3.目をつけられた男装女子
「君、ローゼンハイン君だね?」
放課後の廊下で、思わず素っ頓狂な声が挙げそうになった。
同じ校舎にいるのは存じ上げていたが、まさか直接声をかけれるなんて。
「ランベルト殿下······!」
目の前にいたのは、この国の最上位の一族。ヴァルテンブルク王家の一人であり、次代の国王、一つ上の学年にいらっしゃるランベルト王太子殿下だった。
急いで頭を垂れた私に、「顔をあげて」とニコニコと笑う彼は、王家特有のシルバーブロンドの髪を長めのショートカットに揃え、エメラルドグリーンの美しい瞳を輝かせながら、隣に背の高い生徒と、私と同じくらい背丈の小柄な従者らしき男性の2人を従わせ、私に歩み寄った。
「初めまして。ヴァルテンブルク国王太子のランベルト・ヴァルテンブルクだ。改めて君の名を伺っても?」
「お初にお目にかかりますランベルト殿下。ブルクハウセン国ローゼンハイン伯爵家の······レフィ・ローゼンハインにございます」
なんとなんと。
このヴァルテンブルクの王太子殿下が、何を思ったのか私に話しかけてくるなんて。
『令嬢レフィリアーナ』ではなく『留学生レフィ』として挨拶をしたが、予想だにしていなかった突然の出来事に、思わずトラウザーズの裾を引っ張りカーテシーをしようとして、はっと我が身の様相に気づき慌ててボウ・アンド・スクレープに切り替えた。
しまった。
気付かれただろうか。
一瞬の出来事とはいえ、見慣れた挨拶にランベルト殿下は不審に思ったかも、と顔色を伺ったが、彼は動じる様子もなくニコニコと笑っていた。
「うん。ブルクハウセン国とは仲良くしたいしね。君の留学を私も歓迎しているよ」
「あ、有難うございます」
何だ?
留学を始めたのは一年前よ? 何を今更······
不審に思う私を余所に、彼は「貴賓室に来てもらえるかい? 少し話をしよう」と私に言い、私はそれに従った。