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22.嘘と真実

 


「なんで······胸当て(チェストプロテクター)なんかしているんだ······?」


 大きく見開かれた先輩の瞳を見た瞬間、私の心臓が大きく跳ねた。


「これ、剣術用の······」


「······っ!!」


 胸元をじっと見られていたことにやっと気づき、私は先輩の手を強く振り払い、Tシャツを下まで下げた。


 ドッ、ドッ、と心臓が強く音を立て、体中に反響している。


「······ご、護身用です······っ」


 喉の奥から出てきた声は酷く掠れていて、私は自分を守るように両手で体を抱き締めた。


 落ち着け······落ち着け······!


 見られたのはチェストプロテクターだけだ。


 鎖骨下から胸元一体を、白く皮に似た特殊な生地で覆う私の胸当ては、一見しても女の胸かどうかなんて分からないようにちゃんと肌をカバーしている。


 さらに私の体型に合わせて元から男装用にオーダーしているので、内側から弾力性のある厚手の特殊なスポンジを使い形を整え、外側からはパッと見平らに見えるようにつくられている。


「い······一応貴族の家の出なので、親が心配して······」


「············レフィ」


 怖くて先輩と目が合わせられない。

 心臓が痛いくらいに鳴っている。



「······俺に、隠していること、無いよな?」


 ドッ、と生まれてから一番強く鼓動が響いた。 



 エリアス先輩────······



 眉を下げて、伺うように見つめるエリアス先輩のサファイアブルーの瞳は、真っ直ぐで、一欠片の汚れもない。


 先輩はいつだってそうだった。

 真っ直ぐで、ばか正直で、嘘がつけなくて。

 貴族のくせに、まっさらで。


 私は、先輩に嘘をついている。

 私は、先輩を騙している。


 こんなにも汚れの無い綺麗な人に、私は、私が持った興味本位の欲の為に、一番の秘密を見せられない。


 だけど、

 教師は知っている。

 ランベルト殿下も知っている。

 叔父上も、ルイ兄様も。


 私の大事な人の中で、先輩だけが。

 先輩だけが何も知らなかった。


 もし、今は私がエリアス先輩に真実を伝えたら······



 ────『決して自分からは言ってはいけないよ』



 ランベルト殿下の言葉が、頭を掠める。


「······有りません」


 振り絞るように出てきた言葉を否定するかのように、私の瞳から涙が溢れた。


 ────ごめんなさい、エリアス先輩。


「······わかった」

「······っ」

「濡らして悪かった。部屋まで送る」


 顔を上げられないまま、私は濡れたジャージを絞り、先輩に送られ部屋に戻った。


 涙は止まらなかった。

 留学して1年半、私は初めてこの国で泣いた。



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