、制限付きになるが。


「この仏頂面。クライン公爵の嫡子エリアスというが、こいつの仕事の補佐をしてほしいんだ」


「······補佐?」


「そう。こいつは私の学友でもあり信頼する私の部下だ。つまり、君はエリアスとともに私の仕事を手伝うことになる」


「御冗談でしょう? 私は外国人ですよ?」


「わかっているよ。ブルクハウセン国のレフィ・ローゼンハイン君」


 ランベルト殿下はにこやかに微笑んだ。



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