27.心配
ブルクハウセン国国王陛下がランベルト殿下と共に現れ、拍手に湧いた会場内で、エリアス先輩に来たときの笑顔は無く、普段の仏頂面のまま両国のスピーチを黙って見ていた。
今日はランベルト殿下の通訳には叔父上がたたれている。笑顔のランベルト殿下が今二国間の熱い友情について触れると、また大きな拍手が会場に響いた。
喜びに湧いた会場で、眉を寄せたままのエリアス先輩を見ながら、私は先輩の服の裾を少し引っ張った。何と言って声を掛けたらよいか分からず、引っ張ったはよいもののただ先輩の顔を見上げたままだった。
「······レフィ······」
私を見た先輩の瞳は、さっきとは真逆だった。
ギラギラとした輝きは無く、静かで光の届かない水底のように揺らいでいるだけだった。
スピーチの後ランベルト殿下に従い挨拶周りに向かおうとしたが、叔父上が「今回は私が引き受けるよ。せっかくだからレフィはエリアス君と楽しんでおいで」と追い返されてしまった。
ランベルト殿下もこちらにアイコンタクトを送ってきて、私には分からないけどエリアス先輩はコクリとそれに頷いて一礼した。
「エリアス先輩。今回僕、全然働いていないのですが良いのでしょうか······これじゃあ、ついてきた意味が······」
「いいんだレフィ。······それよりも踊ろうか? 前みたいに」
口角を上げてはいるものの、未だ少し表情の暗い先輩に、私は少し考えていると、向う側のテラスが視界に入った。
「先輩······テラスに行きません?」
「テラス?」
「秋に咲く有名な花があるんです。ヴァルテンブルク国には無かったと思うんですけど。確かテラスに植えてあったはず······せっかくだから先輩に見せてあげたい」
「······そうか。なら行ってみようか」
私達はこっそりとダンスフロアを抜け出してテラスに出た。




