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23.次の舞踏会に向けて

 


 合宿が終わると、ランベルト殿下から次はブルクハウセン国での舞踏会がある為、そちらの準備に取り掛かると言われた。


 ただ今回、王族としてはランベルト殿下だけがブルクハウセン国に行く手筈なので、主たる通訳者である叔父上が殿下と行動を共にすることが多く、私は予備的な立ち位置で同行する予定だ。


 よってやること自体は前回よりは少ない。


 それより心配なのはエリアス先輩のことだった。

 先輩には、何か言われるかと思っていたけど、あの日の夜のことは1度も触れてこなかった。


 仕事中も、相変わらず仏頂面だ。


 だけど、あの日の夜以降何かが変わっていた。

 私を見るサファイアブルーの瞳がとても優しいのだ。


 かつて睨みをきかせていた私に、何故こんな目を向けるのか分からない。


「レフィ。今日の分終わったか? ほら、見せてみろ」

「まだ終わってませんよ!」


 相変わらず仕事の後には、私の宿題を見てくれているし、以前と変わらず礼儀の欠けた私の口調にも対応してくれている。


 でも、ふとした一瞬、先輩がじっと私を見ている時がある。


 女だと、バレた訳ではないと思う。なんの追求もないし、殿下の時のように圧力をかけてくる訳でもない。何のアクションもないのだ。


 何だろう。

 最近忙しくて殿下とのラブサポートが少し控え気味なのが、気に入らなかったのかな。


 また、新しい斡旋品を探さなきゃと考えていた時だった。




「ローゼンハイン君、ちょっとちょっと」


 エリアス先輩が叔父上のところに書類を届けに出ると、ランベルト殿下は私を執務机の前に呼び寄せた。


「何か?」

「約束は守っているよね?」


 約束。

 殿下との口約といえば、あれだ。私の性別の話である。


「守ってます」

「そう。じゃ、これからも頑張って。ああ、ブルクハウセン国での舞踏会も、前と同じく女装してね」

「······ランベルト殿下。わざとやってます?」

「何が?」


 平然と笑みを浮かべる殿下に私は少し眉を寄せた。


「こんな事、何度もしてたらエリアス先輩にバレてしまいますよ」

「なんでそう思うの?」


 美しく唇で弧を描く殿下に、少し苛立ちを覚えた。


「合宿で······チェストプロテクターを見られてしまいました。何事もないようなふりをして押し通しましたけど不審に思われたと思います。だから、わざわざ先輩をこちらから触発するような真似は······」

「じゃあ君は、自国の国王陛下の前で男装するかい?」


 国王陛下、と言われて言葉は口から出なくなった。


「今回ヴァルテンブルクからは私とリーネル侯爵が出るけど、勿論君のお父上も来るよ?」


「······っ」


「君の性別を知っている衆人環視の中、私という外国の王族に張り付いて、自国の王族に礼を欠き、君は男装し続けることが出来るかい?」


「············!」


「私が意地悪に見えるかい? どちらかというとこれでも配慮しているんだよ。平民の学生達を騙すゲームのノリで諸国の国王陛下の前に立たれてはこちらが困るからね」


「······はい」


「ただ、エリアスについては別だ。あいつは君にとっては学校の先輩だろう? 興味本位だろうと何だろうと、君が始めたゲームだ。君からはルールは変えさせない」


 ぐうの音も出ない。


「もし、約束を違えるようなら、学校は辞めてもらう。その後は全て私の指示に従ってもらうから、そのつもりで」


「······承知致しました」


 話せば退学······か。

 留学ビザで滞在している私は、退学が決まればそのまま国外へ追放されるだろう。もう、この国にいることも出来ない。


 きっかけは書類上のミスだったとしても、性別を偽ることを始めたのは私の方で、私の我が儘に周囲も学校の先生方もただ巻き込まれただけだ。元の原因は全て私だ。


 私の立場も、交友関係も、ランベルト殿下は全て把握されている。そのうえで私に「女装しろ」と言っているのだ。


 ランベルト殿下が正しい。


 私は、嘘の罪悪感から逃れたいだけ。


「ドレスは君の実家で作るそうだよ。採寸だけはこちらで行うから、明後日この前と同じ部屋に行きなさい。エリアスには私から言っておくから」


「······有難うございます」


 一礼をして、私は私の机の前に戻って帰り支度を始めた。エリアス先輩が戻って来たら挨拶はしないと。

 ······どんな顔をすれば良いのだろう。


「ああ、ローゼンハイン君。一ついい忘れてた」


「······何でしょうか?」


「エリアスは無垢な子供なんかじゃないよ? この大国ヴァルテンブルクで、一癖も二癖もある貴族の中でも筆頭の公爵家の令息だ。クライン家の嫡子はね、君が思う以上にポテンシャルの高く、同時に酷く厄介で扱い難くて、貴族連中が絶対に出し抜けない強さを持っているんだよ」


 あのエリアス先輩が?

 あんなにチョロくて、真っ直ぐな人なのに、殿下は何を言っているのだろう。


「だから安心しなさい。君は君のルールを守ればいいさ」


 ランベルト殿下の言った意味はわからなかった。


 ただ帰り際、そっと手を重ねるエリアス先輩の熱が、酷く胸を苛んだ。




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