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20.合宿 5

 


 ホテルでの夕飯は、ジャージに着替えて屋外炊事場を使ってのバーベキューだった。


 6人一組でのクラスメイトとのバーベキューは思いの外美味しくて、「レフィは貴族令息の癖に意外と食うのな」と皆に笑われてしまったぐらいだ。


 炊事場で食器を分担で洗ったあとは、広場でキャンプファイヤーをやっていた。


 若者と火が一緒になると、皆テンションが上がるのは何故だろう。

 踊る者や歌うものが出てきたが、九時半までにホテルの各居室で点呼が取れればそれまでは自由時間なので、皆舞い上がる炎を見ながら寛いでいた。


 そんな中、私も浮かれる皆に触発され、一人こそこそと海まで足を伸ばしていた。


「わー! 夜の海だー!」


 潮風を浴びながら、昼間は皆が泳いだであろう砂浜で、寄せては返す波の中にポチャリと足を突っ込んで遊び始めると、思いの外楽しくなってきた。


 本音を言えば、クラスメイトと水泳をやってみたかった。性別さえ一緒であれば、気兼ねなく笑って海に入れたのに。残念だったな。


 足の指に入り込む砂の感覚は独特で、足首まで浸かる海水は少し冷たかった。


「ふふ、ルイ兄様とはいつも湖畔でやってるけど、こういうの砂浜では初めてだな」


「ルイ・リーネルとは随分と仲が良いんだな」


 暗闇から声がして、振り返るとエリアス先輩が立っていた。


「びっ······くりしました。急に暗闇に現れるんですもん、どうしたんですか?」


「夕食後、お前をずっと探してた······他の奴とキャンプファイヤー見てるとか、許せないし······」


「許······?」


 何だろう。私は他者と火を見ちゃいけないとか、仕事の誓約書に書いてあっただろうか。それなら私はコックにはなれないな。なる気は無いけど。


「こっちの方にいる気がして······見つけたら、ルイ・リーネルのこと思い出してるみたいだし······」


「先輩、犬ですか。気配だけで僕を探し当てたとか、あり得ないんですけど」


 確かに殿下の忠犬感は強いけれども。

 私はくすくす笑ったが、先輩は眉を寄せて苦しそうに顔を歪めた。


「レフィ······俺は、おかしくなったのかな」

「どうしました? 肋骨痛いですか?」

「ずっと、俺はランベルト殿下のためだけに生きてきた。殿下に言われるまま、殿下の利になるように」

「あー······そうですね。エリアス先輩、殿下大好きですもんね」


 エリアス先輩の殿下ラブは最早私の中では常識でありルールだ。

 だから、先輩の想いを私は陰ながらずっと応援してきたし、ランベルト殿下からの仕事の無茶振りだってエリアス先輩の為にも頑張ってきた。


「でも、レフィ。俺は最近、ずっとお前のことを考えてる」

「え。僕、何かしましたっけ」


 エリアス先輩はもしかして、私が何かしでかしたと思っていたのか? だから四六時中私のことをを考えて、疑いつづけていると、そういうことか?


「ずっとレフィの顔が頭から離れない。考え過ぎて、朝稽古で肋に打ち込まれてヒビが入ってしまうくらい······」


「すみません! その肋のひびは、僕のせいだったんですか!!」


 まさかの事実に私は慌てた。 

 そんな上の空になるぐらい私は何かやらかしていたのか。


 なんだっけ!?

 何したっけ!?


 アワアワと焦っていると、エリアス先輩は靴を投げ捨て、裸足になって海に入ってきた。


「え、先ぱ······?」


 その瞬間、腕を掴まれて、力一杯引っ張られた。

 バランスが崩れ、私はそのまま先輩の胸によろめいた。



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