2.おかしな留学
るんるん気分で入国した私だったが、留学予定のヴァルテンブルク王立第1高等学院に到着後、直ぐに問題が浮上した。
なんと、学校側には私の性別は「男」として報告されていたらしい。
「大変申し訳無いです、レフィリアーナ・ローゼンハインさん」
対応してくださった校長先生と数人の教師は皆頭を下げてくださったが、私としては別に頭を下げずとも普通に入学出来れば全く問題は無いのだ。そう伝えたが、校長の顔色が悪くなった。
「この学校は、昔から王侯貴族の通う伝統校ではありますが、見てのとおり建物はとても古いのですよ。最近女子校が複数新設され、設備や警備、淑女教育の観点から国内の令嬢方は皆そちらに進学を希望するようになり、今はすっかりここは男子校化してしまいました。実は現在女生徒は一人も在籍していないのです。共学なのは肩書だけの状態で······」
脂汗をたらたらと流しながら話す校長はさらには頭を抱えた。
「今から他の公立校に調整できるか······いや、貴女は留学生であり、国外の貴族子女だ。下手な学校へ行かせる訳にも······しかも既にブルクハウセン国には学校名も報告されてしまっているし······」
「別にこちらの学校のままで構いませんよ? 女一人でも在学を認めて頂けるんですよね?」
「いや、しかし流石に女生徒一人だと貴女も不安でしょう? それに淑女を年頃の男達の中に放り込むというのも······」
「淑女に見えなければ良いのでしょうか? ならば男装をしましょう。私、男装は得意なんですよ。校内でも男として過ごせば問題無いですよね? 校長先生」
「ロ······ローゼンハインさん?」
まさかこんな大っぴらに男装するなんて思わなかったけど、本国では有り得ない境遇を目の前に、私単純に喜んだ。だって面白そうなんだもの。
これなら脱走なんてしなくとも楽しい日常が送れそうだ。
先生方はかなり心配をしていたが、学校が始まると私は何の問題も無く他の生徒に受け入れられた。
いや、これは私の類稀なる男装技術と、堂々とした態度が功を奏していると言わざるを得ない。
だって周囲は誰も私を女だとは、疑いもしない。
長い腰まである亜麻色の髪は、肩下で括り、緩やかに流して気品ある上流階級の子息感を醸し出しているし、なんてったって数年前から男装し、男を演じているのだ。
実践経験は誰よりも積んでいる。
胸を潰すのも慣れたものだ。
特注のはチェストプロテクターは剣術用の物だが、敢えて見目を平らに作らせたお陰で、サラシ無しに胸を平らにできるのだ。
そもそも昔っから私はドレスよりも男物の服の方が好きだった。
動きやすいし、呼吸もしやすい。私には幾重にも重なったレースのドレスより、折り目の美しいトラウザーズの方が向いている。
別に男になりたい訳ではないのだが、ビスチェもコルセットもしない、ヒールも履かない生活は本当に楽だし、淑女としてうんたらかんたらと小言を言われることがないと、このまま男として一生を終えてもいいと思ってしまう。
多少おかしなことがあっても「僕、留学生なので☆言葉遣いも行動も少し変わってるかもしれないけど、多めに見てくれると嬉しいな」と笑顔で伝えると、皆何も考えず納得してくれる。
いやいや、留学生エフェクトって楽ちん。ホント有り難い。
校長先生と寮監からは「私達も注視しますが、自分から決して女であると明かさないでくださいね」と事あるごとに何度も念押しさせられた。
でも、こんな楽しい生活、誰が自ら手放すものか。言う必要も伝える必要もない。
そんな順風満帆な男装生活を丸一年終えた春、私は何故か彼らに目をつけられたのだった。