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33.回顧 sideエリアス 4



「レフィは、本当は女ですよね?」


 学校の合宿が終わると衝動のままに、俺はランベルト殿下に詰め寄った。


 殿下は鼻息も荒く現れた俺を黙って見ていた。


「······本人がそう言ったのか?」

「いいえ。でも、そうとしか考えられないんです」


 殿下は少し考えてから笑って聞いた。


「ローゼンハイン君が例えば本当に女だとして、お前はどうするつもりだったんだよ」


「そんなの······あいつが女なら······俺は······あいつを俺の物に······肌という肌に俺の証を残して、他の男に取られないように俺の腕の中で何度も何度も口づけして、朝から晩まで抱いて俺しか見えないように······」


「待て待て待て······! 先走りしすぎだ!!」


 息するように漏れた本音に、俺の主はドン引きしてため息を漏らした。


「すまない······舞踏会があった頃から、私は分かってはいたんだエリアス。お前の血の能力は、あの時も他の奴らには普通に使えていたから。だから、ローゼンハイン君に害意は無いと理解して王城で仕事をさせたんだよ」


「······違うと、思いたかった······だって、男しかいない学校に、男の格好して、男として居たんです。そんな訳ないって、俺の理性が絶対に首を縦に振らなかった」


「でもお前の中の獣は、ローゼンハイン君を『歌う者』とだと認めたんだな?」


「認めるどころの騒ぎじゃありません。欲しがって暴れて狂いそうです」


 ランベルト殿下は頭を抱えながら、深くため息をついた。


「私からローゼンハイン君のことは何も言う気はないよ、エリアス。ただ······」

「なんですか?」

「下手に騒ぎ立てるな。本人を追い詰めるな。あの子はわかっててあの学校に居るんだ。周囲に気づかれれば、居場所なんか直ぐに失ってしまう。身の安全の確保を最優先にさせるために本人にも口外禁止にしているんだ。あそこの教師連中がどれだけ神経を尖らせて狼共から守っているか、お前は知らんだろう? 心の置き場が無くなれば、あの子は自らこの国を離れてしまう可能性だってあるんだ。それを心に留めろ」

「······はい」

「時期が来たら私も動く。教師陣への周知もそれからだ。それまでは水面下で動け。私の名前を使うのを許そう」

「感謝いたします」

「仕方ないさ。うちの忠犬がまともに働けるのは、『歌う者』がいてこそだ。父上から聞いてはいたが、全く。厄介な血だ······。オモチャを見つけた犬は手に負えん。だが、忠犬の望みならば何を差し置いても叶えてやるさ」



 殿下はいつもより随分と甘い裁断を下していた。

 これはもう、レフィが女だと言っているも同じなのに。


 殿下がこれだけ甘いのは、俺を暴走させないためだろう。王家の番犬クライン家の暴走は、国家の暴走に、王家の危機に等しいのを彼は誰より理解している。 


 いつもよりだいぶ緩い手綱に俺は笑い、そのまま最近レフィに隠れて学んでいたブルクハウセン語の本と辞書を引っ張り出した。


 学んでみると、皆が言うほど難しい言語ではない。発音はまだ未熟だが、筆記はかなりマスターしたと言えよう。老年とはいえ大学教授に日々教えを請うたかいがあった。


 ヴァルテンブルク国の紋章が入った質のいい紙に、丁寧に書き込んでいった。


 宛先は未来の舅、ブルクハウセン国ローゼンハイン伯爵。


 数日後、伯爵より届いた文書に俺は笑った。心の底から。


 俺が書いた「来たる舞踏会におけるローゼンハイン伯爵令嬢のドレス製作について、ご相談申し上げます」の返答は、「我が娘、レフィリアーナのドレスについては当家にて製作致す所存です。ご配慮感謝致します」と回答されていたからだった。


 いつかの舞踏会で、ローゼンハイン伯爵がブルクハウセン語で呼んでいた聞き覚えのある単語。やはり、聞き間違いなんかじゃなかった。


「やっと真実を手に入れた」


  『レフィリアーナ』の文字を指でなぞるとゾクゾクと体の芯が喜びに震えるのを感じた。


「·····ごめんな、レフィ。俺はお前の父親ほど優しくないんだ」


 彼女は俺が真っ白な人間だと言っていたけど、レフィはいつまで俺が清廉潔白だと信じてくれるだろうか。


「絶対に逃さない。誰にもあげない。必ず掴まえてあげるから、待ってて俺の愛しい人」




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