25.視線の先
ブルクハウセン王城のホールは数回入った程度だが、今日はいつもより綺麗に見えて、何となく嬉しい。
多分、隣にいるエリアス先輩が笑ってくれているから。
「貴様」と呼ばれて睨まれた時も、ランベルト殿下の為に一緒にカフスボタンを買いに行った時も、前回の舞踏会ですら、先輩はこんな風には笑わなかった。
私を見る先輩の瞳が、その微笑みが、今まで以上に温かいのを感じているから。
嬉しくて機嫌よく辺りを見回していると、ぐっと腰を掴まれ、反対の手で頬を撫でられた。
「レフィ、こっち見ろよ」
「え?」
顔をあげると、少し潤んだサファイアブルーの瞳が真っ直ぐに私を見つめていて、何だか分からないけど心臓が大きく跳ねた。
「せ、先輩?!」
「今日ぐらい俺を見ろ。俺はずっとレフィを見ているんだぞ」
「いやいやいや、周囲に気を配りましょうよ。ランベルト殿下がいつ来るか分からないのに」
「まだ来ないよ。暫く控室でブルクハウセンの国王陛下と待機してるから」
「何それ、先輩の野生の勘? そんなのいつ出てくるか······」
「まだ平気だから。ほら、顔をよく見せて」
うっとりと見つめながら顎を掬い上げる先輩に、私は顔を真っ赤にした。
なんだ? 今日のエリアス先輩なんか変じゃない?
エスコート役を演じるにしてもやり過ぎだ。
変な薬でもやっているのかしら。
「せ、先輩······なんかおかしくないですか?!」
「おかしくない。レフィを見ていたいだけ」
「どこぞの軟派師の台詞みたいですよ? どうしちゃったんですか?!」
「どうもしない。お前が美しいのがいけない」
かぁっと顔面が熱くなり私は視線を反らした。
この人、イマイチ自分の破壊力をわかっていない。
こんな蜂蜜色の綺麗な金髪に、サファイアブルーの輝く瞳、整った鼻梁と唇。
まるで絵画にいる天使様みたいだ。
ただこの天使様、普段は仏頂面だし、ランベルト殿下に対してピュアピュアだけど、すぐ怒るし、真っ直ぐで頑固な人だ。
ずっと殿下にぞっこんラブだから気にしなかったけど、この人、絶対に女受け間違いなしの貴公子面なのだ。うちの学校は男ばかりなので確かめる術はないのだけれど。
顔から火を出してあっぷあっぷしていると、突然名前を呼ばれて私は振り向いた。
「レフィ!」
見慣れた栗色の髪を靡かせた青年が、私のもとに手を広げて歩いてきたので、嬉しくて私も名前を呼び返した。
「ルイ兄様!」
エリアス先輩の腕から手を離し、私はいつものようにルイ兄様の元に駆け寄って笑いかけたが、後ろの先輩が般若の顔をしていることを私は知らなかった。




